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見難い火傷の子  作者: 清風
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465/486

石炭紀満喫

挿絵(By みてみん)

見難い火傷の子465


石炭紀満喫


深淵ダンジョン第八エリア/石炭紀エリア

シダの時代

この地では、生きるものすべてが八倍の大きさで存在する。


第八エリアへ入って数日。

カナタとレイラは、思っていた以上に石炭紀を満喫していた。


もちろん、遊びに来たわけではない。

本来の目的は、野生のメガネウラの飛行を観察することだ。

オートメガネウラに乗る以上、あの飛び方を少しでも理解できれば、

今後の助けになるかもしれない。

そう考えていた。


だが実際に見た野生のメガネウラの飛行は、二人の想像を軽々と超えていた。


速い。

鋭い。

そして意味が分からない。


巨大シダの森の隙間を縫うように飛び、湿地の上で一瞬止まったかと思えば、

次の瞬間にはありえない角度で旋回している。風に乗っているのか、

風を掴んでいるのか、それとも風そのものを読んでいるのか。

見れば見るほど、分からなくなった。


「……今の、どうなってたの」 湿地の縁にオートメガネウラを止めたまま、レイラが呟く。


「分かりません」 カナタは即答した。

「ですが、分からないまま終わるのも惜しいです」


「だよねえ……」


というわけで、二人は数日、この第八エリアに滞在することにした。


先に現地ギルドへ挨拶に行ったのは、カナタの判断である。

数日同じ空域を飛び回るなら、無断で動くより先に話を通しておいた方がいい。

レイラもそれには素直に頷いた。


現地ギルドは水辺に寄るように建っていて、建物の中には湿った木の匂いと、

青い植物の匂いが混じっていた。

受付で滞在の目的を伝えると、狩りではなく観察だと分かった時点で、

相手の警戒は少し和らいだようだった。


そして席に通されてすぐ、木の器に入った薄緑色の飲み物が出てきた。


「……なにこれ」 レイラが器を覗き込む。


「木生シダの芯液に、若芽の絞り汁と、湿地果の蜜を少し加えたものです」

給仕役のウーパールーパー人が説明した。

「この辺りではよく飲まれています」


レイラは匂いを嗅ぎ、一口飲み、それから少し目を丸くした。


「……あ、これ好きかも」


ほんのり甘く、青い香りがして、妙に喉に残らない。

暑く湿った石炭紀の空気の中では、やけに身体に馴染む味だった。


「これ、どうやって作るの?」 レイラは即座に聞いた。


「レイラ」 カナタが横から静かに声をかける。


「いや、だって気になるでしょ。帰ったあと再現できたら面白いし」


結局、レイラは材料と分量までしっかり聞き出した。

木生シダの芯液が十、若芽汁が一、湿地果の蜜は控えめ。

冷やすのが大事らしい。

完全に料理の顔だった。


そんなふうにして始まった第八エリアでの滞在は、思った以上に忙しかった。


朝は霧の残る湿地を飛び、野生のメガネウラを探す。

見つければ追う。だが追えば追うほど、その飛行は理解から遠ざかるようでもあった。巨大シダの幹の間を抜ける時の体の傾き、羽ばたきの間、加速に入る前のわずかな沈み込み。

何か法則があるはずなのに、見えてきたと思った瞬間にまた分からなくなる。


それでも、数日追い続けるうちに、少しずつ掴めるものもあった。


「今の旋回、入る前に少しだけ沈んでた」 レイラが言う。


「はい。たぶん、あの瞬間に風を拾っています」 カナタが答える。

「こちらも同じように入れれば――」


「できる?」


「理屈の上では」


「理屈の上かあ」


理屈の上ではできることと、実際にできることの間には、だいたい深い谷がある。

だが、最初の完全な理解不能に比べれば、少しでも見えてきたこと自体が大きかった。


昼に追い、夕方に戻り、夜は記録を見返す。

そんな生活を続けるうちに、

二人の滞在は少しずつ観察旅行というより調査キャンプのようになっていった。


湿地から少し離れた乾いた場所に簡易の拠点を作り、オートメガネウラを休ませる。

火を起こし、鍋をかける。

湿気のせいで火は少し機嫌が悪かったが、どうにか安定すると、湯気と一緒に香りが立ち上った。


石炭紀の虫鍋である。


「今日のは脚肉多めだね」 鍋を覗き込みながら、レイラが言う。


「昨日のものより出汁が澄んでいます」 カナタも器を手にしたまま答えた。


「昨日のは殻の香ばしさが強かったもんね。あれはあれで良かったけど」


巨大昆虫の脚肉は、見た目に少し目をつぶれば、驚くほど蟹鍋に近かった。

殻を割って身をほぐし、出汁を吸った若芽や湿地茸と一緒に食べると、妙に完成度が高い。

別の日には殻を焼いてから煮出した鍋も出たし、幼虫の脂で少し白濁した濃い鍋もあった。

石炭紀、思ったより鍋の幅が広い。


「これ、帰ったら土産話になるね」 レイラが言う。

「野生メガネウラは意味分かんないし、虫鍋は蟹鍋っぽいし、謎ジュースは再現したいし」


「情報量が多いですね」


「いい土産話ってそういうものでしょ」


それは確かにそうだった。


ある日のこと、湿地の縁を歩いていたレイラが、ふいに足を止めた。


「……カナタ」


「はい」


「あれ、見えてる?」


巨大シダの根元、その影から長いものがゆっくりと這い出してくる。

節。

脚。

節。

脚。

節。

脚。

しかも、まだ続く。


「……長いですね」 カナタが言った。


「長いねじゃないでしょ」


アースロプレウラだった。


想像していたより、ずっと大きく、ずっと静かで、ずっと圧がある。

濡れた甲殻が鈍く光り、無数の脚が地面を滑るように進んでいく。

巨大昆虫の時代だとは分かっていたが、こうして目の前に現れると話は別だった。


「石炭紀って感じする……」 レイラが少し引きつった顔で言う。


「はい。非常に」


しばらく二人はその巨体を見送った。


そしてレイラは、少し間を置いてから言った。


「……あれも出汁、出るかな」


「食材判定が早いです」


「いや、だって見た目の方向性としてはもう鍋の仲間じゃない?」


「仲間の定義が雑です」


そんなやり取りすら、もうこの数日で少し板についてきていた。


第八エリアでの滞在は、学ぶことが多い。

野生メガネウラの飛行はまだ完全には分からない。

だが、分からないなりに追い続けることで、少しずつ見えてくるものがある。

現地ギルドで聞ける話もある。

飲み物も鍋も、思った以上に面白い。


気づけば二人は、この石炭紀という時代そのものをかなり満喫していた。


帰還したあと、きっと話すことは山ほどあるだろう。

理解不能だった野生メガネウラの飛行。

木生シダの芯液で作る謎ジュース。

蟹鍋のような巨大昆虫鍋。

そして、長すぎるアースロプレウラ。


土産話には困らない。


もっとも、その前にもう少しだけ、この時代の空を追ってみたかった。

野生のメガネウラが、なぜあんなふうに飛べるのか。

その答えはまだ、石炭紀の空の中にあった。

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