↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見難い火傷の子  作者: 清風
579/652

亜細亜線 バビロニア新聞記者マルコの旅日記編 序 記者マルコ、筆を執る

挿絵(By みてみん)

見難い火傷の子579


亜細亜線 バビロニア新聞記者マルコの旅日記編 序 記者マルコ、筆を執る


深淵ダンジョン第十六エリア、第四紀完新世層

青銅の時代

この地では、生きるものすべてが八倍の大きさで存在する。


『バビロニア新聞記者マルコの旅日記』

序 記者マルコ、筆を執る


私の名はマルコ。

バビロニア新聞に籍を置く記者である。

戦場の勝ち負けを数えるほど勇ましくもなく、

宮廷の奥で密談を拾うほど器用でもないが、

駅に立てば人の流れを見、食卓に着けば土地の匂いを嗅ぎ、

帳場に座ればその町が何で食っているかを考える程度の目は持っているつもりだ。


このたび本紙は、鉄道国が誇る大幹線――亜細亜線の実情を見届けよとの命を私に下した。

草原を越え、ウランバートルに至り、

上都、大都、吐蕃、天竺を経て、再びバビロニアへ帰るという。

話だけ聞けば、地図の上で酔った役人が引いた線のようでもある。

だが近ごろ本国の市場では、北方の羊毛が値を下げ、

天竺の香辛料が以前より早く届き、見慣れぬ高原の織物まで並ぶようになった。

線路というものは、役所の自慢話で終わることも多いが、

品物が先に着いてしまうと、新聞記者としては無視もできない。


編集長は出発の朝、私にこう言った。

「褒めるな、媚びるな、だが見たものは曲げるな」

まことに結構な訓示である。

新聞人は疑ってかかるのが商売だ。

私もまた、鉄道国の言う“文明を結ぶ大幹線”なるものを、

半ばは誇張、半ばは宣伝と見ている。

もっとも、残る半ばについては、まだ自分でも何と呼ぶべきか分からない。

期待、と言うには職業柄しゃくに障るし、好奇心と言うには少し腹が減っている。


私は旅先で、名所旧跡だけを書くつもりはない。

駅の時計が何を支配しているのか、どの荷がどこへ流れ、

誰がその列車に乗り、何を食べ、何を恐れ、何を望んでいるのかを書き留めたい。

草原の若者がどんな顔で切符を握るのか。

都城の役人が何を急ぎ、高原の僧が何を運び、天竺の商人が何を値踏みするのか。

そういうものは、たいてい勅令よりも雄弁である。


もっとも、私は聖人でも学者でもない。

腹が減れば駅前で何か食うし、寒ければ熱い茶を探すし、

うまいものがあれば政治より先にそちらを書くかもしれない。

だが、それでよいとも思っている。

人は食う。

物は運ばれる。

駅はそのあいだに立っている。

ならば一杯の茶、一皿の肉、一枚の焼餅から見える帝国もあるはずだ。


かくして私は、バビロニア中央駅の切符売場に立った。

行先は一つの駅ではない。

草原を越え、都を結び、高原を渡り、天竺を経て、再び帰ってくる大陸の環である。

もし鉄道国の言うことが本当なら、この旅は単なる乗車記では済まないだろう。

もし嘘なら、それはそれで立派な記事になる。

いずれにせよ、記者にとって悪い旅ではない。


では、書き始めよう。

汽笛はすでに一度、短く鳴った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。