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見難い火傷の子  作者: 清風
553/568

ゴレムさん編 再会

挿絵(By みてみん)

見難い火傷の子553


ゴレムさん編 再会


ホーネット幕府の軌道敷設現場で、ゴレムの時間感覚はしばらく失われていた。

目の前で動く敷設メンテゴーレム。

規格化された軌道。

枕木、砕石、工具、作業者の連携。

どこを見ても記録すべきものがあり、考えるべきことがある。

帳面に書きつけても追いつかないほどだった。


「……」

「ゴレムさん」とテレースが呼ぶ。

「……」

「また聞こえてない」

「すみません」

「三回目よ」

「申し訳ありません」

「ええ、もう慣れたわ」


そう言いながらも、テレースは本気で怒っているわけではなかった。

むしろ、ここまで分かりやすく夢中になっているゴレムを見るのが少し面白いのだろう。


現場の端に寄って、少し落ち着いて記録をまとめようとした時だった。


「おい」と、不意に後ろから声が飛んだ。

「その顔、どこかで見たと思ったら」


ゴレムが振り向く。

そこに立っていたのは、見覚えのある一団だった。


「……あ」

「やっぱりだ」

「久しぶりじゃないか」

「本当にいた」


爆炎パーティだった。


その瞬間、ゴレムの頭に最初に浮かんだのは、

サンドーメからゴーレムヨンドへ向かった旅路だった。

護衛を依頼した当時の爆炎パーティは六人。

匠一、ダン、キール、マリー、ハナ、ニール。

外見だけ見れば幼い子どもたちなのに、道中では妙に落ち着いていて、

連携が早く、それぞれの役割がはっきりしていた。

ゴレムにとって「爆炎パーティ」といえば、まずその六人だった。


門前で初めて顔を合わせた時、正直に言えば少し不安だった。

護衛依頼を受けに来たのが、どう見ても幼い子どもたちだったからだ。

だが、その不安は街道へ出て間もなく、別の驚きに塗り替えられた。


門を出てほどなく盗賊が現れても、六人は慌てなかった。

騒ぎ立てるでもなく、虚勢を張るでもなく、ただ手早く片付ける。

それで終わりではない。

次が来れば次を縛り、また次が来ればまとめて転がし、

ついには必要に応じて格子付きの台車までその場で作ってしまった。

ゴレムは道中ずっと目を白黒させていたが、六人の側には、

これを特別なことと思っている気配すら薄かった。


強いだけではなかった。

誰が前に出るか、誰が支えるか、誰が周囲を見るかが、言葉にしなくても決まっていた。

匠一が決め、ダンが受け、キールが見て、マリーが整え、ハナが支え、ニールが隙を埋める。

幼い見た目に反して、その動きは妙に完成されていた。

ゴレムにとって印象的だったのは、力そのものよりも、その仕事ぶりのほうだった。


だからゴレムにとって「爆炎パーティ」とは、まずこの六人だった。

子どもなのに強い、ではない。

子どもにしか見えないのに、最初から一個の護衛パーティとして出来上がっている。

そういう、少し理解の追いつかない一団だった。


今、ホーネット幕府の軌道敷設現場で再会した彼らを見て、

ゴレムの中で最初に繋がったのも、その時の六人の姿だった。

匠一、ダン、キール、マリー、ハナ、ニール。

あの時と同じ顔ぶれがそこにいるだけで、街道の土埃や、

盗賊を詰め込んだ格子台車の光景まで一緒に蘇ってくる。

ゴレムにとって今回の再会は、ただ爆炎に会ったのではない。

サンドーメからゴーレムヨンドへ向かう、あの妙に濃い引っ越し道中と、

もう一度出会い直したのだった。


今、先頭に立っている匠一の姿を見て、その記憶がそのまま繋がる。

左右にはダンとキール、少し後ろにマリーとハナ、そして周囲を何気なく見ているニール。


「爆炎パーティの」とゴレムが言う。

「覚えてたか」

「はい」

「そりゃそうだろ」とダンが笑う。

「護衛までしたんだからな」

「本当に再会するのね」とテレースが小さく息をついた。

「知り合いか?」とマリーが聞く。

「ええ、まあ」とテレース。

「旅先で何度か」

「へえ。相変わらず真面目そうね」


ゴレムは軽く頭を下げた。

こういう時、どういう距離感で話せばいいのか、まだ少し迷う。

だが向こうは迷わない。


「で?」と匠一が言った。

「何してるんだ、そんな顔で」

「軌道を」とゴレムは答えた。

「見ていました」

「見りゃ分かる」とキールが言う。

「敷設メンテゴーレムも」

「そっちまでか」とニールが少し笑う。

「はい」

「だろうな」とハナがやわらかく言った。


爆炎パーティの面々が笑う。

あの時と同じだ、とゴレムは思った。

自分が何に気を取られるかを、彼らは妙によく見抜く。


「お前、昔からそういうの好きだったのか?」

「昔から、というほどでは」

「でも今は好きなんだろ」と匠一。

「はい」

「即答だな」とダン。

「事実ですので」

「ぶれないわね」とマリーが少し笑った。


そのやり取りを見て、テレースも横で小さく笑う。

爆炎パーティの連中も、ゴレムの返しが妙に真っ直ぐなのを面白がっているようだった。


「しかし、よりによってここで会うとはな」と匠一が言う。

「お前らも旅か?」

「はい。ロクドから、狸の里、アラクネ共和国を経て」

「おお、ちゃんと回ってきてるな」とキール。

「ロープウェイも見ました」

「うわ」とマリーが言う。

「言い方がもう完全にそっち目線」

「そっち目線?」

「技術追っかけの目線だよ」

「……そうかもしれません」


自覚は、もうあった。


匠一が、現場の方を顎で示した。


「で、どうだ?」

「どう、とは」

「軌道とゴーレム」

「素晴らしいです」

「また即答だな」

「規格化されています」

「うん」

「敷設工程が分業されていて」

「うん」

「ゴーレムがその一部として組み込まれている」

「うん」

「保守前提の思想も見えます」

「うん」

「非常に」

「分かった分かった」とダンが笑った。

「熱いのは分かった」


また笑いが起きた。

ゴレムは少しだけ口を閉じたが、言いたいことはまだいくらでもあった。


「相変わらず面白いな」とニールが言う。

「そうでしょうか」

「そうだよ。普通そこまで目は輝かない」とキール。

「……そうですか」

「でも分かるわよ」とマリーが言った。

「こういうの好きな人は、本当に好きだものね」

「はい」

「素直ですね」とハナがやさしく言った。


しばらく立ち話をしているうちに、自然と話題は近況へ移った。

爆炎パーティはこの辺りの依頼でしばらく滞在しているらしい。

ホーネット幕府は仕事も多く、流れも速いので、腕の立つ冒険者には都合がいいのだという。


「お前ら、この先どうするんだ?」と匠一に聞かれ、ゴレムは少し考えた。

「まだ明確には」

「でも軌道はもっと見たいんだろ」

「はい」

「だろうな」


そこで、匠一が少しだけ目を細めた。


「じゃあ一つ、覚えておくといい」

「はい」

「ゴーレムを見て終わるな」

「……?」

「その先がある」


ゴレムは黙った。


「え?」とテレースが横で言う。

「そこ、そんなに衝撃なの?」

「はい」とゴレムは小さく答えた。

「かなり」

「かなり?」

「……非常に」


爆炎パーティがまた笑う。

だがゴレムにとっては、笑い事ではなかった。

ゴーレムが最前線の技術だと思っていたわけではない。

だが、少なくとも今、自分の関心の中心にあるものだった。

その先にさらに別の系統があると言われれば、衝撃を受けないはずがない。


「オートマタだ」と匠一が言った。

「自律機構を持つ型がある」

「細かいことは、今ここで全部は話さないけど」とマリーが続ける。

「少なくとも、ゴーレムだけ見て技術の全体だと思わないほうがいい」

「……」

「おい、固まるな」とダンが言う。

「すみません」

「いや、分かるけどな」とニールが笑う。


テレースが横から覗き込む。

「大丈夫?」

「大丈夫、ではあります」

「でも衝撃は受けてる」

「はい」

「でしょうね」


ゴレムの頭の中では、今見た敷設メンテゴーレムと、まだ見ぬオートマタという言葉が並んでいた。

ゴーレムの先。

あるいは別系統の発展。

自律。

制御。

用途。

構造。

考えるべきことが一気に増える。


「そんな顔しなくていいですよ」とハナが言う。

「別にゴーレムが劣っているという話ではありませんから」

「そうだぞ」とキールも言う。

「現場で動いてるの見ただろ。十分すごい」

「はい」とゴレムは頷いた。

「それは、はい」

「でもその先もある」と匠一。

「……はい」

「旅のしがいが増えたな」

「……そうですね」


その言葉で、少しだけ呼吸が戻った。

衝撃ではある。

だが同時に、先があるということでもある。

見たいものが増えたのだ。


「お前、そういうの調べるなら」とマリーが言う。

「鉄道国の資料や、実際に動いてる現場を当たるといい」

「資料が、あるのですか」

「あるところにはある」と匠一が言う。

「ただ、簡単には出てこないだろうけど」

「はい」

「でも噂くらいは覚えとけ」とダンが言った。

「オートマタ」

「……はい」


そこで匠一は、ふとゴレムとテレースの二人を見比べた。

何かを測るような、妙に実務的な目だった。

二人旅。

しかも片方は、見たものをそのまま抱え込んで先へ進んでしまう種類の男だ。

しばらく黙っていた匠一は、やがて思いついたように言った。


「そのうち、家事手伝い用のオートマタを一体、ゴーレムヨンドに送ってやる」

「……え」

「研究しとけ」

「……」

「どうせ見るだけじゃ済まない顔してるしな」


ゴレムは言葉を失った。

テレースが横で目を瞬かせる。


「ちょっと待って、それ、そんな軽く言うこと?」

「軽くは言ってない」と匠一は平然と返した。

「こいつには、実物を見せたほうが早い」

「早いって」

「資料だけ渡しても、たぶん余計に寝なくなる」

「それはそうかもしれないけど」


ニールが肩を揺らし、マリーが小さく笑う。

ハナは少し困ったように、けれど否定はしなかった。


「……よろしいのですか」とゴレムはようやく言った。

「よくはないかもしれないけどな」とダン。

「匠一が言い出した時点で、たぶんもう半分決まってる」

「半分どころか、だいたい決まってるわね」とマリー。

「受け取る側の置き場所とか、周囲の反応とか、そのへんは考えなさいよ」

「はい」

「あと壊すなよ」とキール。

「研究対象だからって、いきなり分解とかするなよ」

「しません」

少し間を置いて、ゴレムは付け加えた。

「……たぶん」

「たぶんかよ」とニールが吹き出した。


笑いが起きた。

だがゴレムにとっては、それどころではなかった。

オートマタ。

まだ言葉でしか知らなかったものが、実物として自分の前に来るかもしれない。

それは衝撃というより、もはや事件だった。


ゴレムはその言葉を、心に刻むような気持ちで受け取った。


再会は偶然だった。

だが、その偶然は、ただ懐かしいだけでは終わらなかった。

サンドーメからゴーレムヨンドへ向かう道中、

自分を護衛した六人と再び会い、軌道と敷設メンテゴーレムに感動したその日に、

さらに先の技術の名を聞く。

そのうえ、いつか実物まで送ると言われる。

世界は思っていたよりも速く進んでいるのかもしれない。


爆炎パーティと別れたあとも、ゴレムはしばらく黙っていた。

テレースが横を歩きながら、ちらりと見る。


「考えてるわね」

「はい」

「ゴーレム?」

「それも」

「オートマタ?」

「はい」

「家事手伝い用一体?」

「……はい」

「忙しい頭ね」

「……はい」


テレースは少し笑った。

そしてそのまま、何も急かさず隣を歩いた。


軌道に出会った。

敷設メンテゴーレムを見た。

そして、ゴーレムの先にも技術の枝が伸びていると知った。

しかも今度は、その枝のひとつが、自分の手の届くところまで来るかもしれない。


旅は、見たいものに出会うたび、さらに先を示してくる。

ゴレムの視線は、もう次の技術へ向かい始めていた。

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