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見難い火傷の子  作者: 清風
573/645

ナッツ大陸、アースロプレウラトラックの行進

挿絵(By みてみん)

見難い火傷の子573


ナッツ大陸、アースロプレウラトラックの行進


生物のアースロプレウラが泳げたかは知らないが、

このアースロプレウラトラックは浮きを付けて海を渡ることもできた。

もっとも、航行は遅かった。

上陸すると、浮きはしぼんで体内に収納され、そのまま街道を進んでいった。

次々と上陸したアースロプレウラトラックは、軌道を載せたまま列をなし、街道を進んでいった。

それらは所定の敷設メンテゴーレムのもとへ、資材を配達するのだった。


アースロプレウラトラックが幾台も連なり、軌道を載せて街道を運んでいく光景は圧巻だった。

ギルドからは冒険者たちが何事かと顔を覗かせ、興味津々にその列を見送っていた。

各街のギルド長たちは、通達どおりの光景を目の当たりにして、なお口をあんぐりと開けた。

知らされてはいたが、実際に見るのとでは話が違う。

その顔からは、見事なまでに魂が抜けていた。

日頃は凶暴な魔物たちも、その列の威容に怯えて近寄ろうとしなかったのは、良い副次効果と言えた。


ゴブリンの村はパニックに陥っていた。

彼らにしてみれば、街道を埋めて進むその巨列は、軌道輸送などという生易しいものではなく、

災厄そのものの行進にしか見えなかった。


その報告を受けたテレースは、こめかみを押さえながら深く息を吐いた。


「ええ、まあ……そうなるわよね」


通達は出していた。

街道沿いの各街にも、ギルドにも、周辺の有力者にも、事前説明は済ませてある。

何が通るのか、何のための輸送なのか、危険はあるのか。

必要なことは一通り伝えた。

伝えたのだが、それで混乱が防げるかどうかはまた別の話だった。


紙の上で読む「大型輸送機が複数、軌道資材を積載して街道を通過する」という一文と、

実際に街道を埋めて進むアースロプレウラトラックの巨列とでは、受ける印象がまるで違う。

むしろ、あの光景を正確に文章で伝えきれるなら、その書き手は詩人か何かだろうとテレースは思った。


「ギルド長たちは?」

「現在も呆然としている者が多いとのことです」

「でしょうね」


即答だった。


「冒険者は?」

「面白がって見物している者が多いようです。

護衛任務と勘違いして、勝手について行こうとした者もいたとか」

「止めたのよね?」

「もちろんです」


報告を続ける部下の声は淡々としていたが、その内容は淡々では済まなかった。


「ゴブリンの集落が一つ、完全に避難行動へ移ったそうです」

「……被害は?」

「今のところありません。

見張りが半狂乱で鐘を鳴らし、

若い個体が武器を持って集まったものの、

列を見た瞬間に戦意を喪失したとか」

「それはまあ、そうでしょうね……」


戦闘にならなかっただけ、まだましだった。

いや、向こうからすれば災難以外の何物でもないだろうが、

こちらとしては余計な衝突が起きなかっただけ幸運と見るべきだろう。


「魔物の接近も減っています。街道沿いの警戒負担はかなり軽くなったかと」

「良い副次効果ね。あまり嬉しくない形だけど」


テレースはそう言って、机の上に広げられた地図へ視線を落とした。

海岸から上陸した輸送列は、

すでに複数の街道へ分かれ、所定位置に展開した敷設メンテゴーレムたちのもとへ向かっている。

運ばれているのは軌道そのものだ。

敷設班が待つ地点へ資材が届き次第、今度は後ろから街道そのものが書き換わっていく。


先行して現地入りしている者たちからすれば、

たまったものではないだろう。

昨日までただの街道だった場所に、今日には軌道が敷かれ、明日には輸送が始まる。

変化の速度が、土地に住む者の感覚を置き去りにしている。


だが、止めるわけにはいかなかった。


ナッツ大陸での足場を築くなら、まず必要なのは人の往来よりも先に、物資を確実に運べる線だった。

港だけ押さえても意味は薄い。

内陸へ伸びる手足がなければ、結局はその場しのぎで終わる。

だからこそ匠ーは、上陸と同時に軌道を送り込み、街道ごと物流へ組み替えるつもりなのだ。


いつものことながら、やることが大きい。

大きすぎる。

そして一度動き出すと、周囲の理解が追いつく前に景色のほうが変わっていく。


「……後から来た人間には、最初からこういう土地だったみたいに見えるのよね」

「は?」

「何でもないわ」


テレースは小さく首を振った。


実際には違う。

変わる前を知る者がいて、呆然と見送る者がいて、胃を痛めながら根回しを続ける者がいる。

その全部を踏み越えて、最後に地図だけが塗り替わるのだ。


遠からず、この大陸でも同じことが起きるだろう。


街道を埋めて進むアースロプレウラトラックの列は、その始まりにすぎなかった。

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