第六夜 ③
☆
「いやー…驚き過ぎだろ…」
呆れたような遠い目をしながらアイザックは紙パックにストローを刺していちごミルクを飲んでいる。その隣で顔を埋めて座っているのがエラ。
「忘れて…」
自分以外にも転生者がいたことに驚いたエラは声がひっくり返る程驚愕の声で叫んだ。それが恥ずかしくなってきた所だ。
…だけど、これは朗報…よね。
「…それで、アイザック」
「ん?」
「私に話があって来たのよね?話してくれない?転生者かどうかの確認だけ…じゃないわよね」
エラは彼の目的を確認する。
「ああ、話が早いな、あんた。俺は橘誠、十九歳。あんたは?」
「私は秋葉紗夜、二十二歳だったわ」
「じゃあお互いに大学生だったわけだ。まぁ、ややこしいからこっちの名前で呼ぶぞ。…さて、エラ。俺がここに来たのは他でもない。転生者同士の記憶の擦り合わせだ」
「擦り合わせ…?確かに、可能なら有り難いわ。…何せエラの記憶は朧気で…」
「なるほどな。じゃあ、まずはゲームのシナリオのことだな。この時間軸が六週目だってことは…」
「判ってるわ。…ここがエラにとって最も最悪なシナリオだってこともね」
エラは三角座りをしながら遠い目をした。そんな彼女と隣に座るアイザックは記憶の擦り合わせという事でお互いの持っている情報を共有する。
第一にこの世界が乙女ゲーム「魔法学園 時のノクターン」の舞台であること、そして既に主人公と隠しキャラを含めた殆どの攻略キャラクターが出揃っていること、この世界線がイオニコフルートであること。この三つは確認出来た。これらの中でエラが驚いたのは通常攻略対象のうちキース、イドラの他に二人の攻略対象キャラクターとリチアが接触していたことについてだった。原作と違いなるべくリチアとの接触を避けていたので知る由もなかった言えばいいか。同級生二人以外で既に接触があったのは後輩と先輩という立ち位置にあたる。
「聖女様が既に接触したのは後輩のエミーユ・ミッドナイルと先輩で生徒会書記のギザイア・メイクス、この二人だ。もう一人残ってるローレンは教育実習生だから登場は夏休み明けだな」
「そう…エミーユとギザイア…確か、ギザイアの方はイベントにエラが絡むことはほとんど無かったわね。というか面白いくらいに入れ違いだったはず」
「ああそうだ。エミーユは度々聖女様の教室に顔出すはずだから…好感度次第でエラとの接触は有り得そうだな」
「そうね…。確か…エミーユって正体が天使族って話じゃなかった?まぁ個人ルートでハッピーエンドにいかない限り知ることのない設定だったと思うのだけど」
「だな。エミーユが天使族でイオニコフはエルフだった。そんでギザイアが…竜人族…だったはずだ。まぁ、ファンタジーあるあるだよな、この設定」
「そうねぇ。どれもあるあるよね。プレイしてるときから思ってたことだけど、時ノクってなんか個人ルートで判る裏設定みたいなの多くない?しかもどれも取って付けたようなさぁ。って…貴方男よね?プレイしてたの?」
ここまで色々と話しておきながらエラは訝しげな目でアイザックの顔を見る。その視線にアイザックは肩を竦めた。
「おいおい…男でも乙女ゲームくらいするだろ今時。女だって男主人公の恋愛ゲームするだろ?同じことだぞ。ちなみに言うと俺は全スチル回収済みだ」
ニヤリと自慢げに笑って見せる。エラは目を丸くしてからアイザックのドヤ顔を見てクスクスと笑う。
…まさか、この世界でこんな風に笑えるなんて…。安心して話せる相手も…。
「…頼もしいわね。…じゃあ、シナリオは覚えてる?ここはイオニコフルートだというのはさっきも話したけど、さらに言うとこの世界、最も最悪なルートに入ってるぽいとも…」
エラが遠い目をしながらぼやいた。




