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見難い火傷の子  作者: 清風
572/645

ナッツ大陸上陸作戦

挿絵(By みてみん)

見難い火傷の子572


ナッツ大陸上陸作戦


ロクドの海岸は、異様な気配に包まれていた。


ロクドまでの軌道が完成し、完成式が行われたのはつい先日のことである。

駅にはまだ祝いの飾りが残り、構内には新しい枕木と塗りたての柵の匂いが残っていた。

町の者たちも、ようやく鉄路がここまで届いた現実を飲み込み始めたばかりだった。

だが、その余韻が完全に消えるより早く、海岸ではすでに次の段階が始まっていた。


夜明け前の浜に並んでいたのは、無数の雨ん坊だった。

アメンボウ型上陸用舟艇――別名ヴァッサーロイフェル。

細長い船体に、浅瀬を渡るための支持構造を備えたその異様な機体が、

波打ち際にずらりと並ぶ光景は、見慣れた漁船とも軍船とも違っていた。

虫の群れがそのまま海へ這い出そうとしているようにも見え、

朝靄の中ではなおさら現実味が薄かった。

だが、そこに積まれている荷だけは、冗談では済まない重みを持っていた。


簡易軌条の束。

接続金具。

測量器具。

杭打ち具。

仮設橋材。

発電設備。

通信機材。

水の浄化装置。

食糧箱。

医療箱。

そして、まだ地図の上にしか存在しない駅のための資材。


ロクドの海岸に集められていたのは、兵ではなかった。

いや、護衛はいる。

危険に備える者もいる。

だが、この作戦の主役は戦う者ではない。

敷く者、建てる者、繋ぐ者、動かす者たちだった。


軌道敷設部隊。

ナッツ大陸側ゲート作成部隊。

各駅建設部隊。

そのほか、給水、通信、荷役、仮設宿営、保守整備に至るまで、あらゆるインフラ設備部隊。

匠ーが頭の中で描いていた「向こう側で最初の数日を奪い取る」ための人員が、

そこには過不足なく並べられていた。


誰もが忙しく動いていたが、浜辺全体には妙な静けさがあった。

祭りの前の高揚ではない。

戦の前の殺気とも違う。

もっと実務的で、もっと切迫した、

巨大な工事がそのまま海を渡ろうとしているような空気だった。


雨ん坊の周囲では、最終確認が続いていた。

積荷の固定。

支持脚の角度確認。

浅瀬用の底板の点検。

人員配置の再確認。

上陸後の荷下ろし順の読み合わせ。

どの艇がどの区画へ向かい、誰が最初に降り、何を先に運び出し、どこに仮設拠点を置くか。

匠ーの作戦は、いつもそうだった。無茶に見えて、始まる直前には異様なほど細かい。


ロクド駅から海岸へ引き込まれた仮設搬送路では、最後の資材が次々と運び込まれていた。

鉄道が海へ荷を吐き出し、その荷を今度は雨ん坊が異大陸へ運ぶ。

ロクドはもはや終着駅ではなかった。

線路の終わる場所ではなく、次の大陸へ向けて物と人を射出する前進拠点になっていた。


浜の高みには、匠ーが立っていた。

徹夜明けのような顔ではない。

むしろ妙に静かで、研ぎ澄まされていた。

ロクドまでの敷設を終え、駅を完成させ、根回しを済ませ、

雨ん坊を形にし、ようやくここまで持ってきた。

山を越えた鉄路は、ついに海を越えようとしている。

その最初の瞬間を前にして、彼はいつものように大声で何かを語ったりはしなかった。


ただ、必要な命令だけを出した。


「第一波、順次離岸」

短く、乾いた声だった。

だがその一言で、浜の空気が変わった。


各艇の乗員が一斉に動く。

固定具が外され、押し棒が入れられ、

浅瀬に浮かべられた雨ん坊が波を受けてわずかに揺れる。

支持構造が水面を捉え、細長い船体が朝の海へ向きを揃える。

一機、また一機と離れ始めたそれらは、やがて列をなし、

無数の水面の虫のように沖へ伸びていった。


匠ーの号令のもと、雨ん坊は一斉に出発した。


先頭には、ナッツ大陸側で最初の足場を築くための先遣隊がいた。

上陸地点を確保し、荷揚げの導線を作り、仮設の作業区画を切る者たちである。

その後ろには軌道敷設部隊が続く。

彼らの仕事は、上陸することではない。

上陸したその日から、線路を前へ出し始めることだ。

さらにゲート作成部隊が続き、接続の安定化と恒久設備化の準備に入る。

各駅建設部隊は、まだ駅名すら仮番号で呼ばれる地点へ向かい、

将来の停車場と荷役場の骨格を立ち上げる。

インフラ設備部隊は、そのすべてが止まらないよう、

水、電力、通信、宿営、修理の基盤を敷いていく。


それは上陸作戦であると同時に、建設作戦だった。

土地を奪うためではない。

土地に機能を生やすための上陸である。

海岸に降り立った瞬間から、彼らは戦うより先に測り、打ち込み、繋ぎ、建て始める。


ロクドの浜からそれを見送る者たちは、しばらく言葉を失っていた。

見たことのない光景だった。

船団ではある。

だが軍船の威圧ではない。

工事隊ではある。

だが陸上の土煙もない。

海の上を、駅と線路と倉庫と宿営地の未来が、そのまま運ばれていくようだった。


誰かが小さく、「本当に行くのか」と呟いた。

別の誰かが、「行くに決まっている」と答えた。

匠ーがここまで準備して、行かないはずがなかった。


朝日が海面を照らし始めるころ、先行する雨ん坊の列は、

すでに沖の靄の中へ半ば溶け込みつつあった。

その先にあるのは、まだ十分に名づけられていない岸。

港もなく、駅もなく、線路もない土地。

だが匠ーにとっては、そこは空白ではなかった。

これから埋めるべき余白だった。


ロクドまでの軌道完成は、終わりではなかった。

完成式は祝賀であると同時に、発進式でもあったのだ。

山を越えた鉄路は、ロクドで止まらない。

ゲートを抜け、海を渡り、ナッツ大陸へ食い込んでいく。


その最初の一日が、こうして始まった。

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