第五夜 ①ー3
「では、よろしく頼む。…リチア、行こうか」
「はい…!二人とも、交代してくれてありがとう!」
エラがよそ見している間に交渉は無事に終わったらしくキースとリチアは嬉しそうに広場へと戻った。その後ろ姿を見送った後、エラは残りの洗い物を片付け始める。
「…おい…!聖女様の手前、交渉は承諾したが、俺はお前とペアになるとか…一切ごめんなんだが?」
背中に掛けられた文句に声の方を振り向いた。洗い場の出入口に立つクラスメイトの男子。腕を組んでムスっとした顔をしている。
一瞬どこのどいつだと思ったその男子は確か「アイザック」と呼ばれていた。記憶の中にあるゲームのキャラクターでアイザックと言えば「アイザック・グラスヒール」その人しかいない。確かイドラ・ハンニバルの友人で名前とセリフくらいしか無い立ち絵無しの設定だったキャラクターだ。
…こんな見た目してたのね…。
顔立ちは中の中、平凡だがかといって見た目が悪いわけでもない。それなりに整ってはいるようだ。まぁ、攻略対象達の顔面偏差値に比べればだいぶ差があるのだが。ついでに目付きが少々悪い感じだ。
と、ぼんやりと考えていたがじとーっとした視線に気づいたエラは慌てて取り繕う。
「あ、えっと…安心してください。私はこれから体調不良になる予定なので」
「は?」
「…ですから、肝試しには参加しません。貴方も好きにしてください。ペアが居なければ自由でしょう」
カチャカチャと食器を洗うエラの後ろ姿を見ていたアイザックは納得しかねる様子でしばらく眺めていたが、ふいにエラの横に顔を覗かせる。
「な、なんですの!?何か不満がありまして?」
驚いたエラがそう聞いたが彼の視線は流しに注がれている。そこには泡立った洗剤に包まれた食器等がてんこ盛りだ。
「…お前…もしかして他の班の分まで洗ってないか?」
アイザックが確かめるように尋ねる。
その質問にエラはどう答えようか迷った。図星だったからだ。
そのまま黙り込むエラにアイザックが追及した。
「…お前、何で他の班のまで洗ってんだ?…てか、もしかして俺の班の分もか…!?」
飯盒炊飯では班の中でそれぞれ役割分担を決めていた。
当然使った食器は班ごとに後片付けするものだが、エラが班の中で洗い場担当になったことが発端でクラスメイト達から押し付けられたのだ。だが残念なことにその事に誰も気付かなかったらしい。先程、ここに来たリチアやキースでさえも、だ。
…こんな脇役が気付くことにも気付かない主人公とヒーローってなんなのか。ゲームじゃもう少しマシだった気がするけど。
もしこの瞬間にも主人公の選択肢があるならば絶対に選ばない選択肢を選んで去っていった。どう考えても好感度ゲームでは悪手に成りかねない。
とは言え、ゲーム内では描かれていないシーンも多々ある。良い場面しかシナリオに無いのであれば実際はこんなものなのかもしれない。
…所詮、お伽噺はお伽噺、か。
何だか急に冷めてしまった。




