表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見難い火傷の子  作者: 清風
554/583

ゴレムさん編 軌道の先にあるもの

挿絵(By みてみん)

#創作 #ハイファンタジー #Web小説 #見難い火傷の子 ※挿絵はAI生成です(CAD・手描きを除く)


見難い火傷の子554


ゴレムさん編 軌道の先にあるもの


爆炎パーティと別れたあとも、ゴレムの足はしばらく現場の近くから離れなかった。

軌道を見た衝撃だけでも十分大きかったのに、

その上で「最新はオートマタだ」と聞かされたのだ。

頭の中で整理すべきことが一気に増え、かえってすぐには動けなくなっていた。


「まだ見ますか」 とテレースが聞く。

「見ます」 とゴレムは即答した。

「でしょうね」

「もう少しだけ」

「その『もう少し』が長いのよ」

「……否定は難しいです」


現場では、相変わらず敷設作業が続いていた。

人の作業者が位置を確認し、敷設メンテゴーレムが部材を支え、

別の者が固定を進める。

単純な力仕事ではなく、工程ごとに役割が分かれている。

ゴレムはその流れを見ながら、先ほど聞いた「オートマタ」という言葉を重ねていた。


もし自律機構を持つ機械があるのなら。

この工程のどこまでを担えるのか。

ゴーレムとの違いは何か。

制御の柔軟性か、精度か、継続稼働か。

考え始めると止まらない。


「今、完全に頭の中で比較してるわね」 とテレースが言った。

「はい」

「何と何を?」

「ゴーレムと、まだ見ぬオートマタを」

「見てもいないのに?」

「だからこそです」

「そういうものなの?」

「仮説は、見た時の理解を助けます」

「……なるほど。あなたらしいわ」


ゴレムは帳面を開き、現場の観察記録とは別に、新しい頁へ書き始めた。

見出しは短く、ただ一言。


ゴーレムとオートマタの差異(仮)


その文字を見て、テレースが少しだけ目を細める。


「もう書いてる」

「忘れないうちに」

「まだ何も知らないのに」

「だから仮です」

「真面目ね」

「はい」


現場の一角では、敷設メンテゴーレムが枕木の位置合わせを補助していた。

人の指示に応じて動き、必要な場所で止まり、保持し、次の工程へ渡す。

力と安定性に優れた設計だと分かる。

だが同時に、判断そのものは人が担っているようにも見えた。


「完全自律ではない」 とゴレムは呟く。

「何が?」

「このゴーレムです」

「ええ」

「少なくとも、現場で見える範囲では」

「人が指示してるものね」

「はい。工程の一部としては非常に優秀です。ですが、判断主体は外にある」

「それがオートマタだと変わるかもしれない?」

「はい」

「なるほど」


テレースは腕を組み、少しだけ現場を見た。

彼女自身は技術者ではない。

だが、ゴレムが何に引かれているのかは、だいぶ分かるようになってきていた。


「でも」 と彼女が言う。

「自分で考えて動くなら、それはそれで怖くない?」

「怖い、ですか」

「ええ。便利でもあるでしょうけど」

「……」

「何でも新しければ良い、というわけでもないでしょう?」


その言葉に、ゴレムは少し黙った。

たしかにそうだ。新しい技術には利点だけでなく、運用上の問題もあるはずだ。

制御、誤作動、責任の所在、保守の難しさ。

考えるべきことは多い。


「はい」 と彼はゆっくり答えた。

「その通りです」

「珍しく、すぐ反論しないのね」

「反論する理由がありません」

「そう」

「技術は、使い方と管理を含めて技術です」

「……今のは少しかっこいいわね」

「そうでしょうか」

「ええ。本人に自覚がないのもいつも通りだけど」


ゴレムは少しだけ視線を逸らした。

褒められているのか、からかわれているのか、判別が難しい時がある。


昼が近づくにつれ、現場の動きも少し変わった。

作業の区切りごとに人が入れ替わり、資材が補充され、

ゴーレムも一時停止して点検を受けているようだった。

完全に動かしっぱなしではない。保守前提の運用が、ここでも見える。


「止める時間をきちんと取っています」 とゴレムは言う。

「休憩?」

「人もですが、機体も」

「ゴーレムも?」

「はい。少なくとも点検はしています」

「なるほど」

「連続稼働だけを優先していない」

「壊れたら困るものね」

「はい。現場全体が止まります」


その時、少し離れた場所で、作業者たちが何かを運び始めた。

長く、細く、金属の光を持つ部材。

新しいレールだろうか。ゴレムの視線がすぐにそちらへ向く。


「行きたい顔してるわね」

「見たいです」

「ええ、そうでしょうね」

「近づける範囲で」

「それなら」


二人は見学可能な線の内側を保ちながら、少し位置を変えた。

運ばれてきた部材は、既設の軌道と接続される予定のものらしい。

人が位置を確認し、ゴーレムが支え、固定具が準備される。

工程の一つ一つが、無駄なく繋がっていた。


「流れが切れません」 とゴレムは言う。

「何の?」

「作業です。個々の工程が独立していない」

「前後が噛み合ってる?」

「はい。だから全体が速い」

「なるほど」


ゴレムはそこで、ふと気づいた。

自分が見ているのは、単なる機械や構造物ではない。

人、道具、資材、規格、保守、補給、それら全てを繋ぐ「運用の思想」なのだ。


「軌道の先にあるのは」 と彼は小さく言った。

「線路そのものではありません」

「ええ」 とテレースが応じる。

「じゃあ何?」

「流れです」

「流れ」

「人と物と、作業と、時間の流れ」

「……」

「軌道は、それを固定し、速くし、安定させるためのものです」

「なるほどね」


テレースは少しだけ感心したように頷いた。

ゴレムの目は、もう単なる珍しい技術を見る目ではなくなっていた。

技術が何を変えるのか、その先まで見ようとしている。


「オートマタも」 とゴレムは続けた。

「たぶん同じです」

「同じ?」

「単に新しい機械なのではなく、流れをどう変えるかの技術です」

「まだ見てないのに、そこまで考えるのね」

「はい」

「本当に忙しい頭だわ」

「……そうかもしれません」


午後、二人はようやく現場を離れた。

だがゴレムの中では、まだ現場は動き続けていた。

軌道の上を走る未来。

敷設メンテゴーレムの先にあるもの。

オートマタという新しい可能性。

考えるほどに、世界は広がっていく。


宿へ戻る道すがら、テレースがふと口を開く。


「ねえ」

「はい」

「あなた、前はここまで外の技術に夢中になる人だった?」

「……分かりません」

「分からない?」

「前は、知る必要のあるものを知る、という感覚が強かったです」

「今は?」

「知りたいから知る、に変わってきているのかもしれません」

「……」

「それは、良いことなのでしょうか」

「良いことよ」 テレースは迷わず言った。

「少なくとも、今のあなたは前よりずっと楽しそう」

「そうでしょうか」

「ええ」

「なら」 ゴレムは少しだけ考えてから言った。

「たぶん、良いことです」

「そういうこと」


ホーネット幕府で、ゴレムは軌道に出会った。

そしてその先に、オートマタという未知を知った。

技術はただ便利なだけではない。

人の流れを変え、土地の使い方を変え、考え方そのものを変えていく。


その先に何があるのか。

まだ分からない。

だが分からないからこそ、見たいと思う。


ゴレムの旅は、いつの間にか、ただ国を巡る旅ではなくなっていた。

世界がどう進もうとしているのかを、その目で確かめる旅になりつつあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ