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見難い火傷の子  作者: 清風
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アラクネ共和国編 第一章 山に線を引く

挿絵(By みてみん)

見難い火傷の子565


アラクネ共和国編 第一章 山に線を引く


山岳鉄道の最初の仕事は、線路を敷くことではなく、どこに敷けるのかを知ることだった。

工事隊は測量具を担ぎ、先行敷設用のゴーレムを連れ、山道へ入った。

地図の上ではなだらかに見えた尾根は、実際には足場の悪い岩場で、

谷は思ったより深く、霧は昼前から視界を奪った。

平地なら一日で済む確認が、山では三日かかっても終わらない。


最初の路線案は、早々に崩れた。

勾配がきつすぎたのである。

次の案は谷を避けたが、そのぶん崩落地帯に近づきすぎた。

橋を架けるか、トンネルを掘るか、山腹を削って桟道にするか。

技師たちは図面の上で言い争い、現場の者たちは「どれも楽ではない」とだけ言った。

山は、理屈だけでは譲らない。


そんな中で意味を持ったのが、山側にある狸の里だった。

もともと計画は峠越えの幹線として始まっていたが、狸の里を含めて考えることで、

路線は単なる国家事業ではなくなった。

そこには人が住み、冬を越し、山の恵みを集めて暮らしている。

線路が通れば、物資が届く。

病人を下ろせる。若い者が働きに出られる。

逆に、静かな山が騒がしくなることを嫌う者もいる。

便利さを歓迎する者と、変化を警戒する者。

里の中でも意見は割れた。


工事隊は里の外れに仮の詰所を置き、地元の案内を受けながら山道を見直した。

狸たちは人間の測量と違う感覚で道を知っていた。

霧の出る場所、雪が吹き溜まる場所、春先に地面が緩む場所、

見た目は近いのに何度歩いても遠い尾根。

図面には出ない情報が、彼らの口からぽつぽつと出てくる。

そのおかげで、最短ではないが、生きた道筋が少しずつ見えてきた。


もちろん、山は簡単には折れなかった。

ある日、先行していたゴーレム隊が小規模な崩落に巻き込まれ、仮設の足場が半分流された。

幸い大きな被害は出なかったが、工事隊の空気は重くなった。

ここに本当に通すのか。

通せたとして、維持できるのか。

誰も口にはしなかったが、その疑問は全員の胸にあった。


その夜、詰所で匠ーは黙って図面を見ていた。

ロープウェイのときと違い、今回は空へ逃げられない。

山腹に食い込み、谷を渡り、雪と岩と水の機嫌を取り続けるしかない。

だが、駅に人を呼ぶ導線はもうできている。

山の上と下を結ぶ流れは、すでに始まっている。

ならば次は、その流れを一時のものではなく、土地の骨格にしなければならない。


数日後、路線案は修正された。

狸の里の外縁をかすめ、冬道を避け、崩落地帯を最小限に抑えた線である。

最短ではない。

見栄えもよくない。

だが、通せる可能性が最も高く、通ったあとも人が使える線だった。


山に引かれたその一本は、まだ図面の上にしかなかった。

けれど、その線はもう、ただの理想ではなかった。

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