第12話 次なる旅立ち
訓練開始から3日が経ち、訓練場にはダンとリリー、ギルド長の他に、衛士隊長とリリーの学校の教師が呼ばれていた。
「さて2人とも、訓練の総仕上げは過去の2人を見ていた人に認めさせることだ」
ジンクは衛士隊長に目を向ける。
その視線を受け衛士隊長はダンの前に歩み出た。
「俺からの試験は立ち合いだ、どれだけ加護の力を制御できているか試させてもらう」
ダンに木でできた大剣を渡し、衛士隊長は長剣を構えた。
それを見て、ダンも大剣を構える。
3日前と比べさまになっている構えは、長年街を守ってきた衛士隊長でも、重い威圧感を覚えた。
「いくぞ」
踏み込み縦に振り下ろされる長剣を大剣の腹で受け、横へ流す。
続く攻撃もしっかり受け止めはじき返す。
防御にも使える大剣の特徴を訓練でつかみ、ダンの防御は容易く崩せるものではなくなっていた。
「防御はいいな、しかし、防御だけしているわけにはいかないだろう?」
少し距離を空けた衛士隊長に向かいダンは踏み込み、横薙ぎの斬撃を放つ。
相手の両手首を奪ったその横斬りはいまや正しい制御をされ相手に向かう。
何度か剣を交えたあと、衛士隊長はいきなり剣を持つ手を緩めた。
ダンの斬撃はそのまま剣を弾き飛ばし、衛士隊長の身体を弾き飛ばす……ことはなかった。
服一枚で寸止めされた大剣は、ダンの完全なる力の制御を示していた。
「……合格だ、明日から加わってくれ」
ダンの肩を叩いたあと、ジンクと向かい合い話しかける。
「ここまでやってくれるとは思わなかった。有望な若者の指導、感謝する」
衛士隊長はジンクに頭を下げ訓練場を後にしていく。
その姿を見てようやくダンは自分の合格を実感し、衛士隊長へ向け頭を下げた。
「さて、次はリリーの番ね?」
リリーの近くに寄ってきたのはメガネをかけた女性で、先生というよりは学者の雰囲気に近い。
女性はしゃがみ込み、リリーの目線に合わせ、話しかける。
「リリー、ごめんなさいね。私が未熟なばかりに魔法の制御も教えられず、友達にも怪我をさせてしまって……。今日はリリーの頑張った姿を見せてね?」
極度の不安と緊張で顔を青くしたリリーだったが、先生の言葉を受け、気丈に微笑む。
「うん……先生、見ててね?」
リリーは一度深呼吸をする。
そして、大きく息を吸い込み、詠唱を開始する。
「『球・形どる・炎』火球……えいっ!」
リリーの手に歪みひとつない炎の球が出現する。
その炎の球はリリーの掛け声とともに的へ向かい、触れた瞬間にボンと爆発した。
「魔力を込める量のコツと、制御方法さえ教えればすぐできるようになったよ!」
教えた成果がしっかりと発揮され、セリシールは自分ごとのように胸を張って喜ぶ。
「先生、これで、みんなと勉強できる……?」
先生は肩を振るわせ、リリーを抱きしめる。
その瞳は涙で濡れていた。
「大丈夫、みんなリリーを待っていてくれているから……」
しだいにリリーも嗚咽を漏らしはじめ、しばらく2人は抱き合い涙を流していた。
「失礼しました、リリーさんが戻ってくるのがとても嬉しくて……。もちろん試験は合格です。本当にありがとうございました」
目を赤くした先生がリリーと並び、ジンクとセリシールに向かい頭を下げる。
「リリーちゃん、みんなと仲良くね!」
にっこりと手を振るセリシールにリリーは手を振りかえし、何度も振り返りながら先生と訓練場を後にした。
「ジンクさん、セリシールさん、本当にありがとうございます」
ギルド長は2人へ深く頭を下げる。
「あの2人はきっと、この街になくてはならない存在となります。報酬はできる限り用意させていただきました」
「いえ、私としても素晴らしい才能が潰えなくてよかったと思います」
本心だと感じさせるジンクの言葉であったが、セリシールはその言葉に虚無感が混じっているように感じられた。
そしてそれはセリシール自身にも。
「次はどこに行こうか決めているのですか?」
ギルド長の言葉にジンクはセリシールに視線を向ける。
セリシールは任せるといった意図を込め、ジンクに頷きを返した。
「北にあるイオル草原を経由して、西にある港町、グェルーダを目指します」
北には大陸を2分割する深い森があるため、ジンクはその森を西に迂回し大陸を巡る予定であった。
「ふむ、ならそこから船で西端の大陸、ハクタクへいくつもりはあるかな?」
多種族国家ハクタク、そこは海に囲まれており、船でしか行くことができない。
大きな特徴として、害意を持つ者以外全てを受け入れ、人間、獣人、ドワーフ、エルフ、魔人と多くの種族が共存している。
「はい、そこも訪れる予定です」
その答えにギルド長の顔がパッと明るくなる。
それはようやく役に立てることができそうだという安堵の表情だった。
「でしたらいま紹介状を書きます。それがあればセリシールさんも身分を明かさず入国できるはずです」
ジンクは少し笑いながら、ギルド長の配慮に感謝し応える。
「やっぱりギルド長にまでなるとバレてしまいますか……?」
「いえ、私の場合は以前に勇者様のお姿を見ていましたのでわかりました。しかし最初は確信が持てませんでした」
ギルド長がちらりとセリシールを見る。
セリシールは微笑みながら首を傾げる。
小柄で愛らしい顔つきのセリシールが首を傾げると、まるで小鳥のような可愛らしさがある。
「以前は表情もなく、誰も寄せつけないような冷たさが表情にありました。今はとても幸せそうですね」
当時のセリシールをと今のセリシールを比べてか、自然とギルド長の口元に笑みが浮かんだ。
「あ、ギルド長さん、よく見たら北部のギルドにいた人……? うう、あの時はいっぱいいっぱいで……」
あまり思い出したくないのか、両手で顔を覆い隠す。
隠しきれていない両耳は真っ赤に染まっていた。
「あのとき私は何もしてあげることが出来ませんでした。今回の旅はせめて少しだけお手伝いさせてください」
「……ありがとうございます」
恥ずかしさから少しうつむきながら返事をするセリシールを微笑ましく思いながら、ギルド長は話を続ける。
「明日いつでも受け取れるようにしておきますので、好きな時間にいらしてください」
「何から何までありがとうございます、また明日寄らせていただきますね」
頭を下げ、ジンクとセリシールは訓練場を後にした。
ーーー
「次の目的地はイオル草原? 楽しみだね!」
宿泊している宿へ向かう途中、セリシールは
キラキラと輝くような笑顔でジンクに話しかける。
その様子にジンクも嬉しくなり、1人で行くと決めていた時よりも、世界の旅が楽しみになった。
「なんかいい出会いがあるような気がするよ!」
それはたまたまなのか、加護による直感なのか。
イオル草原では今、大きな異変が起こっていた。
イオル草原に突如現れた小さな森へ一度入ると翌日、森での記憶を失った状態で発見される。
しかし中には入ったまま2度と帰ってこないものもいた。
精霊宿りの森が口を開け、今日も迷い人を待っている。




