第9話 文化祭とずっと一緒
いつも読んでいただきありがとうございます。
文化祭当日。
校内は朝から熱気に包まれていた。
飾りつけ。
呼び込み。
笑い声。
どこもお祭り騒ぎだった。
陽向と結菜のクラスの出し物は――
フライドポテト屋
多数決で決まったらしい。
「文化祭でポテトってどうなんだ?」
陽向が首をかしげる。
「人気あるらしいよ?」
結菜が笑った。
2人は午前中、販売担当だった。
その少し前。
廊下。
黒瀬が陽向に聞く。
「陽向、今日なにやるんだ?」
「ポテト販売」
「結菜と?」
「そうだよ」
黒瀬、停止。
そして。
小さく拳を握る。
「よしっ」
「黒瀬は?」
陽向が尋ねる。
黒瀬は少し顔をしかめた。
「……王道のメイドカフェだよ」
「女の子のメイド可愛いよね」
「そ、そうだな」
一方その頃。
別クラス。
白石も結菜に聞いていた。
「今日どうするの?」
「陽向とポテト販売!」
結菜が笑顔で答える。
白石は静かに頷く。
「決まった」
「白石は?」
「映え教室」
「なにそれ?」
「見れば分かる」
そして。
白石は真顔で言った。
「絶対見に来て。2人で」
「う、うん!」
午前。
ポテト販売は大繁盛だった。
「いらっしゃいませー!」
結菜が笑顔で接客する。
陽向は横で手際よくポテトを揚げていく。
「陽向、塩!」
「はいよ」
「次、ケチャップ!」
「任せろ」
息はぴったりだった。
まるで長年一緒に働いてきたみたいに。
ただ。
たまに結菜がポテトを焦がしたのは、秘密である。
「ご、ごめん!」
「大丈夫、こっち任せろ」
陽向が自然にフォローする。
そのたびにクラスメイト達はニヤニヤしていた。
「もう夫婦だろ」
「付き合ってないとか嘘だよね?」
本人達だけ気づいていない。
そして午前終了。
「陽向、結菜!お疲れ!」
クラスメイトが声をかける。
「午後はゆっくり回ってこいよ」
「いいの?」
「午前めっちゃ頑張ってくれたし!」
こうして。
午後。
2人きりの文化祭が始まった。
綿あめ。
焼きそば。
かき氷。
射的。
ジェンガ。
ビンゴ。
謎解き教室。
どこへ行っても楽しかった。
綿あめを分け合い。
かき氷を一口交換し。
ゲームでは2人で大笑いした。
気づけば。
時間は夕方。
「最後、白石のところ行こうか」
結菜が言う。
「おう」
案内された教室。
そこは幻想的な空間だった。
白い布。
柔らかな照明。
羽や花の装飾。
まるで別世界。
「すげぇ……」
陽向が見上げる。
「綺麗……」
結菜も見惚れていた。
だが。
妙だった。
誰もいない。
客も。
生徒も。
実は。
白石が裏でうまく人の流れを調整していたのである。
入り口付近白い羽を背負った白石が静かに見守っていた。
さらに出口側には。
女装メイド姿の黒瀬。
2人は別の場所で固唾を飲んで見守る。
教室の中央。
陽向が立ち止まった。
「結菜」
「ん?」
少しだけ真剣な声。
結菜の胸が高鳴る。
陽向はゆっくり言った。
「今日でよく分かった」
「……なにが?」
陽向は少し照れながら笑った。
「やっぱり、結菜といるのが一番楽しい」
結菜の頬が赤くなる。
そして。
陽向はまっすぐ結菜を見た。
「これからもさ」
離れた場所。
黒瀬と白石が息を呑む。
「ずっと一緒にいてほしい」
静寂。
結菜の目が揺れる。
顔が真っ赤になる。
少しの沈黙。
そして。
嬉しそうに微笑んだ。
「うん」
黒瀬、確信。
白石、確信。
だが。
次の瞬間。
結菜は幸せそうに言った。
「ずっと親友として、一緒にいたい」
完全停止。
空気が凍る。
だが。
陽向は。
ぱっと顔を輝かせた。
「ほんとか!?」
結菜が頷く。
「うん!」
陽向は満面の笑みだった。
「よかった!俺も結菜みたいな親友、他にいないと思ってた!」
結菜も笑う。
「私も!」
その瞬間。
どさっ。
黒瀬、膝から崩れ落ちる。
白石は壁に手をつき、うなだれた。
そして。
文化祭の喧騒の中。
2人の絶叫だけが綺麗に重なった。
「「何でだよ!!!!!」」
一方その頃。
陽向と結菜は。
そんなことも知らず。
嬉しそうに笑い合っていた。
2人の距離は。
確かに近づいている。
でも。
2人の距離は、確かに近づいている。
ただ。
その気持ちに、まだ名前(「恋愛」)をつけられていないだけだった。
今後もよろしくお願い致します。




