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見難い火傷の子  作者: 清風
564/633

アラクネ共和国編 序章 空の道、山の口

挿絵(By みてみん)

見難い火傷の子564


アラクネ共和国編 序章 空の道、山の口


匠ーが山越えロープウェイを完成させた日、駅前には朝から人が集まっていた。

谷を渡る鋼索は朝の光を受けて細く白く光り、山腹に設けられた支柱は、

まるで空へ向かって打ち込まれた杭のように見えた。

駅舎の前には仮設の幕が張られ、役人も商人も、山側の集落から下りてきた者たちも、

みな落ち着かない顔で上を見ていた。


ロープウェイは単なる珍しい乗り物ではなかった。

匠ーが最初から考えていたのは、山の上へ行く道ではなく、

駅へ人を呼ぶ流れだった。

山の上に住む者が駅へ下り、駅に着いた旅人がそのまま山へ上がる。

荷も人も、観光も生活も、いったん駅前に集まり、そこからまた散っていく。

その流れを先に作っておけば、いずれ山岳鉄道が通ったとき、

駅はただの停車場ではなく、最初から山側の玄関口として機能する。

匠ーはそう読んでいた。


完成式は思った以上に賑やかになった。

祝辞を述べる役人は「山と駅とを結ぶ新時代の導線」と言い、

商人たちは早くも売店の場所を見定め、子どもたちは空を渡る箱を見上げて歓声を上げた。

慎重な顔をしていた古老たちも、試運転の籠が無事に対岸へ着くのを見ると、

さすがに黙って頷いた。山の上と下が、初めて目に見える形で一本の流れになった瞬間だった。


式が終わるころには、駅前にはもう次の話が出ていた。

ロープウェイが人を呼ぶなら、その人をさらに遠くへ運ぶ道が要る。

山の上と下を結ぶだけでは足りない。

谷を越え、崖に沿い、里と城とをつなぐ鉄の道――山岳鉄道である。


誰かが冗談めかして「空の道はできた。次は山そのものに線を引くのか」と言った。

周囲は笑ったが、匠ーだけは笑わなかった。

式のあと、人の引いた駅前から少し離れ、彼はひとりで山を見上げた。

ロープウェイは完成した。

だが、あれは始まりにすぎない。山の形を変えず、山の暮らしを壊さず、

それでも人と物の流れを通す本命は、これからだった。


その日の夕方、工事隊の詰所に広げられた地図の上に、一本の細い線が引かれた。

平地の上では簡単そうに見えるその線も、

現地に立てば断崖と霧と崩れる岩の壁にしか見えないだろう。

だが、誰かが最初に引かなければ、いつまでも山は遠いままだ。


こうして、山岳鉄道計画が動き出した。

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