第五夜 ①ー4
この世界に転生して、主人公の取り巻き人生を脱却しようと足掻いていたらそもそも自分にとって一番最悪なシナリオに進もうとする世界線だった。その上、プレイしていた時にそれなりに好きだった主人公も推しだったキャラクター達もどいつもこいつも蓋を開けてみれば、という表現がピッタリであったこと。立場が変われば世界の見え方が変わってくる。
ふいに食器を洗う手が止まる。その様子にアイザックが首を傾げた。
「おい?さっきから何黙ってんだよ?」
…何かもう、どうでもいいかな。
自分が関わった事で展開が変わったこともある。けれど主人公が主のイベントでは大きく変わることがない。辿り着く結末はおんなじだ。ゲームよりは攻略対象達に無視はされてはいないと思う。とは言っても彼らが主人公の味方であることが変わることはない。ここにいる学園の全員…いや、この国、世界の全ての人々はエラが魔女として覚醒すれば手のひらを返す。
そういう世界なのだ、ここは。
…そっか…エラは…。
だからエラは魔女として完全覚醒したのだ。断片的に思い出したのは、その瞬間。
信じていた人に裏切られたエラ・エーデルワイスは魔女として覚醒し、学園を襲った後、魔王城へと姿を消した。
この世界で紗夜に救いはないのかもしれない。プレイヤーとして主人公を操作していた時にはエラの気持ちなんてよく考えていなかったことを身に染みて感じる。主人公はいつだって中途半端で残酷な優しさをエラに振り撒いていたんだと。
目の前で起きる虐めは見過ごせないとしゃしゃり出てくるが、こういう良く見ればわかるだろう影の虐めは知らんぷりなのだから。
…私、何やってるんだろう。
こんな世界の生にしがみついてその先に何がある?
元の世界でだって一度は考えたことだが、こっちの世界では重みが違った。
パッパッと手についた水を払う。それから無言で踵を返す。
「お、おい!まだ洗い物が残ってるぞ…?」
アイザックの言葉に反応することなく、既に洗い終えていた分の水を切ってまとめて持ち上げる。それらを返却口に戻す。そこで立ち止まった。
「…貴方の言うとおり。他の班の分まで頼まれたの」
文句も言わずに引き受けた。騒がれたくなかったから。
「でも、もうどうでもいいわ。…私がやらなきゃいけない道理はないのよ。仕事放棄したのはあちらだもの」
感情の無い声。アイザックはエラの後ろ姿を見てゾッとした。嫌な魔力を感じたからだ。
「そうよ…判ってたことじゃない…この世界に味方になんていやしないこと。遅かれ早かれ結果は同じってこと」
呟くように吐いた。くるりとアイザックに向かい合って吐き捨てるように言う。
「所詮、お伽噺はお伽噺なのだから」




