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引退騎士の世界紀行譚 〜勇者になれなかった加護なしは、少女が救った『平和』を巡る〜  作者: 稗田


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第16話 港町ヴェルーダへ、3人の門出

「うん、体調は大丈夫だな」


 宴会で呑んだ酒が残っていないことを確認し、ジンクは窓から外を眺める。

 色とりどりの花で飾られた美しい草原は本日で見納めとなり、また新たな旅が始まる。

 そして旅に新たな仲間が加わる。


「ジンク、おはよう!」


 客間から出てすぐにセリシールとレミに会う。

 遅くまで話していたのであろう、レミは眠そうに目を擦っていた。


「おはよう2人とも」


「おはようございます、みなさん!」


 窓の外から元気な声が聞こえてきた。

 ジンクが外を見ると、フリュイがニコニコと手を振っている。


「旅が楽しみで待ちきれませんでした……」


 少し恥ずかしそうにフリュイは舌を出す。


「妖精様、いらっしゃいませ。昨日の残りですが、どうぞ食べてからご出発ください」


 村長の誘いを受け、フリュイはジンクたちと食卓を囲むことにした。


 朝食中もレミはジンクに決闘の話しやセリシールとの過去を聞き、賑やかな食卓となった。


ーーー


「セリシール様、ジンク様、そして妖精様、本当にありがとうございました」


 村長とレミは深々と頭を下げる。


「みんな、また遊びに来てね? 絶対だよ?」


 すっかり打ち解けたレミが涙を浮かべながら別れの言葉を口にする。


「うん、近くに来たらまた寄るからね?」


 セリシールはレミを優しく抱きしめる。


「私からはレミにこれをあげます!」


 フリュイがレミの手を握ると、淡い黄緑色の光を放ちすぐに収まった。


「大妖精の加護ですよ! これで離れていても一緒ですね?」


 満足気に笑うフリュイ。

 レミは自分の中にフリュイとの繋がりができたことを感じ、ついに涙が流れ出した。


「じゃあなレミ、また今度会おう」


 再会を約束し、3人はまた旅に出る。


ーーー


「改めまして、フリュイです。よろしくお願いします!」


「よろしく、ジンク・クラッドだ。騎士団を退職したから今はただのB級冒険者だ」


「セリシールだよ! 勇者は辞めてます! 一応特級冒険者の資格はあるけど隠してます、フリュイちゃんよろしくね?」


 西へ向かって歩きながら3人は情報を交換する。


「世界を見たいって、ジンクさんは妖精みたいですね?」


 何気ないフリュイの一言にセリシールは笑いそうになる。


「ジンクが妖精かぁ、可愛いね!」


「こんなおっさんが妖精だったら怖いだろ……。あ、そうだ」


 ジンクは村での出来事を思い出し、フリュイに向き直る。


「フリュイの加護って、俺とセリシーにも与えることってできるのか?」


「あ、そうですよね、見てみます!」


 立ち止まり、フリュイは両手を前に出し集中する。

 少し経ち、うーん?と難しい顔をして手を下ろす。


「うんと、セリシールさんはできるんですけど、ジンクさんは何故かダメでした……。

なにか固い防御がされているような?」


「やっぱりダメか、ありがとうな」


「いえいえ、お役に立てず……。あ、セリシールさんはどうしますか?」


 セリシールは口に指を当てて考える。


「うーんそうだね、今はまだいいかな? きっと必要な時がくるから取っておくの!」


 引っ掛かりを覚える言い回しであったが、勇者として加護を使ってきた経験に基づくものだろうとジンクは判断した。


「わかりました、必要になったら教えてくださいね!」


 フリュイは胸の前で握り拳を作り、やる気をみなぎらせている。


「じゃああとは、どれだけ戦えるか、かな?」


 ジンクが指を指す。

 その先を見るとゴブリンが背の高い草むらに隠れているのがわかった。


「はい! 見ててください!」

 

 フリュイが手を伸ばすと、背の高い草はひとりでに動き出し、ゴブリンに巻きついていった。

 ゴブリンは攻撃に気づきもがいたが、さらに絡まりつくのみで、ついに5匹のゴブリンは倒れ込んだ。


「『太陽さん太陽さん、力を集めて魔物を消し去れ!』」


 フリュイの手に黄色い光が集まり、大きな光の玉となったところで放つ。

 その光を浴びたゴブリンはまとめて消滅してしまった。


「えと、どうでしょうか……? あとは幻術が使えますが……」


 妖精固有の詠唱、普通の魔法で同じような魔法を使うとなれば、上級魔法となる。

 自分より遥かに上の技能を持つフリュイにジンクは軽く嫉妬するが、それを表に出すことはなかった。


「素晴らしいよ、戦力的にも申し分ないね。あとは、セリシール、いいかい?」


「はーい!」


 セリシールは消滅したゴブリンの背後に目を向けていた。

 そこには漁夫の利を得ようとしていたゴブリンの上位種、ホブゴブリンとその配下がいた。


「いっつも魔法を使ってたから、たまにはこっちで!」


 セリシールは腰につけた鞄から指輪を取り出して右の人差し指にはめる。

 すると指輪は光を発し、斧がセリシールの手に現れた。


「さあ、行くよ!」


 青白い光と何かが弾けるような音とともに、セリシールは姿を消す。

 その直後、ホブゴブリンがいた場所は雷鳴とともに弾け飛んだ。

 その爆心地にいたセリシールは、何事もなかったかのように走って戻ってきた。


「お待たせ、こちら雷属性の斧、雷迅です! ちなみにこの指輪には他にも色々な武器が入っているので乞うご期待です!」


 自慢するように雷迅を見せてくるセリシール。

 勇者が世界をめぐり手に入れた武器にジンクは興味が湧いたが、これから見る機会は来るだろうと楽しみにすることにした。


「お疲れ、雷の速さを付与する斧か、すごいな……。そういえばその腰の鞄はマジックバッグ?」


 ジンクの質問にセリシールは首を振り答える。


「ううん、時空魔法。何もないところから物を出すと目立つから、マジックバッグですよーって見せてるの」


「なるほど……」

 

 セリシールの処世術に納得しながらジンクたちは再度西へ歩く。

 ジンクの祖父がいる西の港、ヴェルーダを目指し、3人はゆっくりと進む。

 

ーーー


 空が赤くなる前に、ジンクたちは足を止めて野営の準備を始めた。

 セリシールとフリュイは食材の調達に、ジンクはテントの設営と調理と役割を分担し動く。

 食材はジンクの指輪に十分入っているが、現地調達も旅の醍醐味だろうということになった。


「さてと、明日には海鮮が食べられるから、今日は肉かな?」

 

 テントを設営し終わり、調理の準備をしているとセリシールとフリュイがやってきた。


「狩ってきたよ! 今日は鹿!」


「私は香りの良い葉っぱと、お野菜、あと甘い果実!」


 鹿はすでに血抜きがされており、セリシールがいかに旅慣れているかがわかる。

 フリュイも自分の得意を活かし、食材を持ってきた。


「2人ともありがとう、今日は簡単になっちゃうけど鹿肉と野菜の炒め物にしようかな? あとは果物でなにかデザートを作ろう」


 やったぁ!と手を取る女性2人を見て、ジンクは調理に取り掛かる。

 野営は騎士団の時に何度も行ったが、こんなに楽しい気持ちとなる野営は初めてだった。



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