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見難い火傷の子  作者: 清風
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464/482

いよいよ次は石炭紀

挿絵(By みてみん)

見難い火傷の子464


いよいよ次は石炭紀


深淵ダンジョン第九エリア/ペルム紀エリア

ゴルゴノプスが捕食者の頂点になった時代

この地では、生きるものすべてが八倍の大きさで存在する。


第十エリア三畳紀を抜けた後、レイラはオートメガネウラの縁に肘をついて、

しばらく下を眺めていた。


荒れた大地。

乾いた風。

ところどころに広がる裸子植物の群れ。

そして、その間を動く巨大な影。


第九エリア。

ペルム紀。

ゴルゴノプスが捕食者の頂点になった時代。


「なんか、また空気変わったね」

レイラが言う。


「はい。第十よりさらに乾いています」

カナタが答えた。


「第十一と第十二のあとだと、文明の圧がないだけでちょっと安心するけど」


「生き物は十分危険そうです」


「それは見れば分かる」


下では、何か大きな獣が別の何かを追っていた。

遠目でも分かる。

平和ではない。

ただ、第十から第十二までで見てきたような“国家の圧”が薄いぶん、

危険の種類が少し違って見えた。


ここは帝国ではない。

もっと古く、もっと生々しい。

文明はある。

だが、まだ世界そのものの方が強い。

そんな感じがした。


しばらく進むと、集落が見えてきた。

水辺に寄るように作られた町。

石と木を組み合わせた建物。

湿った土地に合わせたような構造。

そして、そこにいる住民たち。


「……あれがウーパールーパー人?」

レイラが目を細めた。


「おそらく」


人型ではある。

だが、どこか両生類めいた柔らかさがある。

第十のリザード人とも、第十一・第十二のラプトル人とも違う。

同じ文明圏でも、空気がかなり違っていた。


門の前で止められる。

もう慣れた流れだった。


「何者だ」


「通過中の旅人です。第八エリア石炭紀層へ向かっています」

カナタが答える。


門番は一瞬黙った。

それから、じろりと二人とオートメガネウラを見た。


「第八だと?」


「はい」


「正気か」


「それも何度か言われました」

レイラが言う。


門番は少し嫌そうな顔をした。

だが、止めるほどではないらしい。

通行は許された。


町の中は、思ったより整っていた。

市場があり、倉庫があり、道がある。

文明は確かにある。

だが、第十よりさらに“土地に合わせて生きている”感じが強い。

国家の威圧感より、生存の工夫が先に見える。


「ここ、ちょっと不思議」

レイラが周囲を見回す。

「文明はあるのに、文明が勝ってる感じしない」


「世界の方が強いのでしょう」

カナタが言った。


その表現は、かなりしっくりきた。


遠くでは、武装した者たちが慌ただしく動いていた。

何かあったのかもしれない。

あるいは、何かが起こる前なのかもしれない。

だが、二人はそこへ近づかなかった。


ここでも補給だけ。

水。

保存食。

簡易整備資材。

必要最低限。


市場には見慣れない干物や、奇妙な殻の加工品、骨を使った道具が並んでいた。

少し興味は引かれた。

だが、立ち止まるほどではない。

ここもまた、旅人が深入りする場所ではなかった。


現在、爆炎パーティはバビロニアに居て、ここには居ない。


この地にも、かつて彼らが通った痕跡はあるのかもしれない。

だが今ここに、あの連中はいない。

何か起きても、自分たちでどうにかするしかない。

ならば、余計なことはしない。

それが一番だった。


オートメガネウラに戻り、再び進路を取る。

ペルム紀の空を進みながら、レイラはふと前を見た。


この先。

ここを抜ければ。


いよいよ石炭紀。


その言葉が、頭をよぎる。


長かった。

第十二 白亜紀。

第十一 ジュラ紀。

第十 三畳紀。

そして第九 ペルム紀。


ずっと下ってきた。

ずっと通り抜けてきた。

ようやく、目指していた層が近づいている。


感慨めいたものが、一瞬だけ胸をよぎった。


だが、来ること自体が目的ではない。


石炭紀で何をするのか。

何のためにここまで来たのか。

その本題を、二人は改めて思い出す。


レイラが小さく息を吐いた。

「……浮かれてる場合じゃないね」


「はい」

カナタが頷く。

「ここからが本番です」


「うん」


オートメガネウラは、さらに下へ進む。

古生代の空気が、少しずつ濃くなっていく気がした。


第九エリア/ペルム紀エリア。

ゴルゴノプスが捕食者の頂点になった時代。


そこもまた、二人にとっては通過するべき世界だった。

だが、その通過には意味があった。

ここを越えれば、いよいよ石炭紀。

そして石炭紀は、ただ辿り着くだけの場所ではない。


二人は気を引き締め、ペルム紀を抜けていった。

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