第5話 夏祭りと花火の音
いつも読んでいただきありがとうございます。
夏祭り当日。
「黒瀬、夏祭り行こうよ」
待ち合わせ前。
陽向は当然のように声をかけた。
だが黒瀬は即答する。
「行かないよ」
「なんで?」
黒瀬、停止。
「……こっちがなんで?だよ」
「え?」
「お前、誰と行くんだ」
「結菜」
「じゃあ行かねぇよ!」
黒瀬は頭を抱えた。
「空気読め!」
陽向は最後まで意味が分かっていなかった。
同時刻。
「白石、夏祭り一緒に――」
「行かないよ」
結菜が固まる。
「えっ、予定あるの?」
「ない」
「じゃあなん――」
白石は真顔だった。
「2人で行きなさい」
「ふ、2人!?」
「今さら何言ってるのよ」
結菜は顔を真っ赤にした。
夕方。
待ち合わせ場所。
先に来ていたのは陽向だった。
そして。
人混みの向こうから、結菜が現れる。
浴衣姿だった。
「……」
陽向、停止。
白地に淡い花柄。
いつもより少しだけ大人っぽい。
結菜も陽向を見て止まる。
「……あ」
「……おう」
お互い、少し赤い。
しばらく沈黙。
先に口を開いたのは結菜だった。
「な、何から回る?」
「あ、うん……」
陽向は慌てて視線を逸らす。
「綿菓子とか?」
結菜の顔が少し明るくなる。
「食べたい!」
「じゃあ行くか」
そして。
陽向は自然に結菜の手を握った。
結菜が小さく震える。
でも振り払わなかった。
「いらっしゃい!」
屋台のおじさんが笑う。
「可愛いカップルだねぇ!」
「「違います!」」
息ぴったりだった。
おじさんはさらに笑う。
「これからか!」
2人とも真っ赤になる。
「綿菓子一個ください……」
結菜が小声で言う。
受け取った綿菓子を、2人で分ける。
「食べる?」
「うん」
ふわっと千切って陽向へ。
その距離が近い。
周りのカップル達が、微笑ましそうに見ていた。
「可愛いな」
「若いねぇ」
本人達だけ聞こえていない。
その後も。
焼きそば。
たこ焼き。
りんご飴。
色々買って、半分ずつ分けた。
まるで当たり前みたいに。
少し歩き疲れて。
2人はベンチに座る。
陽向がラムネを開けた。
ビー玉の音が響く。
「飲む?」
「もらう」
結菜は普通に口をつけた。
そして返す。
陽向も普通に飲む。
その瞬間。
遠くから声が聞こえた。
「キスだー!」
別のカップルを見て騒いでいる声だった。
でも。
2人は同時に止まる。
沈黙。
陽向
「……あ」
結菜
顔が一気に赤くなる。
陽向
「えっと……」
結菜
「…………」
気まずい。
でも嫌じゃない。
そんな空気だった。
その時。
ドーン。
花火の音が響く。
「あ、始まる!」
結菜が立ち上がる。
「陽向、私ちょっとトイレ行ってくるね!」
「おう、分かった」
結菜は人混みの中へ消えていった。
その直後だった。
「ママー!」
泣き声。
迷子の男の子だった。
陽向は慌ててしゃがみ込む。
「大丈夫か?」
事情を聞き、運営テントへ連れて行く。
数分後。
ようやく戻った。
だが。
結菜がいない。
「……結菜?」
電話も出ない。
人が多い。
嫌な予感がした。
陽向は走り出す。
汗だくになりながら、人混みを探す。
そして。
少し離れた場所。
男達に囲まれている浴衣姿が見えた。
結菜だった。
陽向は迷わず駆け寄る。
そして。
結菜の隣に立った。
「ごめん、待たせた?」
男達が顔を見合わせる。
空気が変わった。
「なんだ彼氏か」
「行こうぜ」
男達は離れていく。
結菜は下を向いたままだった。
でも次の瞬間。
ぎゅっ。
陽向の腕に抱きつく。
「……結菜?」
少し震えていた。
「ごめん……」
「怖かった?」
結菜は小さく頷く。
そして。
「陽向来たから大丈夫……」
少し涙目だった。
陽向は何も言わず。
結菜の手を、しっかり握った。
「花火、見に行こう」
「……うん」
高台。
夜空いっぱいに花火が咲く。
「綺麗……!」
結菜が笑う。
陽向は、その横顔を見ていた。
「陽向?」
「……いや」
陽向は少しだけ息を吸う。
「俺さ――」
ドォォン!!
大きな花火の音。
声は掻き消された。
「え?なに?」
陽向は笑っていた、
帰り道。
2人は手を繋いで歩いていた。
自然に。
当たり前みたいに。
翌日。
「黒瀬、夏祭り来れば良かったのに」
陽向が言う。
「行くわけないだろ」
黒瀬は呆れた。
だが。
陽向は少し嬉しそうだった。
「花火見たあとさ、結菜に言ったんだ」
黒瀬、停止。
(来た)
心の中でガッツポーズ。
同時刻。
「白石も来れば良かったのに」
結菜も笑っていた。
「行くわけないでしょ」
白石はため息をつく。
だが。
結菜は明らかにいつもより嬉しそうだった。
「花火の時にね、陽向が――」
白石、確信する。
(勝った)
そして。
2人の声が重なる。
「次はみんなで来ようねって言った」
「言われた」
沈黙。
「「何でだよ!?嘘だろ!!」」
夏祭り。
距離は、確かに縮まった。
でも。
やっぱり、あと少しだけ届かない。
これからもよろしくお願い致します。




