鉄道国海軍空母搭乗員の日常
見難い火傷の子402
鉄道国海軍空母搭乗員の日常
深淵ダンジョン第十六エリア/第四紀完新世層
青銅の時代
この地では、生きるものすべてが八倍の大きさで存在する。
――鉄道国海軍航空母艦。
早朝。
甲板に朝日が差し込む。
海は穏やかだった。
甲板員が歩く。
立ち止まる。
指をさす。
「甲板良し!」
歩く。
また止まる。
指をさす。
「係留索良し!」
隣の新人が聞く。
「先輩」
「毎日やるんですか?」
先輩は答える。
「毎日だ」
「昨日も確認したじゃないですか」
「昨日確認したから今日も確認するんだ」
新人は少し考えた。
よく分からなかった。
格納庫。
整備員たちが魔導メガネウラを囲んでいる。
「右翼付け根摩耗なし」
「左翼付け根摩耗なし」
「振動機構正常」
「魔導石温度正常」
一人が呟く。
「故障してないな」
整備主任。
「だから確認するんだ」
「故障してから確認しても遅い」
全員うなずいた。
食堂。
朝食。
焼き魚。
パン。
果物。
スープ。
ローマ海軍からの視察員が驚く。
「貴国の海軍は豪華だな」
搭乗員。
「普通だぞ」
「普通?」
「腹が減ると確認を忘れる」
「確認を忘れると事故が起きる」
「だから飯は大事だ」
ローマ人は黙った。
妙に説得力があった。
午前。
見張り勤務。
海。
空。
海。
空。
海。
空。
新人。
「暇ですね」
先任下士官。
「暇でいい」
「何も起きない方がいい」
「忙しい時は大体まずい」
新人は黙った。
それもその通りだった。
昼過ぎ。
空母上空。
魔導メガネウラ隊が帰還する。
「三番機着艦します」
「了解」
「甲板良し」
「風向き良し」
「安全確認良し」
ゆっくり降下。
着艦。
拍手も歓声もない。
整備員。
「おかえり」
操縦士。
「ただいま」
それだけだった。
夕方。
甲板から夕日を見る搭乗員たち。
新人が聞く。
「空母勤務ってもっと格好いいと思ってました」
先輩は笑う。
「格好いいぞ」
「そうですか?」
「今日も誰も死ななかった」
「船も沈まなかった」
「飛行機も落ちなかった」
「十分格好いい」
海の向こうへ夕日が沈む。
空母は今日も静かに航海を続ける。
鉄道国海軍にとって最高の日とは、
英雄が生まれる日ではない。
誰も英雄になる必要がなかった日なのである。




