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見難い火傷の子  作者: 清風
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463/481

さっさと通過

挿絵(By みてみん)

見難い火傷の子463


さっさと通過


深淵ダンジョン第十エリア/三畳紀エリア

偽鰐類の時代。

この地では、生きるものすべてが八倍の大きさで存在する。


第十一エリアジュラ紀エリアを抜けた後、レイラはしばらく黙っていた。


第十二エリア白亜紀。

第十一エリアジュラ紀。


どちらも恐竜の時代で、どちらも文明があり、どちらも二人にとっては大きすぎる世界だった。

通り過ぎるだけで精一杯。

それが正直な感想だった。


そして次に辿り着いた第十エリアは、少しだけ空気が違っていた。


第十エリア/三畳紀エリア。

偽鰐類の時代。


「……ちょっとだけ、ほっとするかも」

レイラが周囲を見回して言った。


「文明の圧が薄いからでしょうか」

カナタが答える。


「たぶんそれ」


白亜紀やジュラ紀に比べると、空は広く、地上は荒い。

木々はまだ恐竜時代の濃さを持っていたが、

第十一・第十二で感じたような“国家の圧”は薄かった。


もちろん危険がないわけではない。

むしろ生き物としては十分危ない。

だが、少なくとも巨大な防壁や砲台や騎竜部隊に見下ろされる感じはない。

それだけで、少し息がしやすかった。


「でも、ここも文明圏なんだよね」


「はい。リザード人の国家群があるはずです」


教則本の記述を思い出しながら、カナタが言う。

三畳紀エリア。

リザード人の住む地。

複数の国があり、争いが絶えない。

まだ荒いが、文明はある。


つまり、結論はだいたい同じだった。

関わらない方がいい。


少し進むと、遠くに集落らしきものが見えた。

石と木で組まれた建物。

高い壁ではないが、外敵を意識した囲い。

見張り台。

そして、槍を持った人影。


「いた」

レイラが小さく言う。


「いますね」


「今度は普通の返事でも腹立たないな……」


「それは何よりです」


近づくにつれ、相手の姿がはっきり見えてきた。

リザード人。

人型だが、顔立ちや鱗の感じに爬虫類らしさがある。

第十一・第十二のラプトル人よりも、もう少し荒っぽい印象だった。


門の前で止められる。

これももう慣れた。


「止まれ。何者だ」


カナタが答える。

「通過中の旅人です。第八エリア石炭紀層へ向かっています」


門番の目が変わった。

驚き。

呆れ。

そして少しの警戒。

これも見慣れてきた反応だった。


「第八だと?」


「はい」


「正気か」


「それも何度か言われました」

レイラがぼそりと呟く。


門番はオートメガネウラを見た。

珍しそうではある。

だが、やはりここでも“理解不能”というほどではないらしい。

飛ぶ機械。

変わった乗り物。

その程度の扱いに見えた。


レイラは小声で言った。

「これ、どこ行っても肩身狭いね」


「十分優秀です」

カナタがいつものように返す。


「うん、もうその返しはいい」


門の内側に入ると、三畳紀の文明が見えた。


ジュラ紀や白亜紀ほど大規模ではない。

だが、確かに国だった。

通りがあり、住居があり、倉庫があり、武器があり、兵がいる。

市場らしき場所もある。

人々の目つきは、どこか忙しなく、落ち着かない。


「平和って感じじゃないね」

レイラが言う。


「はい。戦時下とまでは言いませんが、緊張は強いです」


遠くで怒鳴り声がした。

別の場所では、武装した集団が移動している。

荷車には物資が積まれていた。

兵糧か、武具か、あるいはその両方か。


三畳紀エリア。

偽鰐類の時代。

リザード人国家群。


ここは第十一・第十二ほど巨大ではない。

だが、そのぶん生々しい。

文明がまだ荒く、争いも近い。

整っていないからこその危うさがあった。


「ここも長居しない方がよさそう」


「同感です」


補給だけを済ませる。

水。

保存食。

簡易整備資材。

必要最低限。


市場には気になるものもあった。

見たことのない加工肉。

乾燥させた魚。

鱗や骨を使った工芸品。

石器に近い武具。

だが、どれも“見て回ろう”という気分にはならなかった。


この地には、この地の事情がある。

そして今の二人に、それへ踏み込む理由はない。


何より――


現在、爆炎パーティはバビロニアに居て、ここには居ない。


この三畳紀エリアには、かつて爆炎が関わった痕跡があるのかもしれない。

だが、今ここにあの連中はいない。

何か起きても、どうにかしてくれる者はいない。

ならばなおさら、余計なことをする理由はなかった。


レイラは補給袋を抱え直して、小さく息を吐いた。


「うん。ここもさっさと行こう」


「はい」


「第十一と第十二で学んだしね」


「大きい文明圏には、むやみに関わらない」


「それ」


オートメガネウラに戻る。

再び浮上し、三畳紀の空を進む。

下には、まだ荒い国家群。

争いの気配。

囲いのある町。

武装した兵。

そして、広い原野。


第十エリア三畳紀エリア。

偽鰐類の時代。


そこは、ジュラ紀や白亜紀ほどの圧はない。

だが、だからといって気軽に踏み込んでいい世界でもなかった。

未熟な文明には、未熟な文明なりの危うさがある。

二人はそれを見て、十分だと思った。


現在爆炎パーティはバビロニアに居てここには居ない。

なのでここもさっさと通過をした。

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