第17話 貿易都市ヴェルーダ
香りの強い白い香味野菜を刻み炒め、そこへセリシールが狩った新鮮な鹿肉とフリュイの取ってきた山菜を入れる。
塩胡椒で味付けをし、仕上げに東の島国、暁で作られた醤油を振りかける。
熱された香味野菜と醤油の香ばしい香りが森の一角に広がる。
ジンクの側にはセリシールとフリュイがおり、料理の完成を今か今かと待ち望んでいた。
ちなみに妖精は調理が不要な果実などを食べているだけで、肉も好きだと判明した。
「さあ、焼き上がったぞ」
ジンクが皿に料理を盛り付け、コップに果実酒を注ぐ。
フリュイはお酒が飲めないのでフリュイが採取した果実を絞り、ジュースとした。
「すごい、野営でこんなご飯が食べれるなんて!」
セリシールは料理を前に目を輝かせる。
「私も、普段はお料理なんて食べないので楽しみです!」
フリュイも跳ね飛び喜びを表現する。
スキルの力で料理は見ることができても、味を知ることができず強い憧れを持っていた。
「ここまで喜んでもらえたら作った甲斐があるよ。頂こうか?」
待ちきれないとばかりにセリシールとフリュイはご飯を食べ始める。
「うわ、お肉と山菜がすごい合ってる、美味しい! この味付けは何使ってるの?」
「醤油ってやつを使っているよ。暁でしか作られてないからなかなか手に入らないけど、炒め物に合わせると美味しいんだ」
料理の出来に満足し、ジンクは表情を崩しながら答える。
「これが醤油……。塩辛いって話でしたが、そんなこともないんですね?」
「ああ、醤油単体だったらそうだが、上手く使えば美味しいのができるよ」
食後はフリュイの採ってきた果実と牛乳でアイスを作ったが、これと2人には大好評だった
ーーー
「さて、今日の見張りだけど……」
横を見ると、フリュイは目を擦り眠そうにしている。
「はじめに俺が、朝方にセリシーに交代してもらおうかな?」
ジンクの言葉にフリュイはハッと顔を上げる。
しかしまぶたは半分落ちら今にも寝てしまいそうだ。
「セリシー、頼んだ」
「はいはーい、フリュイちゃん、行くよ!」
そういうとセリシールはフリュイを抱き上げテントに運んでいく。
はじめは手足をパタパタさせ抵抗していたが、テントの前に着く頃には、恥ずかしそうにおとなしくなっていた。
「さて、セリシーの気配にフリュイの魔法、それを突破できる魔物はいるのかな?」
見張りの意義を考えながら交代まで火のそばに座る。
案の定、ジンクの見張りでも、セリシールと交代した後も魔物が現れることはなかった。
ーーー
「おはようございます……見張り、ありがとうございました……」
恥ずかしそうにすこし俯き加減でフリュイはジンクとセリシールにお礼を言う。
「いや、まだ小さ……」
まだ小さいと言いかけ、ジンクはフリュイを人間と同じように見ていたことに気づいた。
「そういえばフリュイちゃんって何歳?」
セリシールが質問してくれたことに、ジンクは表情にこそ出さなかったが内心ホッとした。
「えーっと、あんまり歳を数える風習はないですが、確か生まれてから10年くらいです?」
外見と年齢に差がないことにジンクは頷き声をかける。
「なるほど、ならやっぱり見張りは俺とセリシーでやろう。夜は幻術を使ってくれただろ? あれで充分だよ」
「ありがとうございます……。では、夜はお願いします」
こうして夜の番はジンクとセリシールで交代することとなった。
ーーー
途中に野営や宿場町での宿泊を3回繰り返し、ジンクたちは貿易都市ヴェルーダの門へ到着した。
周囲は高い壁に囲まれており、王都の外壁と比べても遜色がない。
街へ入る門にはずらりと人や馬車が列を作り審査を受けている。
「ジンク、あれ読もう!」
「わかったよ、ちょっと待ってな」
ジンクは指輪をはめた手を上にすると、手に一冊の本が現れた。
『ヴェルーダ』
ソリーデ王国の西端の港町。
海産物が有名で大陸全土を見ても最大規模の漁獲量を誇る。
西の島国ハクタク、北のグランバル帝国領とも面しているため3カ国の品が集まり貿易が盛んである。
また、大陸全土に支店を持つ豪商、クラッド一族の経営するアイビス商会、その本店が存在しており、その寄付金が外壁等の強化に活用されている。
「新鮮なお魚食べたいな! あとアイビス商会はちょっと行きたいな、魔王討伐のときにお世話になったから……」
「ならちょうどよかった、今日の目的地はアイビス商会だよ」
そう言うとジンクは人の列を避け、近くにあった小さな門へ向かう。
「こんにちは、身分証をどうぞ」
街の衛兵とは思えないほどの礼儀正しさで、門の衛兵はジンクたちに身分証の提示を求める。
セリシールとフリュイは不安げにジンクをみる。
「お願いします」
ジンクは指輪から、精緻な紋章の彫られた木札を取り出し衛兵へ見せる。
「ありがとうございました、こちらへどうぞ」
ジンクたちは列に並ぶことなく門をくぐることができた。
セリシールとフリュイは何が起こったか分からずポカンとした顔をしている。
「ジンク、あれ、何見せたの?」
不思議そうな顔をするセリシールに、ジンクはニヤリと笑う。
「そうか、セリシーもフリュイも気付いてなかったか? なら後でもっとびっくりするかもな」
理由を聞こうとしたセリシールは街に一歩踏み込んだ瞬間、その喧騒に息を呑んだ。
人間のほかにも獣人、ドワーフ、エルフの行き交うその街は、ワヌタとは比べものにならないほどの賑わいを見せる。
屋台も多く出店されており、さまざまな種族の料理が目に入り、フリュイは目を輝かせている。
「フリュイ、屋台巡りは多分明日かな?」
ジンクは迷いなく足を進め、セリシールとフリュイはそれについていく。
そしてたどり着いたのは一軒の大きな店、アイビス商会の本店だった。
「ジンクさん、なんか買うんですか?」
フリュイの質問に笑いながら首を振り、店の中へ足を踏み入れる。
「いらっしゃいませ……あ、ジンク様! 会長はお部屋にいらっしゃいます!」
店員の、ジンクへの態度に2人は驚き目を向ける。
「さて、爺ちゃんに会いに行こうか」
悪戯成功と言わんばかりの笑顔で、ジンクは2人へ笑いかけた。




