第21話 ジンクの切り札
振り下ろされた大剣が地面に大穴を作り、砂を巻き上げる。
その砂を吹き飛ばすように大盾がジンク目掛けて振り回される。
地面に転がるように辛うじて避けたが、ジンクは全身から汗が噴き出した。
「それ、当たったら死にませんか……?」
「心配するな! 致命傷を避ける魔法が訓練場にはかけられているし、優秀な治癒師もいるぞ!」
そう話す間もグラハドの猛攻は止まらず、防戦一方となったジンクは全身に傷を負っていた。
「おいおい、あのB級何者だよ、グラハドさんとやり合ってまだ立ってるぞ……」
グラハドの強さをよく知るヴェルーダの冒険者は目の前の光景に騒然とする。
『剣もダメ、魔法もダメ……。となると、やっぱ最後の手段しかないな』
ジンクは覚悟を決め、大きく距離を取る。
「『纏え・火炎・この刀身へ』火炎付与」
ジンクの脇差に炎が纏い、剣の周囲が熱で揺らめいて見える。
「なるほど、切り札は付与魔法か。たしかに悪くない高等技術だが、それじゃあ俺の武具は焼き切れんなぁ!」
グラハドが再度突進する。
ジンクが大剣をなんとか受け流し盾に斬りかかるも、盾には傷一つつかなかった。
「今度はなんだ? 雷でも纏わせて感電を狙うか?」
なおも襲いかかるグラハドの攻撃を避けながらジンクは反撃を試みるが、容易に弾かれ、ついに刀身から色が失われ、ジンクの足が止まる。
「よく頑張ったがここで終わりだ!」
グラハドがトドメを刺すために大剣を横へ大きく振る。
その瞬間、不自然に、時間にして0.3秒グラハドの身体が硬直した。
「頑張れ!」
セリシールの声が訓練場に響くと同時、ジンクはグラハドの横を駆け抜け首に剣の峰を打ち込もうとする。
しかし、一歩足りなかった。
ジンクを見失ったグラハドは大剣をそのまま投げ捨て、直感を頼りに渾身の裏拳を振り抜いた。
それはジンクの胸に当たり、骨が折れる嫌な音とともにジンクは壁に叩きつけられた。
「終わりです!」
ユネスの声が響き、ジンクの元へユネスとセリシール、フリュイが駆けつける。
「ジンク、大丈夫!?」
地面に座り込んだジンクの視線は宙を彷徨い、そしてなんとかセリシールを見つける。
「切り札、通用しなかったな。行けると思ったんだが……」
痛みに耐えるようにジンクはセリシールに話しかける。
ユネスがジンクへ治癒魔法をかけると、ジンクは一息吐いて立ち上がった。
訓練場の中心では、グラハドが冷や汗を流し立ち尽くしている。
「ありがとうございます、ユネスさん」
ジンクはユネスへ礼を言い、グラハドの元へ歩いて行く。
「……正直、やられていてもおかしくなかった。今のが本当の切り札か」
グラハドは真剣な顔でジンクを見据える。
「ええ、全力でした。すこし自信はあったんですけどね」
ジンクの言葉にグラハドは顔を引き攣らせ笑う。
「加護がなくても正真正銘お前はあの2人の子供だよ」
グラハドはジンクへ手を差し出し、がっしりと握手をする。
「……一つだけ俺からもわがままを言っていいか? 俺はお前の連れの女とも手合わせをしてみたい」
グラハドはセリシールを見る。
その視線は訓練をつける者の視線ではなく、挑戦者としての視線だった。
「セリシー次第ですが、手合わせを誰にも見せないなら考えます」
グラハドはユネスを呼び、指示をだす。
ユネスはとても嫌な顔をしながらギルド職員や冒険者の元へ行き、ものの数分で地下は空となった。
「これでどうだ?」
「わかりました、セリシーに確認をとります」
ジンクはセリシールの元へ行き、グラハドからの願いを話す。
「いいよ、ジンクの敵討ちをしてあげる!」
セリシールはマジックバックから取り出した剣をブンブンと振り、グラハドに近づいて行く。
「ねえ、グラハドさんは私のこと知ってる?」
「いや、だがなんとなくなら察しがつくさ」
ジンクのときとは打って変わり、グラハドは油断なく大剣と大盾を構える。
「そっか、じゃあ油断しないでね?」
にっこりとセリシールが笑う。
その無邪気な笑顔と裏腹に、グラハドは龍に睨まれたような死の気配を全身に感じた。
「合図はいらないよ、いつでもどうぞ?」
次の瞬間、グラハドの全体重を乗せた一撃がセリシールに襲いかかる。
それを受け流さず、ただただ剣で受け止めた。
「『身体に・宿れ・修羅の・一撃』上級身体強化!」
グラハドは自身に身体強化をかけ、大盾をハンマーのようにしセリシールの頭へ叩きつける。
しかしそれも、セリシールの横に振った剣で弾かれた。
「次は私の番だよ、しっかり防いでね?」
セリシールは距離を取ると剣の切先をグラハドに向ける。
「『炎槍・猛々しく・鋭く・追い付き・貫き・燃やし尽くせ』神槍グングニル」
セリシールの上に出たのは、ジンクの炎の剣とは比べ物にならない熱量を持った、炎の槍であった。
その槍はひとりでにグラハドへ向かい、貫かんと迫る。
「ぬぐぁああ!」
大盾を使い槍を受け流すように弾く。
龍の鱗を使った大盾は槍が当たったところが溶け、大きな溝を作っている。
「油断したらだめだよ?」
セリシールが指を差す方をみると、弾かれた槍は方向を変え、再度グラハドに迫る。
正面からグラハドの盾に当たった炎の槍は、盾に大穴を開け容易に貫いた。
「まじかよ」
盾を犠牲になんとか槍を避けたグラハドは、大剣を両手で構えセリシールを正面に見据える。
すでに身体中から汗が噴き出し、脳からはすぐに逃げるように危険信号が送られている。
「次は剣だよ」
ふわりと、重力を感じさせない踏み込みでセリシールはグラハドの胸元に飛び込み、軽く剣の柄を当てる。
それだけでグラハドは吹き飛び、危うく転がりそうになる。
なんとか踏ん張り正面を見たところで、セリシールの上段斬りに気づき、大剣を合わせ受け流す。
重い大剣を片手で振っていただけあり、グラハドが両手で大剣を持つとその剣速は凄まじいスピードであった。
しかしセリシールには遠く及ばず、徐々にグラハドの身体は削られていく。
それが数分続き、ついにグラハドの膝が地面についた。
「まいった、降参だ……」
グラハドは両手をあげ降参の意を示す。
それを見てセリシールは攻撃の手を止めた。
「結構強かったです、お疲れ様でした!」
セリシールは一礼し、ジンクとフリュイの元へ走っていった。
「グラハド、あの子はもしかして……?」
グラハドの回復をしながら、ユネスが話しかける。
「元勇者、だろうなぁ。ジンクと一緒に旅しているし」
グラハドは、地面にごろっと大の字になり寝そべる。
負けたものの、その表情は晴々としていた。




