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引退騎士の世界紀行譚 〜勇者になれなかった加護なしは、少女が救った『平和』を巡る〜  作者: 稗田


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第11話 加護の力

 春の陽気が暖かく5人を包む中、訓練は始まった。

 訓練場では冒険者や衛士が訓練をしていたが、見慣れない人がギルド長と共に来たため、大きな注目を集めている。

 そんな中でジンクとダンは広く場所を取り訓練を始めた。


「ダンは今まで荷物運びとして力を使ってきたんだ。今回は自分の力の限界を知って徐々に手加減を覚えていこう」


 そういうとジンクはダンから少し距離を取り、木刀を握り向かい合った。


「ジンクさん、あの、失礼ですがジンクさんは加護をお持ちじゃないですよね……? 怪我をさせたりしてしまったら……」


 加護なしと軽んじられたことにジンクは不快な顔ひとつせず、不敵にニヤリと笑った。


「初心者に怪我させられるほどやわな鍛え方はしてないよ、遠慮せずにどうぞ」


 ダンはグッと大剣を握り込み、まるで戦い方を知っているかのように踏み込み横薙ぎにジンクの胴へ攻撃を仕掛ける。

 しかしその攻撃は、カンという軽い音と共に逸らされ宙を薙いだ。


 しかし加護の力はさらに追撃を加えるべく、ダンは身体をぐるりと回転させジンクの頭に向けて縦に斬撃を放つ。

 それに合わせジンクも身体を回転させ、剣を大剣とぶつかり合わせる。

 ジンクの斬撃は大剣の腹を的確に捉え、大剣はそのまま地面に突き刺さり土の地面に大きな穴を開ける。

 その数合の打ち合いにダンはジンクとの格の違いを思い知った。


「ほら、大丈夫だろ? 遠慮せずにおいで」


 ジンクは肩に剣を担ぎ、逆の手のひらをクイっと自分に向け曲げ、かかってこいと示す。

 その動きにダンは改めて大剣を握り直し駆け出した。


「ジンク達は大丈夫そうだね、私たちも始めようか!」


「はい、お願いします!」


 さて、とセリシールは四方を見渡す。

 それだけで魔法も物理も断絶する光り輝く壁が出来上がった。


「よし、私へ魔法を好きに撃ってみて! 私はジンクよりも強いよ?」

 

 リリーを安心させるための言葉だったがジンクにも聞こえていたようで、ジンクは苦笑いを浮かべている。

 魔法を放つことにリリーは顔を青ざめさせ逡巡していたが、意を決して両手を前へ向けた。


「では行きます……。えい!」


 詠唱なしで飛び出した魔法は火炎放射器のように炎がうねり、セリシールへ襲いかかる。

 触れなくとも焼け焦げるほどの熱量は、セリシールの腕の一振りで消え去った。

 その光景にリリーは目を丸くして驚いている。


「なるほどね、いい魔法だよ! 午後はしっかり詠唱して、魔力をコントロールできれば大丈夫かな?」


 セリシールはにっこりと笑い、安心させるように伝える。

 ちょうどその頃ジンクとダンの力試しも終わったらしく、ダンが地面に転がされていた。


 子供や元荷物持ちが加護の力で凄まじい力を見せる一方、それを手玉に取る加護なしやより上位の加護の力。

 ギルド長を含む訓練場全員が4人から目を離せなくなっていた。


ーーー


「お疲れ様、ダンの方は大体わかったから2、3日あればいけそうかな。セリシーの方はどうだ?」

 

 うーん、と考えるセリシール。


「加護の補助もあるだろうから、こっちも魔法自体は2、3日で制御できると思う。あとは心の問題かな?」


 魔法は精神が重要となり、心が乱れることで制御出来なくなることを危惧していた。


「制御さえ教えていただければ、あとは私たちギルドの方で2人をサポートいたします」


 真摯な態度で話すギルド長にジンクとセリシールは頷きあう。


「ではギルド長、本日から3日を目標に2人を指導したいと思います。報酬の方はよほど足元をみない限りは受けたいと思いますので、午後に教えてください」


 依頼という形で受けるため、報酬について触れておく必要があったが、ジンクもセリシールも2人のためなら無報酬でも構わないと思っていた。


「ありがとうございます、お2人の経歴やスキルを踏まえ、後ほどお伝えいたします」


 こうして4人の訓練が始まったのだった。


ーーー


「魔法は、語句の数で級が分けられるのは知っているかな?」


 訓練場の端でセリシールはリリーに魔法の基礎について教えている。


「はい、5個までが初級、10個までが中級、15個までが上級、それ以上は超級に分類されます」


 うんうんと頷き、セリシールは詠唱をする。


「『球・形どる・炎』火球」


 セリシールの右手に手のひら大の炎が出現する。

 それは綺麗な球状になっており、セリシールの魔力操作の精密さが感じ取れる。


「これが1番簡単な炎系魔法の火球だね、じゃあこれに詠唱をさらに加えるよ!」


 セリシールは、ふっと火球を消し、別の詠唱を行う。


「『火球・立ち上がれ』炎柱」


 今度はセリシールの横に炎の柱が立ち上がった。

 その高さはとても頂上を見ることはできないほどであった。


「じゃあこの魔法はいくつの言葉でできている?」


「火球で3つ、それに1つ足して4つです」


 スラスラと淀みなく答えるリリー、彼女は魔法を少しでも制御するため魔法に関して多くの知識を学んでいた。


「基本は大丈夫だね! まずは初級魔法で制御を学んでもらうけど、目標を知ってもらった方がいいかな?」


 セリシールは手のひらを横に向け、丁寧に詠唱を開始した。


「『炎槍・焦熱・猛々しく・鋭く・鋭く・追いつき・貫き・燃やし尽くせ』焦熱炎槍グングニル」


 現れたのは燃え盛る炎の槍であった。

 完璧な魔法制御はその燃え盛る炎ですら熱を感じさせず、美しいオブジェのようにその場に鎮座している。

 セリシールが手を上に振ると、それに呼応するように炎の槍は空へと放たれた。

 まるで炎の尾を引く槍は、光線の如く頭上にあった雲に穴を開け空へと消えていった。


 その光景にリリーも周囲で訓練をしていた人も、ジンクを除きぽかんと口を開け、ただその光景を見ているしかできなくなった。


「炎帝の加護は無詠唱でここまでできるようになるの、望んでも望まなくてもね? だから今のうちに制御を学んでおかないと周囲も自分も危険になるんだ」


 セリシールは真剣な面持ちでリリーに話す。

 加護が引き出す力の恐ろしさを知るセリシールは、このことを幼い魔法使いに伝えたかった。


「はい……! セリシールさんはこの魔法も無詠唱で使えるんですか?」


「……うん、使えるよ」


 一瞬の逡巡の後に答えるセリシール、表情がほんの少し陰り、視線が揺れる。

 ジンクであれば気づけたであろうその違和感は、誰にも気づかれることなく消えていった。


「よしじゃあまずは、火球を綺麗に作れるようにしようね!」


「はい!」


ーーー


「大剣の型はこんな感じだ、専門ではないから形と動きしか教えられないが、まずそこをしっかり固めることで加護を把握しろ」


 ジンクはダンに大剣の型を教え、それにより身体の動きを制御するよう訓練を行なっていた。

 加護の力なのか、すでに型は出来てきており、あとはそれにどれだけの力が加わっているのか身体に染み込ませるのみであった。


「ジンクさんは片手剣ですよね、なんで大剣の型まで覚えているんですか?」


 型を確認しつつダンはジンクに尋ねる。

 ジンクは片手剣の王国剣術を修めており、大剣の型とは全くの別物であった。


「加護がなかったからな、短剣、大剣、槍、斧、全部試したんだ。結局取り回しが良く使い慣れている剣にしたが」


 ジンクは訓練場の備品から槍を取り出し、軽く型を披露する。

 流れるような槍捌きは見る人を翻弄する。

 その槍を斧に見立てて型を変える。

 両手で槍を持ち、大斧に見立て披露したその型は、たしかな重量感を持っているような錯覚を引き起こし、敵を武器ごと押し潰すような振り下ろしは見るものの内臓に、ずんと衝撃が響くように感じられた。


「まあ、型は出来ても実戦では使えない。これはただの身体を制御する訓練だよ」


 槍を戻し、ダンの近くへ戻る。

 ダンは大剣を振り下ろした姿で固まっており、ただただジンクを見つめている。


「ほら、時間がないぞ! 今日中に型を完璧にして、明日からは実戦の中で力の調節をするぞ」


「あ、は、はい!」



 後に2人はワヌタの守護神と炎槍の申し子と2つ名を得るほどに成長する。

 そして生涯、ジンクとセリシールの名が2人から語られるのであった。


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