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引退騎士の世界紀行譚 〜勇者になれなかった加護なしは、少女が救った『平和』を巡る〜  作者: 稗田


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第19話 ノームのお店

「そうかそうか、弟は元気にやっているか! あいつ、忙しい忙しいって全く顔出さないからな!」


 アレスの話しを聞き、兄アルフは満面の笑みを浮かべる。


「うむ、私は妖精の話しが興味深かったな。イオル草原の風はそういう仕組みだったのか」


 ゼクトは顎を撫で首を縦に振る。


「それで、俺から1つお願いがあるんだけど、ハクタクへ行く船があれば乗せてほしいんだ。たしか正規の旅客船の出航は来月だよね?」


「なるほど、ちょうど4日後に商船が出るからそれに乗せてやろう」


「ありがとうございます!」


 ニコニコと嬉しそうにセリシールがお礼を言う。

 

「なんのなんの、元々出航予定の船に乗せるだけさ、構わんよ」


 ジンクが横を見ると、アルフは何かを面白がって笑っていた。


「ジ、ジンクさん……」


 後ろから声が聞こえてジンクが振り返ると、お腹を押さえ、ヨタヨタと歩いているフリュイがいた。


「た、食べすぎました……」


 少し青い顔をしながら苦笑いを浮かべるフリュイを見て、ジンクも思わず笑ってしまう。


「フリュイちゃん、私もそろそろお腹いっぱいだから、一緒にお部屋戻ろうか?」


 ごゆっくり、とセリシールは軽く手を振り、フリュイと席を立った。


「ふふ、いい妻になりそうじゃないか」


 ゼクトはあごひげをなで、ジンクを見る。


「そういえば婚約もしていたんじゃなかったかい?」


 アルフもニヤリと笑い言葉を続ける。


「ええ、ええ、まだセリシーの歳が一桁のときの話しですね……。10年以上前の話しを蒸し返すのはよろしくないのでは?」


 ジンクの反論に2人は目を丸くし、同時に笑い出す。


「ジンク君、その年の女の子をみくびってはいけないよ?」


「それに、その約束がなくとも2人とも仲睦まじいではないか」


 一回りも二回りも歳上の2人の言葉にジンクは曖昧に笑いを浮かべるしかできなくなった。


「……お2人に、私個人としてのお願いがあるのですが」


 ジンクの真剣な表情にゼクト達も一度顔を引き締める。


「勇者の、魔王討伐後のことが書かれた本が欲しいのです。できるだけ信用のできるものを」


 2人は少し考え、順番に口を開いた。


「ふむ、うちの屋敷に何冊か蔵書があるからそれを読みなさい。執事にまとめさせておこう」


「私は所有していないが、妻の実家が収集していたな。旅をしているならフルレにも行くだろう? 一筆書いておこう」


 予想以上の収穫に、ジンクは驚き目を丸くする。


「ありがとうございます、何とお礼をしたら良いか……」


「なに、祖父と叔父からのちょっとしたプレゼントよ」


 その後、ジンクは他の参加者とも話しをし、盛況のうちにパーティは終わった。


ーーー


「ジンク、行こう! 今日は何する?」


 ゼクトの配慮により、屋敷の食堂を3人で使わせてもらい、食後にジンク達は外へ出た。

 フリュイは魔法で羽を隠し、目立たないようにしている。


「そうだな、露店をまわってみようか? 珍しいものや食べ物が色々あるぞ?」


 その言葉にフリュイが反応する。


「甘いものが食べたいです!」


 昨日の光景を思い出し、ジンクとセリシールは思わず笑ってしまう。


「あんまり食べすぎないように気をつけながらな?」


「気をつけます……」


 恥ずかしそうに小さくなるフリュイの姿に、ジンクとセリシールはまた笑ってしまった。


ーーー


 中央広場から港へ向かう道に、露天通りと呼ばれる場所がある。

 そこでは新鮮な肉や野菜の焼ける香ばしい匂いや見たこともない料理が並んでいるほか、装飾品や宝石、魔法薬の素材などが売りに出されている。

 店員の威勢のいい声を聞き、ジンク達も気持ちの高揚を感じる。


「美味しい! 昨日の料理とは違う、ワイルドな感じがあるね!」


 露店では、昨日と打って変わり、魚や豚、牛の肉に串を刺し炙り焼いたものや、熱した鉄板の上でエビや貝を焼いたもの、薄い生地に肉や野菜を挟み込んだものなどが売り出されていた。


 甘味は牛乳を凍らせたものや、もちもちとした生地に甘じょっぱいタレがかけられたもの、削られた氷に果物の搾り汁がかけられたものなどがあり、フリュイは何件も周り食べている。


「あ、ジンク、あれ!」


 ふとセリシールの指差す方へ目を向けると、気にしなければ気付かないような場所に装飾品の露店があった。


「ん? おや、いらっしゃい。ゆっくり見ていってねぇ」


 店員はフリュイよりも少し背が高い程度の年老いた女性だった。


「見てみて、すごいよこれ!」


 並んである商品はどれも精緻な意匠がほどこされ、そのほとんど全てに魔法が込められていた。


「さすがノームの技術だな」


 ジンクがそう呟くと、店員は、ほう、と感心した表情をみせる。


「え、ノームさんだったのですか!」


「ふふ、そうだよ妖精のお嬢さん」


 フリュイは気付かないほどの幻覚魔法に驚きを隠せないでいた。


 ノームは手先が器用な土の妖精で、作る装飾品は貴族がこぞって買い求めるほどの素晴らしいものだ。

 また、いたずら好きで、今回のように隠れて露店を開いたりすることがある。

 


「すみませーん、これください!」


 いつのまにかセリシールは2つの装飾品を持っていた。


「はいよ!」


 少なくないお金をノームに渡し、商品を購入する。


「ジンクにはこれで、フリュイちゃんにはこれね!」


 ジンクには羽がモチーフの首飾りを、フリュイには花がモチーフの腕輪をそれぞれ渡す。


「わっ、可愛いです! ありがとうございます!」


「いいな、ありがとう、セリシー」


 お礼を言うと、セリシールはへへへ、と恥ずかしそうに笑っている。


「よし、フリュイ、俺たちでセリシールに似合うものを探そう」


「そうします!」


 

 そしてプレゼントされた宝石が数粒付けられた雫の形をした首飾りを、セリシールは溶けたような表情で笑い、撫でていた。


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