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引退騎士の世界紀行譚 〜勇者になれなかった加護なしは、少女が救った『平和』を巡る〜  作者: 稗田


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第14話 大妖精フリュイ

 薄暗く、右も左もわからなくなりそうな深い森。

 ざわざわと不気味な音を奏でる森を3人で並び進んでいく。


「予想どおり、帰ってこなかったやつらは死んでいるようだな」


 ジンクは森の中で横たわっている骸骨を見つけ、しゃがみこむ。

 服や装備は残っているが、肉は綺麗に失われ、綺麗な白骨となっていた。

 通常この状態になるまで数年はかかるはずだった。


「植物系の魔法かな? 木とか草の養分にするような」


「ああ、しかし魔法はそれだけじゃないな」

 

 ジンクは脇差を手にし、近くの木を一刀で切り落とす。

 木は大きな音を立て森へ横たわった。


「……セリシー、俺は何を斬った?」


 セリシールはにっこり笑う。


「幻覚だよ。そもそもこの森全部幻覚だね! 私にもうっすら森が見えるよ、すごいね?」


 セリシールの加護を突き抜け、薄らと幻覚を見せるその魔法は、レミにとって危険な獣と遭遇する以上の恐怖の存在だった。


「これ全部魔法……?」


 周囲を囲う圧倒的な魔法に怯えるレミだったが、ジンクとセリシールはいたっていつもどおりに話をしていた。


「さすがに幻を全部吹き消すのはだめだよね? まだ理由もわかっていないし」


「そうだな、魔法の中心わかるか? そこまでセリシーについて行って大本をさぐる」


 ぽんぽんと決まっていくこれからの行動にレミはきょろきょろと2人を見るしかできなかった。


「勝手に決めてごめんな、というわけで、魔法の中心へ向かうことにしたよ。大丈夫、セリシーがいるから危険はないよ」


 レミを安心させるように、ジンクは笑いながら話しかける。

 毒気を抜かれたレミは、軽く頷くしかできなかった。


「じゃ、行こう!」


 セリシールがフッと手を縦に振る。

 すると木々が左右に分かれ、森の中に草花の絨毯が現れた。

 その光景にレミは固まり、ジンクも苦笑いを浮かべるしかできなかった。


ーーー


 森の道を進んで行くと、ぽっかりとひらけた場所に着いた。

 色とりどりの花が咲き、その花びらが風に飛ばされる様子は、花吹雪が舞い上がるようであった。

 

「ここが中心……?」


 レミが周囲を見渡すと同時にジンクは駆け出した。


「レミを頼んだ、ちょっと行ってくる」


「気をつけてね!」


 何が何だかわからないという顔をしたレミを置き去り、ジンクは草原の奥にある泉のところまで駆け抜けた。


ーーー


「いつまでそんな耐えられるかな?」


 泉の前には4人の男がおり、そのうち3人は抜き身の剣を手にしている。

 男の先には、小さい子どもほどの妖精がいた。

 その後ろには手のひら大の妖精たちがおり、大きな胡桃のような殻で護っていた。


「お前のせいで多くの仲間が死んだからな、せいぜい良い金になってくれ」

 

 3人の中で最も体格の良い男が、剣を殻に叩きつける。

 殻は粉々に砕け散り、涙目の少女が露わとなった。


「ほら、さっさと捕まえろ。……おい?」


 男が振り向くと、すでに剣を手にした2人は地面に倒れており、剣を手にしていない、恰幅かっぷくの良い装飾品をジャラジャラとつけた男は首に剣を添えられている。


「やあ、正義の味方登場だよ。その子から離れてもらおうか」


 ジンクは冗談めかし、笑いながら男に話しかける。

 ジンクの手にした剣は、男の太い首に埋まり込み、今にも皮を裂き、血を流しそうになっている。


「正義の味方は人質を取らないもんじゃないのかい?」


 剣を手にした男は両手をあげ、鼻で笑う。


「善良な女の子を救うのに手段は選んでられないからね。ほら、剣を置け」


 ジンクの言葉に男は剣を置かず、ジンクへ向けて構えた。


「まあ、捕まったらおしまいだからね。その依頼主が死んだとしても、俺は逃げるよ?」


「そうだと思ったよ」


 ジンクは恰幅の良い男のアキレス腱を斬り、身動きを取れなくする。

 ギャッという声とともに、青々とした草原に赤い血の花が咲いた。


「えげつないな、正義の味方さん!」


 言い終わるや否や地面を蹴り、ジンクの首へ突きを放つ。


「逃げられると困るんでね」


 その突きをジンクはあっさりかわし、上半身へ蹴りを叩き込む。

 しかしその蹴りは男の左腕に防がれた。


「思い出した、お前、傭兵団の団長だな? 前に国で雇ってたのを見たぞ」


 後ろに下がる傭兵に脇差で切り掛かりながら話しかける。

 傭兵も躱し、剣でいなし、反撃する。


「あー、そういうお前は騎士団か? なんか見たことある剣術だと思ったら」


 目まぐるしく攻防が変わる中、傭兵はちらっとジンクの後ろを見る。

 するとそこにはセリシールとレミが走って来ていた。


「なら俺も人質を取るとするか!」


 傭兵は立ち回りのなかで大きく間合いを取り、セリシールとレミに向かい跳ぶ。

 そしてレミに手を伸ばしかけたところで、強烈な寒気を感じ、汗を吹き出し横へ転がり逃げた。


「あれ、おじさん結構強い? よく気づいたね」


 氷のように冷たい笑みを浮かべ、傭兵を見るセリシール。

 その手には数秒前にはなかった剣が握られていた。

 あと手を引くのが1秒でも遅れたら、その腕はいとも容易く両断されていただろう。


「お嬢さん……化け物かい?」


 セリシールはにこりと笑い、指先を下から上へと動かした。

 すると足元の草花は意思を持ったかのように傭兵に絡み、地面へと縫い付けた。


「ジンク、余計なお世話だった?」


 少し困り顔でジンクを見つめるセリシール。

 コロコロと変わる表情にジンクは不意に笑いそうになる。


「いや、俺だと少し手こずりそうだったから助かったよ、ありがとうな」


 ポンとセリシールの頭に手を乗せる。

それをセリシールはくすぐったそうに目を細め受け入れる。


「さてセリシー、他の3人も拘束してくれるか? そうしたら、妖精さんに会いに行こうか」


「うん、行こう!」


 まばたきひとつするあいだに男たちは拘束され、3人はオドオドと怯えている妖精たちに近づく。

 ジンクは片膝をつき、ひとまわり大きな妖精に話しかける。


「こんにちは、怪我はなかったかい?」


 妖精はジンクたちを見渡し、危害を加えないとわかったのか、ゆっくりと話し出す。


「危ないところをありがとうございました、フリュイといいます」


 フリュイと名乗った妖精は、深々と頭を下げお礼をする。

 レミは妖精を初めて見たのか、目をキラキラとさせ、興奮に震えていた。


「森の幻術を使っていたのはフリュイかな?」


「はい、最近何度も妖精を狙ってくる人がいたので、なんとかしようと思って……」


 妖精たちは、ほっとしたように顔を見合わせる。


「ああすまない、俺たちの名前を言ってなかったな」


 名前を伝えようとするジンクに先んじて、フリュイは話し出す。


「わかりますよ、王国騎士団遊撃大隊長のジンクさん、勇者セリシールさん、そしてイオル村のレミさん!」


「えっ、私の名前知って……それに遊撃大隊長って勇者の騎士? それより勇者って!」


 妖精に名前を知られていたことや同行者の正体に、レミは目を回す勢いで慌てていた。


「……勇者の騎士? いや、まあいいや、フリュイのそれはスキルかな?」


 聞き慣れない肩書きにジンクは一瞬引っ掛かりを覚えたが、とりあえず今は気にしないことにした。


「そうです、妖精見聞録というスキルで、世界の妖精の情報が私に入ってきます! ジンクさんとセリシールさんは歌で、レミさんはいつも見てました!」


 ジンクはその言葉に背筋が寒くなった。

 情報が選べないとはいえ、世界の至る情報がフリュイに集まるのだ。

 その価値は計り知れない。


「俺はもう騎士団を辞めたし、セリシールは今勇者を隠してるんだ。秘密にしてくれるかい?」


 ジンクは立てた人差し指を鼻に当て、しーっと笑いかける。

 フリュイも笑いながらジンクの真似をする。


「あの、妖精さん……。もう草原って元に戻らないんですか? おじいちゃんがあの景色が好きで……」


 初めて会う妖精に聞きたいことはいろいろとあるだろうが、1番初めに聞いたのは、祖父が好きな風景をまた見られるかどうかだった。


「ええっと、森自体はすぐ消せるんですけど、また襲われたら……」


 ちらりと恰幅の良い男を見る。

 その目は飢えた獣のように妖精を見つめていた。

 ジンクがバスタードソードを顔の横に突き立て睨むと、男は冷や汗を流し、視線をそらした。


「じゃあさ、妖精さんがいなくなればいいんじゃない? 妖精さんがいるから変な人が来るんでしょ?」


 セリシールの急な提案にジンク以外は目を丸くする。


「ええと、でもそうなるとその代わりに魔物が……」


 おずおずとフリュイが指摘をするが、それに対してもセリシールは返答する。


「魔物が村にあまり来ない理由って、フリュイちゃんたちの魔法で村を見えにくくしてるのと、自然に避けるようにしているんでしょ?」


 言い当てられ驚いたのか、フリュイはびっくりした顔で首を縦に振っている。


「ならその魔法を私も手伝って、フリュイちゃんが離れても続くようにするよ!」


「いい案だと思うけど、フリュイたちの気持ちも聞かないと。勝手に決められるのは嫌だっただろ?」


 あっ、とセリシールはしゅんとする。


「ごめんなさい、フリュイちゃんはどう思う……?」


 急に話しを振られて一瞬驚くが、それでもなんとかポツポツと話し出す。


「えっと、私もそろそろ旅に出たいなとは思っていました、でも村を見捨てることは出来ないとも思っていました……」

 

 妖精は旅をして世界の自然を巡るとジンクは聞いたことがあった。

 フリュイの言葉にセリシールはパッと花が咲いたような笑顔になる。


「フリュイちゃん、なら私たちと一緒に行くのはどうかな? ね、ジンク?」


「ああ、俺は構わないが……」


 ちらりとフリュイの顔を覗き込む、その表情からセリシールの提案に不快感は覚えてないと考え、ジンクは話しを続ける。


「フリュイ、俺たちは今世界を旅しているんだ。もしよかったら一緒に来ないか? きっとフリュイが見たこともない景色を一緒に見られると思う」


 突然の提案にフリュイは目を白黒させ、後ろの妖精やジンクたち、レミに視線を右往左往させている。


「そうだな、明日答えを聞かせてもらってもいいかな? こいつらを牢屋に入れてから戻ってくるよ」


 そう言うとジンクは魔法で男たちをひとまとめにし、身体強化で担ぎ上げた。


「レミ、危険はなさそうだけど、フリュイともう少し話しをしていくか? 俺らは一度このままワヌタへ向かうけど」


「えっと、フリュイさん、お話ししてもいいですか……?」


 フリュイが嬉しそうに首を縦に振るのを見て、レミは森に残ることを決めた。


「村長には話しておくが、遅くならないようにな?」


 ジンクはセリシールの先導で草原を駆け抜けた。

 セリシールと身体強化をかけたジンクの脚は、あっという間にレミたちの目から見えなくなった。


ーーー


「ジンク、4人も持つのキツくない? 私も持とうか?」


 汗を流し、少し辛そうな顔をするジンクにセリシールは声をかける。


「うーん、セリシーにこれを持たせるのは嫌だから、大丈夫、俺が運ぶよ」


 顔を真っ赤にし両手を頬に当てるセリシール、その顔を見て、運ばれている傭兵はげんなりとするのであった。



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