第五夜 ②ー4
「はぁ…はぁ…」
見上げると森の木々の隙間から燃え盛る炎が見える。エラはその炎とは離れた方向へ向かって走っていく。生い茂る木々や雑草で擦り傷が身体中に出来る。無作為に走れば枝などで肌に傷が出来るがそんなことに構うことはなかった。
…確か…この先に…!!!
最も燃え盛る部分から少し離れた森の開けた場所。そこに空洞のある樹の幹がある。その中にうっすら光り放つ生き物がいるはず。
「いた…!!!」
バッ…!!と茂みの中から飛び出したエラの瞳には期待する存在が映った。
グルルルル…。
エラの姿を捉えたその生き物は警戒して唸り声上げる。獰猛な四本足の獣で鬣と尻尾が赤く燃えていて威嚇しているため鋭い牙が剥き出しになっている。
「…見つけたわ…。やっぱりここにいたのね…」
エラは腕捲りをして燃え盛る獣を捕まえる。だが、当然、獣は抵抗し引っ掻いたり噛み付いたりして暴れてしまう。それに燃え盛る生き物からは熱気が襲い、徐々に肌や髪が焼けてくる。
ガッ…!!!
「…ッ!お願い…大人しくして…ッ!」
グルルルル…ッ!ガウ…ッ!
エラは暴れる獣を抱き押さえて後ろ足を確認する。
…やっぱり、怪我してる…!!ゲームと同じだわ!
ゲームの展開ではこの小さな炎の獣がキーパーソンだった。だからこの子さえ…。
そう、エラが格闘しているとその背中に声が掛かった。 ぎょっとして後ろを振り向く。そこに立っていたのは…。
「…オーデルセン様…」
…何故、彼がここに…。
「突然駆け出して行ったから追いかけてきたんだけど…キミ、一体何をしているんだい?」
この状況を飲み込めないイオニコフは困惑した顔だ。それもそうだ。女子生徒が一人、魔物とも呼べる燃え盛る獣に怪我をさせられながらそれでも必死に捕まえているのだから。
イオニコフに気を取られたエラを見て獣は彼女の腕に思いっきり噛み付いた。腕を引きちぎらんとする程に。
「…ッ!!!!!!」
強烈な痛みにエラの顔が苦痛に歪んだ。泣きたくなるほどの痛みに傷口から溢れ出す紅い鮮血。食い込んだ牙。今までの人生で一度だって味わったことのない痛みに悲鳴を上げそうになった。
「エラ…!!!」
そんな彼女を見たイオニコフが獣を殺さんとして魔法の構えを取った。だがすぐにそれをエラが止めた。
「…ッ!オーデルセン様!!お止めください!」
「!?」
およそ今まで聞いたことがないくらい真に迫った声。痛みに耐えながら、泣くのを我慢しながらこちらを睨むエラの姿にイオニコフも炎の獣もたじろいだ。
「…オーデルセン様、貴方ほどの大魔法使いなら治癒魔法は容易いですわよね」
…シナリオには無かったけれど、ここに彼がいるなら使わない手はない…。
「この子の怪我を治してやってくださいませ!!」
肌も髪も焦げ付き、火傷になっている部分もある。全身は擦り傷だらけで、中には大きな爪で引っ掛かれた傷もある。泥と血で染まる少女。極めつけは噛み付かれ真っ赤に染まった左腕。そんな姿になっても獣を捕らえて離さず、獣の治癒を希望する。
「エラ…キミは一体、何をしようというんだい…?」
イオニコフはただただ困惑するしかなかった。




