第四夜 ②ー2
今一番会ってはならない人物だ。恐怖が体を支配して本能的に逃げることを選択した。だが、
「エラ…!!」
パシッ!と腕を掴まれエラはあっさりとイオニコフに捕まってしまう。そのまま引き寄せられる。
「急にどうしたんだい…?」
イオニコフに捕まってしまったエラは死を覚悟する他なかった。
…バレたら…殺される…!!
ギュッと目を瞑り身を固くする。
「……」
イオニコフの沈黙が怖かった。彼の腕の中に抱かれるような形になっているが、感じるのは処刑されるかもしれないという恐怖だけだ。
だが、口を開いた彼が発した言葉は予想と違うものだった。イオニコフは一度は腕の中に引き寄せたが、エラの両肩をガシッと正面から掴んだ。
「一体、何があったんだい!?髪も泥だらけだしそれに…泣き腫らした目をしているし…足首も捻っているようだし…」
制服や髪に付いた泥をぱちんと指を鳴らして発動した魔法で吹き飛ばす。想定外の反応にエラは呆然とする。目の前にいるイオニコフは真剣な面持ちでぼろぼろな姿だったエラの事を心配しているように見える。
…どういうこと…?まさか、気がついてない?イオニコフ程の魔法使いが…?
困惑した様子でイオニコフの顔色を窺うエラに彼は笑いかける。
「…大丈夫だよ。そんなに心配しなくていい」
エラは彼の言葉の意味が理解出来なかった。だが事はそんなエラを置き去りに目まぐるしく動いていく。
イオニコフがエラをお姫様抱っこで抱き上げる。
「ひゃあっ…!!」
元の世界でだって人生でだって体験したことがない出来事にエラは一瞬頭が白くなる。
「ギーウィ!!」
エラを抱き上げたイオニコフは傍に控えていたドラゴンのギーウィを呼ぶ。名を呼ばれたギーウィは翼で風を起こしエラを抱えたイオニコフごと背中に乗せる。
「さぁ、足の治療もしないといけないし早く皆のところに戻ろう」
イオニコフの合図でギーウィが空高く飛び立つ。そのスピードといい初めての空を飛ぶ体験といいエラは悲鳴を上げた。
「きゃあああああっ!お、落ちるー!!」
「ふふふ…ッ!大丈夫だよ。ボクにしっかり掴まってるといい」
イオニコフは涙目で悲鳴を上げるエラのことがなんだか可愛く見えた。
…こんな表情も可愛いな。
エラがしがみつきやすいようにイオニコフはしれっと抱き寄せる。それに答えるようにエラもイオニコフにしがみついた。ギュッと目を閉じて自分にしがみつく彼女が愛おしく思える。
…それにしても、さっき感じた魔力は…。
腕の中で落ちないように必死にしがみつくエラを見ながらイオニコフの顔にほんの一瞬だけ影が落ちた。
☆
イオニコフとギーウィに連れられて集合場所に着くと、戻ってこないことを心配していたリチアが駆け寄ってきた。キースや同じ班だったイドラも集まってくる。
先生にも遅刻を叱られたが、足首を怪我しているのでリチアに付き添われながら救護室に向かうことになった。その時、エラは周囲を見渡した。
…先にあのクラスメイト達が戻ってきてるはずなのに…誰も何も騒いでない…。どういうこと?あの感じじゃ絶対に騒ぎ立ててると思ったのに…。
リチアに連れられながらエラは首を傾げたのだった。




