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引退騎士の世界紀行譚 〜勇者になれなかった加護なしは、少女が救った『平和』を巡る〜  作者: 稗田


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18.5話 父、アレスの過去

「ようアレス、また怒られたんだってな?」


「兄貴か、経理なんてさっぱりわからねぇわ」


「まー、向き不向きがあるからなぁ、俺もアレスに剣では勝てないし」


 アレスはヴェルーダの屋敷で、クラッド家を継ぐための教育を受けていた。

 経営の他に、各地方の風土、歴史、貴族へ対する礼儀、マナー、そして護身術、その全てが詰め込まれる。

 兄アルフには数多く知識系の加護を授かったが、アレスが授かったのは戦闘に関する加護のみであった。


 そして33年前、ジンクの父アレスが15歳のとき。


「親父、俺の適性は経営と商売ではなかった。冒険者としてアイビス商会に貢献したい」


「……いいだろう、どう貢献するか楽しみにしておこう」

 

 こうしてヴェルーダのギルドを拠点にアレスは冒険者として依頼を受ける。

 礼儀作法、武力、そして人を見る目に長けたアレスは仲間を見つけ大規模なパーティを結成。

 周辺の治安維持や豪商、貴族の護衛を受けアイビス商会と顔を繋ぎ、商会はさらに力を増していった。


 そして4年が経ったある日、転機が訪れた。


ーーー


「アレスさんに緊急クエストが来ています! 受けてくださいませんか!」


 アレスがいつものようにギルドへ向かうと、職員が切羽詰まった表情でアレスに詰め寄る。


「受けよう。依頼内容は?」


 アレスの快諾に職員の表情が多少和らいだ。


 「鬼蛇と呼ばれる傭兵団の足止めです。視察中の王太子殿下が連れ去られました。おそらくグランバル帝国が関与しているかと……」


 声をひそめ職員が情報を伝えると、アレスの顔が険しくなった。


「時間かけると連れ去られるな。すぐ出る、場所と人数を教えてくれ」


「ありがとうございます、北にあるギデオン砦に向かったと報告を受けています。人数は100人を超えるようで、おそらく占拠されているかと……」


 戦時中、北の軍事大国グランバル帝国の侵攻を留める軍事拠点となっていたギデオン砦。

 現在は最小限の人数で見張りと周辺の魔物退治だけをする拠点となっていた。


「戦時中ではないとはいえ、油断したな。足止めってことは正規軍が来るんだろ? それまでせいぜい暴れるさ」


「ご武運を!」


 アレスはパーティで共同生活を送る家に戻り声を張り上げる。


「緊急クエストだ! 傭兵団の足止め、100人超え、攻城戦、動けるやつ全員で行くぞ!」


 アレスの掛け声に一騎当千の仲間が10人付き従い砦へ向かう。

 スキル、魔法、全てを使い、半日はかかる道をわずか1時間で踏破し、砦の周囲にある森へ身を隠した。


「おいおい、砦の周囲にも飯食ってるやついるし、中にもいるんなら300人超えるんじゃねぇか?」


 100人は王太子襲撃のために選ばれた部隊だったのだろう、砦に大勢が集まる姿はまるで戦時を思わせる。


「アレス、どうする?」


「うーん、ヤバそうな気配はそこまで感じねぇが、人質盾に出てこられたら面倒だな。フウカ、行けるか?」


「了解」


 フウカと呼ばれた女性はふっと揺らめき、空気に溶けるように姿を消した。


 それから1時間も経たないうちに砦が蜂の巣を突いたような大騒ぎになった。

 

「ただいま」


 姿を消した時と同じように音もなくフウカが姿を現した。

 今度は肩に男を1人背負って。


「なあ、もしかして依頼達成か?」


 仲間の1人がアレスに尋ねる。


「……潰すか、鬼蛇」


 そのやりとりに、地面に下ろされた皇太子は恐怖を覚える。

 少人数とはいえ王太子を守る精鋭を容易に殺した傭兵団を10人程度で相手にするのは正気とは思えない。


「もう少し待てば、正規軍が来るだろう、それを待つのでは駄目なのか?」


 アレスは王太子に恭しく膝をつく。


「殿下、おそらく正規軍が到着しますと、私どもは参加させられないか、軍の指揮へ組み込まれます。それでは彼らを活かせません。なので、軍が来る前に……殲滅させていただきます」


 アレスが仲間に指示を出すと、砦付近の部隊を中心に火柱が上がった。


「護衛をつけますので、こちらでお待ちください」


 その言葉とともにアレスとその仲間は悠然と動き出す。

 ようやくアレスたちを認識したのか、傭兵団は魔法や弓をアレス達に放つ。

 しかしその全てが身体に届くことなく弾かれ、霧散していく。


「イージスだ……イージスが攻めてきたぞ!」


 声を上げた傭兵は風の刃に首を落とされ沈黙する。

 アレスを筆頭とする特級パーティ『イージス』

 護衛を主とするこのパーティは、商隊を狙う野盗や傭兵の恐怖の象徴となっていた。


 アレス達が一歩進むごとに10人の傭兵が細切れになり、また一歩進むと爆発と共に10人吹き飛び、アレス達が砦の前に着く前に、外の傭兵はすでに逃げ惑っていた。


「外の仲間は逃げていったぞ! 大人しく出てこい!」


 アレスの声に応じ門が開く。

 するといきなり斬撃がアレスを襲った。


 アレスは剣を抜き、斬撃を真っ向から弾いた。


「いきなりだな、礼儀がなってないんじゃないか?」


 アレスが門の先を見ると、蛇のように鋭い目をした男が立っていた。


「お前のせいで大金がパァだ、どうしてくれる」


 男は苛ついたように吐き捨て剣を構える。


「それは残念だったな、まあ今後金が使えないところへ行くんだ、関係ないだろ」


 言外に逃げられないと突きつけるアレスに男はさらに苛立つ。


「おらぁ!」


 鋭く放たれた斬撃はアレスの剣にあたり甲高い音を響かせる。

 直後に男から蹴りが放たれ、アレスはそれを腕で止める。


「足癖も悪いときたか」


 蹴られた腕を振りながらアレスは近づく。

 周囲では残された傭兵とイージスの仲間が激しく戦っている。

 外にいた傭兵と比べ、中にいる傭兵は簡単に制圧はできない実力を持っていた。


「くそが、さっさとくたばれ!」


 剣ごと叩き斬ろうとする重い斬撃や、アレスの剣を絡み取ろうとする柔い斬撃。

 傭兵団の頭なだけあり実力はかなりのものであり、通常であればその変幻自在な太刀筋に切り伏せられてしまうであろう。

 

 しかし、それは通常の場合だった。

 剣神の加護を授かったアレスには関係ない。


「いいねいいね、なかなかいい太刀筋じゃないか!」


 久しぶりに手応えがあるやつと戦えたと、アレスは満面の笑みを浮かべ切り結ぶ。


 アレスの周囲に敵がいなくなるまで剣戟の音が響いていたが、それももう終わろうとしていた。


「さて、もう技も出尽くしたか?」


 男は大粒の汗を流し、肩で息をしていた。

 対するアレスは汗ひとつかくことなく立っていた。


「ちくしょう……!」


 最初の斬撃の見る影もない大振りを避け、アレスは首に剣の峰を当てる。

 男の意識は暗闇に沈んでいった。


ーーー


「なかなか腕が立つ奴らだったな」


 さっきまで大規模な戦闘があったと思えないほど和やかに会話をしながら、アレス達は王太子の元へ戻った。


「ご苦労、まさか軍が到着する前に壊滅させるとは思わなかったぞ……」


 アレス達が上げた大戦果に畏怖を覚えつつ誉め称える。


「いえ、森に現れたドラゴンを討伐した時と比べると、大したことありません」


「そうか……。この後王宮に来てくれるか? 褒美を取らせたい」


「もちろんです、ありがとうございます」


 話しをしてしばらく経ち、西からアレス達並の速さで駆けてきた部隊と合流する。

 隊長は実直を絵に描いたような女騎士であった。


「殿下! ご無事で何よりです! 首魁は……そいつですね」


 転がされている男の顔を見て隊長は驚愕する。


「こいつら、鬼蛇か……」


 鬼蛇は、犯罪を厭わない危険な傭兵団として指名手配されており、そのリーダーはA級を超える実力だと言われていた。


「エルマ、拘束。あと、この辺り全部直せるか?」


 ギデオン砦は戦闘によって周囲は焼けこげ、地面はところどころえぐれておりひどい有様であった。

 これが元の姿を取り戻すには、数年はかかるだろう。


「はい、わかりましたー」


 ふわふわとした雰囲気の女性が一歩前に踏み出し、杖をひょいと振る。

 すると男はたちまち光の帯に拘束された。


「あとはあちらも、えいっ」


 続いて砦に向かい杖を振ると、えぐれた地面は平地となり、焼けこげた草花も緑を取り戻した。


「王太子殿下、あちらの女性は…?」


「ああ、彼女はエルマ、優秀な魔法兵だよ。経験を積んだらいずれ魔法師団のエースになるだろう」


 現実離れした光景だったが、アレスは何より、エルマの飾らない可愛らしさとその雰囲気に強く惹かれた。


ーーー


「アレス・クラッドよ。此度こたびの活躍見事であった、褒美を取らせよう」


 国王の御前、謁見の間でアレスは跪いていた。


「ありがとうございます、では3つほどお願いがあるのですが、よろしいでしょうか」


「申してみよ」


「一つ目は私のパーティへ充分な褒賞を」


 国王は頷く。


「よかろう、元から充分な褒章を与えるつもりであったが、さらに上乗せしよう」


「二つ目に、私の実家、アイビス商会にご温情賜れればと」


「使者を送る、目録にて良きものがあれば取引し、王室御用達を名乗るが良い」


「ありがとうございます。……3つ目なのですが……」


 国王の前で堂々とした態度をしていたアレスが急に口ごもる。

 

「ふむ、前の2つと比べものにならない願いか、不敬を承知の嘆願か? よい、申してみよ」


 その言葉に意を決してアレスは口を開く。


「ま、魔法兵エルマ様とお話しをさせていただく機会を頂きたく!」


 アレス言葉に謁見の間はしんと静まり、一拍おいて国王の笑い声が響いた。


「なるほど、よかろう! だがいいのか? 望むのなら婚約を取り付けてもいいのだぞ?」


 王の言葉にアレスは首を振る。


「いえ、嫌がられては元も子もありません。それに、まずはゆっくり話をしてみたいのです」


「父上、少しよろしいか」


 ここで王太子が初めて口を挟んだ。

 それをみて王は首を縦に振り、先を促す。


「今後私が視察を行うときに、少人数ながら誰にも負けない騎士が必要だと感じました。アレス殿のパーティ、イージスを私の近衛騎士にするのはいかがか」


「なるほど、それならエルマと話す機会を作るのも容易いか。して、アレスよ、どうだ?」


「慎んで拝命いたします」


ーーー


 イージスは近衛騎士となるもの、ヴェルーダに残り今までどおりに活動するものに別れた。


 こうしてアレスは騎士となり、エルマと会話を重ね、爵位を得たのちに夫婦となったのだった。



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