第20話 イージスの要塞
「ねぇジンク、次はあっちに行こう!」
行こう行こうと急かすセリシールだったが、それをジンクが一度留める。
「すまない、ちょっとノームの店員に聞きたいことがあるんだ。すぐ追いつくから先に行って待っててくれるか?」
セリシールは笑顔で頷き、フリュイとともに新たな露店へ駆けて行った。
「……えーと、オーダーメイドはやっているかな?」
ジンクはノームに問いかける。
「ええ、やっていますよ。ものによっては時間を要しますが、よろしいですか?」
「かまわない、素材も用意してある、使ってくれ。それで、頼みたい品なんだが……」
ーーー
「おまたせ」
水晶でできた置物を眺めていたセリシールとフリュイに声をかける。
「おかえり! なんか気になるものあった?」
「少しね、とりあえず解決したよ」
ならよかったと、セリシールは微笑む。
「じゃあ、露店巡りに行きましょう!」
それから3人は露店を回り、気づけば辺りは暗くなっていた。
「楽しかった! ジンク、色々調味料買ってたね?」
「ああ、東方の調味料はなかなか手に入らないからな。北部の香辛料や酒もいいのが手に入ったな」
そう話すジンクの表情は、実に生き生きとしていた。
「私はお腹いっぱいです……」
幸せそうにフリュイはお腹をさすり、眠そうにあくびをする。
「ほら、屋敷までおぶろう」
ジンクがしゃがむと、フリュイは頷き、背中に乗り身体を預けた。
「こうやって歩くと、親子みたいだね?」
「それにしては大きい子供だな?」
何気ない会話をしながらジンクたちは帰路についた。
その姿は、3人の関係を知らなければ仲睦まじい家族に見える。
『ずっとこの時間が続けばいいのに』
叶わない希望を胸に抱き、それをかき消すように笑顔を作る。
ーーー
2日目、ジンクの希望により3人はアレスの所属していたイージスの拠点に来ていた。
玄関の戸を叩くと、中から熊のような大男が出て来た。
「ジンク、久しぶりだな! アレス達は元気か?」
「団長、お疲れ様です。父は元気ですよ」
「そうかそうか、まあ心配してないけどな!」
団長はガハハハと大声で笑いだす。
その声量にフリュイはビクッと固まってしまった。
「おっとすまん、驚かせたな。イージスの2代目団長、グラハドだ、よろしくな」
グラハドは右手を出し、セリシールとフリュイと握手をするが、2人との体格差は大きく、グラハドの手が2人の手を包み込むような形となった。
「それで、ジンクはまた手合わせにでも来たか?」
「はい、しばらくこちらに来れなくなるので、魔法ありの真剣勝負で」
ジンクの言葉に、グラハドの口角がニヤリとつりあがる。
「つまり、お前がいつも見せてくれなかった切り札も、見せてくれるんだな?」
「追い詰められればお見せします」
「よっしゃぁ、ユネスを呼べ! あと手が空いてるやつ全員ギルドの地下に集まりやがれ!」
グラハドの掛け声にイージスの拠点はバタバタと慌ただしくなる。
その光景をセリシールは楽しげに、フリュイは心配そうに眺めていた。
ーーー
ヴェルーダのギルドには地下室があり、そこでは魔法を放って訓練ができるよう、防護の魔術が掛けられている。
防護魔術の内側にジンクとグラハドが、外側にセリシールやフリュイ、イージスの団員、そしてギルドの地下で訓練をしていた者がいた。
「全く、急なんですから。手続きやお願いするのも大変なんですよ?」
イージスの副団長であり、回復術師であるユネスが不満の声を上げる。
「すまなかったな! だがどうだ、俺が戦うと言えば、みんな空けてくれるだろう?」
グラハドの言葉にユネスは苦い顔をする。
個人、パーティ共にA級を超える特級に認定されているグラハドの手合わせは滅多に観れるものではなく、噂を聞きつけた多くの冒険者がギルドの地下に集まっていた。
無論、地下をあけ渡すことに一切文句は出なかった。
「ジンクさん、大丈夫ですよね……?」
熱気の渦で地下が揺れる中、フリュイは心配そうにセリシールを見る。
しかし、セリシールは少し困ったような、複雑な表情をしていた。
「ジンクはね、今回はちょっと勝てないかな」
フリュイがその理由を聞く前に、開始の歓声に会話が打ち切られた。
ーーー
加護にはランクがある。
剣を扱うものでいえば、セリシールとアレスが持っている剣神を頂点に、剣王、その下に剣聖と続く。
グラハドが持つ加護は剣聖、大剣を使う上位加護である豪剣、そして盾の上位加護である盾王であった。
自分の加護を理解したグラハドはどうすれば全ての加護を活かせるか考えた。
そしてたどり着いたのが、片手に大剣を持ち、片手に大盾を持つといった力任せな解決策だった。
「イージスの要塞……」
ボソリと誰かが呟く声が聞こえる。
開始の合図は鳴ったが、隙のないグラハドにジンクは動けず、周囲も静まり返っている。
グラハドの半身は大盾に隠され、大剣側から攻めるとあっさり斬り伏せられる未来がジンクには見えた。
「……ではまず、小手調べを。『火球』」
初級火魔法『火球』、実戦魔法を習う上で初めの一歩とされるほど簡単な魔法だ。
一つ一つ放つだけなら。
「『火球』『火球』『火球』『火球』」
ジンクの右手に5つの火球が浮かぶ。
次の瞬間、火球はそれぞれ別の軌道を描き、グラハドに迫る。
「ふん、なかなかの曲芸だな」
グラハドが大剣を一振りすると、5つの火球は簡単に吹き飛んでしまった。
しかし、その一瞬グラハドはジンクから目を離した。
「『水球』『風球・圧縮・圧縮・圧縮・解放』模倣水線」
『水線』、圧縮された水を放ち相手を貫く上級水魔法。
上級魔法を使えないジンクが編み出したのは、複数の属性魔法を組み合わせ上級魔法へ近づけるという方法であった。
大剣側から狙い撃たれたグラハドは盾を蹴り上げ魔法を防ぐ。
龍の鱗と希少な鉱石を使った盾はジンクの魔法を受けギャリギャリと嫌な音をあげる。
「『地面・隆起し・突き上がれ』土柱」
水線を防ぐために浮かせた盾に、下から土の柱を出現させ、盾をさらに弾き上げる。
グラハドの伸び切った身体を目掛け、ジンクは脇差で斬りかかる。
「俺の体勢を崩すとは、やるじゃねぇか!」
その声を聞いた瞬間、背筋に寒気を感じる、足を止め後ろに跳ね飛ぶ。
次の瞬間、眼前に現れた大剣に吹き飛ばされ、ジンクは訓練場の壁に背中を叩きつけられた。
壁と激突する轟音にフリュイは小さく悲鳴を上げ、セリシールは心配そうに眉をひそめる。
砂煙が上がる中、大してダメージはなかったのかジンクはゆっくりと立ち上がる。
「なんで腕だけでその大剣を振れるんですか……」
「鍛えているからな!」
ジンクの身長を遥かに超える大剣を軽く振り、グラハドは笑う。
「さあ、第二ラウンドといこうか!」




