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引退騎士の世界紀行譚 〜勇者になれなかった加護なしは、少女が救った『平和』を巡る〜  作者: 稗田


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第13話 精霊宿りの森

「おはようございます、出発の挨拶に来ました」


 朝一にジンクとセリシールはギルドを訪れた。

 受付がお辞儀をし奥へ行くと、ギルド長が奥から歩いて出てきた。


「おはようございます、全て準備は出来ております」


 ギルド長は銀貨の詰まった袋と一枚の紙を机に乗せた。

 銀貨の量に2人は大変驚き目を丸くする。


「ギルド長、さすがにこの報酬は多すぎるのでは……?」


「これはギルドだけの報酬ではないんですよ。学校の教師、衛士隊、様々なところからお礼として渡してほしいと受け取りました。ぜひお持ちください」


 ニコニコと袋をジンクの方へ寄せる。

 多くの人の好意を無碍むげにはできず、ジンクは困ったように笑いながら銀貨の袋を受け取る。


「ありがとうございます、大切に使わせていただきます」


「それが良いです。そしてこちらの紹介状はハクタクに到着したら港にいる衛兵に見せてください、きっと良くしてくれますよ」


 ジンクとセリシールがギルド長と話をしていると、バタバタとギルドの入口から駆け込んでくる音が聞こえた。


「ジンクさん!」

「セリシールお姉ちゃん!」


 タイミングを合わせたかのようにダンとリリーが姿を現す。

 2人とも今日ジンクたちが旅立つことを知っていたようだ。


「もう行かれてしまうのですね、訓練ありがとうございました、ジンクさんがいなければもう……!」


「セリシールお姉ちゃんもありがとう、魔法のこといっぱいわかって楽しかったよ!」


 教え子たちの感謝にむず痒さを覚える。

 特にセリシールは直接感謝されることがほぼなく、表情が少しニヤけている。


「2人とも、これからの成長楽しみにしてるよ」


「リリーちゃん、友達と仲良くね!」


 ジンクとセリシールは2人に手を振りながらイオル草原へと向かって行った。




「勇者様、今度は旅をお楽しみくださいね」


 ギルド長がぼそっと呟いた一言は、誰の耳にも届かず、そのまま消えていった。


ーーー


 ワヌタから徒歩半日、と言ってもそれは普通の人の話。

 ジンクとセリシールは数時間のうちにイオル草原の近く、イオル村へ到着した。



『イオル草原』

 見渡す限り緑色をしている、広大な草原。

 風に波打つ光景は、まるで緑の海にいるように錯覚させる。

 ときおり強く吹く風には魔力が宿っており、光り輝いて見える。

 また、妖精の目撃が多く、風に妖精の鱗粉が混ざっていると噂になっている。

 不思議なことに、魔物の発見が極端に少ない。

 

「……広大な草原、なんだよな?」


「前来たときも、こんなのなかったなぁ……」


 ジンクとセリシールは、イオル草原があった場所にたどり着いた。

 しかしそこは、鬱蒼うっそうとした森となっていた。


「異変かもしれない、まずイオル村の人に話を聞こうか」


ーーー


 イオル村に近づく。

 魔物の被害が全くないイオル村では柵はなく、まばらに民家や道具屋、食料品を売っている店などがある。

 しかしジンク達をみると、皆、姿を隠してしまった。


「みんなどうしたのかな、前はゴブリンを怖がっていたけど、こんなに雰囲気悪くなかったよ?」


 セリシールは不思議そうに首を傾げる。

 そして以前ゴブリンを退治した時に話をした、村長のところへ脚を向けた。


「こんにちは、村長さんいますか!」


 元気な声に出てきたのは、顔に傷を負った年老いた男性であった。

 よろよろとふらつく姿は、いつ倒れてしまってもおかしくない。


「村長さん、大変!」


 セリシールはバッとジンクの方を向く。

 ジンクはすでに指輪から上級のポーションを取り出していた。


「セリシール、多分回復魔法では無理だ。これを飲ませてくれ」


 セリシールはジンクからポーションを受け取ると、村長へと声をかけた。


「村長さん、これ飲んで! きっと治るから!」


 その声に村長は従い赤いポーションを飲み干す。

 すると顔や頭にあった傷は、あっという間に消え失せた。


「君は、セリシールさんだったかな……? この老骨を助けてくれてありがとう……」


 今なら話が通じるだろうと、ジンクがセリシールの横に立ち、村長に話しかける。


「こんにちは、元王国騎士団のジンクと申します。村の雰囲気がかなり硬いようですが、どうかされたのですか?」

 

 騎士団の名を聞き安心したのか、村長はポツリと話し始めた。


「魔王が復活し討伐されるまで、この村への襲撃はゴブリンの大群の一回だけでした。そのことから、妖精がここを守っていると話が広まり、ならず者が妖精を捕まえに、この村に押しかけてきたのです」


 村人が外から来た人を警戒する理由にジンクは納得した。

 外の人から被害を受けたのなら、武器を持っているジンク達を警戒してもおかしくはない。


「それでそいつらが草原に入り込んだら、森が急に現れて……」


「森ができて被害は出ていないのですか?」


 ジンクの言葉に、村長は困ったような表情をみせる。

 しかしそれはどちらかというと、困惑が強く感じられた。


「いえ、むしろありがたいくらいで……。ならず者が森に入ると2度と出てこないのですが、村の者が入ると、翌日何事もなかったかのように、森の外に出されているんです」


「なるほど……私たちも森の中に入ってもよろしいですか?」


 ジンクの提案に、とんでもない!と村長は慌てて引き止める。

 それくらいは信頼関係を築けていた。


「村を救って下さった方とそのお連れ様をむざむざ危険な場所へ送るわけにはいきません……!」


「でも村長さん、前言ってたよね? 草原のキラキラ光る風が大好きだって、ゴブリンから取り返して欲しいって。大丈夫、それと同じだよ!」

 

 セリシールの言葉になおも悩む村長だったが、やや経ってようやく口を開く。


「わかりました、では私の孫を連れて行ってください。軽業師や短剣術の加護を持っているため足手まといにはならないと思いますので」

 

 村長の声が聞こえたのか、奥の部屋から女の子が出てきた。

 肌は浅黒く日に焼けており、細身でしなやかな体躯は狩りによってつちかわれたものだとわかる。


「こんにちは、レミといいます! セリシールさん、ゴブリンの時はありがとうございました! あと、ジンクさん? よろしくお願いしますね!」


 快活なレミはセリシールをキラキラと羨望の眼差しで見つめる。

 この村ではセリシールは勇者ではなく、村を救った強いパーティーという認識だった。


「私はいつでも行けますけども、2人はどうですか?」


 両手の拳を握り込み、やる気満々だと意思表示をする。

 その視線を受け、セリシールはジンクと目を合わす。


「ジンク、どうする?」


「まだ昼を過ぎたばかりだし、行っても大丈夫だろう。大きい森でもなさそうだしな」

 

 ジンクの回答にうんうんと頷き、急遽森への調査が決定した。

 最終決定をしたのがジンクだったからか、レミは少し不満そうだ。


「ジンクさんが指揮を取るんですか? セリシールさんより強かったり、すごい加護を持っていたり?」


「いや、セリシーの方が何倍も強いし、俺に加護はないよ」


 軽く笑いながら答える言葉にレミはさらに嫌そうな顔をする。


「セリシールさん、旅の仲間考えた方がいいですよ……?」


 そんな言葉にもセリシールはニコニコしている。

 

「ふふふ、私がジンクと旅したいからいーの!」


 ジンクとレミの前に出て、くるりと振り返る。

 その動きに合わせてふわふわとした銀髪とスカートがひるがえる。

 命の危険すらある森の調査でも、セリシールにとってはジンクとの楽しい冒険であった。

 

「じゃ、行こっか!」


 セリシールが森の前に立つ。

 暗く全てを飲み込みそうな雰囲気を持つ精霊宿りの森、その森を前になおセリシールはニコニコと楽しそうに笑顔を見せるのであった。



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