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引退騎士の世界紀行譚 〜勇者になれなかった加護なしは、少女が救った『平和』を巡る〜  作者: 稗田


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第15話 妖精の光とイオルの花絵巻

「ジンクさん、お早いお戻りですね」


 冗談めかした笑いとともに、ワヌタのギルド長は迎え入れてくれた。

 時刻は間も無くギルドが閉まる時間であった。


「はぁ、ふぅ、俺もまさかこんなに早くに戻るとは思いませんでしたよ、これお土産です」


 ジンクは流れ出した汗を袖で拭く。

 そしてひとまとまりになった男を下ろし話を続ける。


「イオル平原で妖精の捕獲、密売を行おうとしている男を発見し確保しました。あとの3人は傭兵です」


「なんと、妖精がいたのですね! 可愛らしい容姿や妖精の鱗粉など、裏で高く売買されていますからね……」


 この世界、マルストヴィラでは一つの国を除き、他全ての国が奴隷を禁じている。

 そして奴隷を保有しているが貴族であっても厳しく罰せられる。

 

「ちょうど良かった、ダンが来ているんです。運ばせましょう」


 ギルド長は奥の部屋に行くと、ダンが出てきた。

 ダンは何やらフラフラと足取りがおぼつかない。


「ほら、シャキッとしろ、ジンクさんだぞ。朝からずっと勉強しているくらいで情けないぞ」


 ダンの背後から教育係の衛士のげきが飛ぶ。

 その言葉にダンは姿勢を正しジンクへ向かう。


「すみません、朝からの研修でもうフラフラで……なんのご用でしょうか!」


「ちょっと悪い奴らを捕まえてね、ひとまとめにしているから運んで牢屋へ欲しいんだ」


 男4人をひとまとめ、重量は400kgに近いだろう。

 それを見てダンは笑顔を浮かべ、ヒョイと肩に担ぎ上げた。

 身体強化の魔法も使わずに。


「了解しました、お任せください!」


 わっせわっせと運ぶダンをジンクたちは見送った。


「流石の怪力だな……」


 ジンクは改めてダンの潜在能力の高さに驚かされた。

 そしてチラリとセリシールを見る。


「ふふ、私も全然大丈夫だよ?」


 当たり前のように答えるセリシールに、ジンクは大げさにため息をつき俯く。


「でもジンクはすごいから、だいじょーぶ!」


 俯くジンクの顔を覗き込み、にこりと笑う。

 その行動にジンクもまた笑顔になる。


「お邪魔して申し訳ありません」


 声の方を見ると、ギルド長が袋を持ち立っていた。


「奴隷商の方に懸賞金がかかっていました。少ないですがお受け取りください」


 ジンクが袋を受け取ると、多少ずしっとした重みを腕に感じた。


「ありがとうございます、これで本当にまたいつか、ですね」


「ええ、またいつの日か、当ギルドへいらっしゃるのをお待ちしています」


 深くお辞儀をするギルド長を背に、ジンクとセリシールは宿をとりに向かった。


ーーー


 翌日、午前のうちにつけるよう、ジンクとセリシールは早朝に出発した。

 道もわかっていたため昨日よりも早くイオル村へ到着することができた。

 相変わらず森はあるが、不気味な暗さはなく、木漏れ日が綺麗に差し込んでいるのが見える。


「セリシールさん、ジンクさん、昨日はありがとうございました」


 到着した村長の家では、村長とレミ、そしてフリュイが待っていた。


「お疲れ様です! フリュイちゃんが来てますよ!」


 レミはフリュイと話ができて嬉しかったのか、昨日以上に元気であった。


「おはようございます、ジンクさん、セリシールさん。あの……」


 もじもじとしているフリュイだったが、レミに促され、言葉を振り絞る。


「お二人の旅に私もついていって良いでしょうか……?」


 小さな小さな声でつむがれたお願いに、セリシールは満面の笑みを浮かべる。

 その笑顔は妖精のような可憐で可愛らしいものだった。


「やったぁ! もちろんいいよ! ね、ジンク?」


「ああもちろん、歓迎するよ」


 フリュイを安心させるようジンクも優しく微笑む。


「ありがとうございます!!」


 可愛らしく喜ぶフリュイをみて、レミもジンクへ話さなくてはと覚悟を決める。


「ジンクさん、あの……ごめんなさい。最初失礼な態度をとってしまって。ジンクさんとセリシールさんがいなかったらフリュイちゃんがどうなっていたか……」


「全然気にしてないから大丈夫だよ。セリシーに救われたなら、隣にこんなのがいたら気になるだろうさ」

 

 少し自嘲気味に話すジンクだったが、レミは大きく首を振って否定する。


「いえ! 勇者の騎士様ほど隣が似合う方はいないです!」


「えーと、すまない、その勇者の騎士とは?」


 聞きなれない勇者の騎士という二つ名が気になり、ジンクはレミに尋ねる。


「ご存知ないのですか! 勇者様の名誉が地に落とされそうになったとき、颯爽と首謀者に立ち向かい決闘で叩きのめし、勇者の名誉と自由を願ったジンク様のお話しを! 私はこの話しが好きで……」


 レミはジンクに熱視線を送りながら話をする。

 ああ……とジンクは右手で顔を覆った。

 ジンクはセリシールを貶めようとした元勇者パーティーの男に対して決闘を申し込み、見事に解決したのだった。

 その話しは吟遊詩人の歌や劇団によって舞台にもなり広まっていた。

 ジンクはあえてそれを耳に入れないようにしていた。


「わかった、止まってくれ。悪かった」


 ジンクの頼みに応じ、レミは名残惜しそうに話をやめる。


「ふふふっ、私の騎士様か……」


 誰にも聞こえないようセリシールは小さく呟いた。

 いつもの笑顔とは違う、憧憬のような、親愛のような、そして寂寥感。

 その全てが合わさった儚い笑顔をしていた。


「セリシールさん……?」

 

「ん? なぁに、フリュイちゃん?」


 その表情に気づき声をかけたフリュイだったが、まるでそんなことはなかったかのようにセリシールの表情はいつものものになっていた。


「いえ……。あ、そうでした、この村の守りについてなのですが……」


 その後フリュイからイオル村の守りについて、セリシールの力を借り、現在の魔法を一年保つようにすること、そのうちに後任の妖精が育つようにすること、後任の妖精が移動する時は後任が育ってから移動することなどが決まったことを聞いた。


 なぜここまでするのかジンクが聞くと、それほどまでにイオル草原とイオル村の環境が好きだということだった。


「じゃあ早速、森の幻術を解除しに行こう」


 ジンクの提案にみんな頷き森へ移動する。


ーーー


「それじゃあ、魔法を解除します!」


 フリュイが手を前にだし集中すると、森はキラキラと細かい光の粒となり、空に昇っていく。

 そして光の粒が無くなると、そこには森の奥で見たような花の咲き誇る美しい草原が姿を現した。


「それじゃ、フリュイちゃん、いくよ!」


「はい!『キラキラ包んで魔法の光、魔物さんに見つからないように』」


 フリュイはイオル草原と村を守るように認識阻害の魔法をかける。

 それを包み込むようにセリシールは魔力をゆっくりと広げる。

 その作業は数分もしないうちに終わった。


「これがイオル草原の輝く風か、普通だったら見れなかったな」

 

「綺麗だねぇ……」


 青々とした草や色とりどりな花を風が揺らし、花びらを散らす。

 その風に乗って、フリュイの魔法がキラキラと煌めに草原に広がっていく。

 青やオレンジ、黄色の花びらとフリュイの魔法が風に乗る様子は、まるで異世界のように幻想的であった。


ーーー


 その夜、村で小さな宴会が開かれた。

 それぞれの家庭が料理やお酒を持ち寄りみんなで食事をするだけだったが、過去に村を救ったセリシール、今まで村を守っていたフリュイは人気があり、常に人に囲まれていた。

 ジンクはというと、勇者の騎士の話しが広まったのか、一部の女性に囲まれ苦笑いを浮かべ対応していた。


「……うーん?」


 その光景を見たセリシールは、胸に何かがつっかえたような感覚を覚えたが、その正体については最後まで分からなかった。


 そして夜が更けていった。


ーーー


 村長宅の客室を借り、そこにジンクが。

 セリシールはレミの部屋で一緒に、フリュイはイオル草原でそれぞれ思い思いの時間を過ごした。


「さて、目標が一つ達成したな」

 

 昼の幻想的な光景を思い出し、ジンクの口角が上がる。

 1人で見たところで今日ほどの感動はないだろうと、セリシールの存在を改めてありがたく思う。


「まさか、妖精と旅に出ることになるとはな……」


 ふと思い立ち、一瞬逡巡した後、悪食の書を開く。

 習性や好みだけでも載っていないかと期待してのことだった。


『妖精』

 

 人間の言葉を理解し、対話することが可能。

 基本的に好奇心が強く友好的であるが、警戒心も強く普通であれば会うことはできないだろう。

 花の蜜や果実を食べるが、肉等を食べることも可能。

 花の蜜や果実のみを食べて育った妖精はどのような味が



 バタンと本を閉じる。

 

「まあ……甘いものが好きなのかな、今度用意してみようか」

 

 本の続きは無かったことにし、少しだけ得た情報を元にフリュイになにか用意しようと考えながら、ジンクは眠りに落ちていった。


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