第六夜 ②
☆
ザァ…。
チュンチュン…。
生い茂った木々の向こうに佇む旧校舎。日中でも人が寄り付かないそこはイオニコフの寝蔵でもある場所。古い造りの寂れた旧校舎に好んで近づく人間はあまりいない。だから静かに誰にも邪魔されずに過ごしたいならぴったりの空間だった。
エラは手土産にクッキーを持参して旧校舎までやって来たが家主の気配は無かった。
…新校舎の方かな?しまった、そういや今がどの時間か確認してなかった。もしかして授業中?リチアの所に顔出してる?いや、でも今日は休みの日じゃ…。
生憎この世界にスマートフォンもなければ腕時計という概念も無かった。建物に取りつけられた時計で確認するか精霊か妖精に尋ねることでしか現在時刻を知る術がなかった。
その事を知った時には開いた口も塞がらなかったものだ。じゃあこの世界の者はどうやって生きてるんだよと突っ込みそうになったが、時刻を告げる「響鐘」と言う魔法道具が存在しており、それが決まった時間になるとチャイムのように鳴り響く。外に出掛けている時はこの響鐘の鳴った回数などで判断することになる。魔法に溢れた世界でありながらこういう部分は科学の方が上だなと思ってしまう。
…さて、どうしよう?戻ってくるまで待つかそれとも…。
旧校舎の前で頭を唸らせているときだった。その背中に声が掛かる。
「…こんなとこで何やってんだ?」
エラは一瞬、イオニコフが帰って来たのかと思い勢いよく振り向いた。だが、そこに立っていたのは…。
「アイザック…どうしてあなたがここに…」
脇役のアイザック。物語上さほど大きく関わってこないはずの人物が目の前に現れた。エラは警戒して後退る。
だが、アイザックは気にした様子もなく話し掛けてくる。
「どうしてって…見掛けたからついてきたんだよ。話があったからな」
「話…私に?」
脇役の彼に一体何の話があると言うのだろう。全く知らない展開にエラは戸惑う。そんな彼女に耳に驚くべき台詞が入ってきた。
「なぁ、灰かぶりのエラってさ、別名があるの知ってるか?」
アイザックは腰に手をつきながら淡々と質問をしてきた。しかし、この質問の意味をエラは理解出来なかった。だから答えられない。そんな彼女を見てアイザックは少し小首を傾げたがそのまま話を進める。
「…あれ?知らないか?…じゃあ、その別名、シンデレラって言うんだけど、これは知ってるか?」
その言葉にエラは大きく目を見開いた。
「シンデレラ…?ってあのシンデレラ…?」
「他にどんなシンデレラがあるんだよ」
…どういう事?シンデレラって…この世界にあったっけ?
「おかしいと思わないか?灰かぶりのエラの別名がシンデレラ、だぜ。ただの主人公の取り巻き一人にそんな意味深な呼び名を付けるなんてさ。しかもこの世界じゃその灰かぶりが蔑称扱いときたもんだ。製作者の用意した伏線って言うか…」
その言葉にエラは大層驚いた。
…主人公の取り巻き…?意味深な呼び名…?
「まるで聖女様よりも灰かぶりのエラがお姫様設定だったって言ってるようじゃねぇ?」
…エラがお姫様…設定…??設定って……まさか…!?
そう話すアイザックにエラはわなわなとしながら指を差して叫んだ。
「あ、あなた…転生者!!!?」




