第五夜 ②ー1
…ねえ、エラ。貴女は何を望んだの?
…何を思って、生きていた?
心の底に問い掛けた所で返事はない。当たり前か、と小さい溜息をついてハタと考えた。そう言えば、転生ものでは大体話の途中だったり成長過程から記憶を継承したり入れ替わったりと言う展開が目立つものだが、それでは本来の人格、魂は何処に行くのだろうか。こちらが転生する前の人格は、何処へ消えた?
「おい!エーデルワイス!!」
思考の沼に嵌まり込んでいたエラの意識を引っ張り上げたのは、アイザックだった。ぐいっと腕を後ろに引かれて気がついた。何事かと思ったが目の前には樹の幹があった。あとちょっとで顔面にぶつかるところだったようだ。
「…!?」
「…ったく。何やってんだよ」
呆れたようにアイザックは言う。
「それよりも、お前、何かおかしくないか?…なんか言いづらいんだけどよ。俺の知ってるエーデルワイスじゃないっていうか…」
首の後ろを掻きながら色々納得しかねると言った様子だ。この台詞に驚いたのはエラ。目を大きく見開いた。
…何故、脇キャラがそんなこと…。
「…灰かぶりのエラは泣き虫で虐められたら影で泣いていたはずだ…って?」
「そ、そうだ。少なくとも一年の間はそうだっただろ?春休みの間に何があったんだ…?」
確かめるようなトーンでアイザックは訊ねてくる。エラはこの問いに答える気はなかったが、のらりくらり交わす言葉を口に出そうとした直後、
「きゃあああああ」
と、女子生徒達の悲鳴が聞こえてきた。二人は声のした方を振り向く。林間学校の校舎と飯盒炊飯をしていた広場とは少し離れている。宝捜しをした森と肝試しをする森は同一の森で林間学校側にある。それでもその悲鳴はここまで聞こえていた。
「なんだ…?」
アイザックは様子を見に駆けて行った。エラも後を追い、彼に追い付いて林間学校側に着いた時だ。空が真っ赤に染まっているのを見たのは。
「これは…!?」
メラメラと森が燃えている。その森から数人の学生が逃げ出してくるのが見えた。教師が生徒を避難させ始める。
…一体、何が起こって…。
呆然とパニック状態に陥った生徒達を眺める。幾人かの教師や生徒達が水や地の魔法で火災を消そうと試みるが、一向に消える気配が無かった。
「エラ…!!」
ふいに声が聞こえて振り向く。声の先にはイオニコフとイドラが立っていた。切迫した様子で此方に駆けてくる。
「無事だったようだね…!!」
「え?ええ…」
走ってくるなりイオニコフはエラの手を取った。安堵した様子だ。
エラとしては何故彼がいちいち手を取ったのかがわからないのだがそんな彼女を置いてきぼりに話は進む。
「リチアとキース…二人と一緒ではなかったのか?」
キョロキョロと辺りを見渡しながらイドラが訊ねる。
「あの二人ならさっきまで洗い場にいたぞ。でも俺たちよりは先に戻ったはずだ」
「…そう言えばアイザック、お前何故ここにいる?リチアとペアのはずだろ」
「あーそれか。何か俺じゃ不服だったらしいな。騎士様と代わってくれと言われたんでな俺のペアは…こいつになった」
アイザックはピッ、と親指でエラを指した。イドラはエラを訝しそうに睨む。その視線に気づいたエラはそろりそろりとイオニコフの陰に隠れるようにした。
…ちょっと…!!何でこっち睨むのよ…!!




