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見難い火傷の子  作者: 清風
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383/513

株式国家鉄道国

挿絵(By みてみん)

見難い火傷の子383




株式国家鉄道国




深淵ダンジョン第十六エリア/第四紀完新世層

青銅の時代

この地では、生きるものすべてが八倍の大きさで存在する。


飛行学校設立の話が出てから、鉄道国の役所も鉄道院も工廠も、にわかに騒がしくなった。


ダン「なんかみんな慌ただしいっすね」


キール「国家事業になりそうだからね」


ダン「学校作るだけで?」


キール「鉄道国では、学校ひとつでも路線計画や予算や人事が絡む。特に匠一が言い出した案件はね」


みい「また大きくなってる」


マリー「いつものことね」


そのとき、書類の束を抱えた役人が早足でやってきた。


役人「匠一CEO殿、こちら飛行学校設立に伴う予算案と用地選定案、それから教官候補者名簿です」


匠一「誰がCEOだ」


役人「失礼しました、筆頭株主殿」


匠一「もっと重い」


ダン「否定になってないっすよ」


みい「しーいーおーってえらい人?」


キール「だいたい合ってる」


匠一「雑だな」


役人は慣れた様子で書類を差し出した。

匠一は受け取ると、その場でぱらぱらとめくっていく。


ダン「でも実際、なんでそんなに話が早いんすか」


キール「それは鉄道国だからだよ」


ダン「鉄道国だから?」


キール「この国は少し変わっていてね。王国でも、ただの官僚国家でもない」


みい「じゃあなに?」


キールは少し笑って言った。


キール「株式国家鉄道国さ」


ダン「……なんすかそれ」


マリー「名前からしてややこしいわね」


キール「簡単に言えば、この国では線路と駅と株券が、国の形を決めている」


ダン「株券?」


匠一「出資の証明だ。金を出したやつが持つ」


みい「たくさん持ってるとえらい?」


匠一「発言力は増える」


ダン「じゃあリーダーめちゃくちゃえらいじゃないすか」


匠一「そういう言い方は好きじゃない」


キール「だが事実ではあるね。鉄道網の創設、工廠の整備、物流改革、新路線計画。どれも匠一の出資と技術がなければ、ここまで拡大しなかった」


マリー「つまり?」


キール「匠一は鉄道国の筆頭株主級、ということだよ」


ダン「級ってなんすか、級って」


キール「本人が嫌がるから濁した」


匠一「助かる」


役人「議会でも鉄道院でも、匠一殿の意向は極めて重く扱われます」


ダン「ほらもう偉い人だ」


匠一「責任が重いだけだ」


マザー「予算、人事、設備投資、新規事業、どれも最終的に匠一様の判断が必要です」


みい「CEOだ」


匠一「やめろ」


ダン「でも株式国家ってことは、王様はいないんすか」


キール「いるよ」


ダン「いるんだ」


キール「ただし王冠だけで国が動くわけじゃない。線路を敷き、駅を築き、物流を回し、利益を生み、雇用を作る者の力が大きい」


マリー「家柄だけでは駄目なのね」


キール「この国ではね」


匠一「貴族が腹を空かせても国はすぐには倒れんが、物流が止まると三日で悲鳴が上がる」


ダン「現実的……」


役人「ゆえに鉄道網を握る者の発言力は、極めて大きいのです」


みい「線路がえらい」


キール「だいたい合ってる」


ダン「この国、王様より時刻表のほうが強くないすか」


匠一「言い過ぎではないな」


マリー「すごい国ね」


キール「駅ができれば町ができる。路線が延びれば商人が動く。工廠が建てば職人が集まる。学校ができれば技術者が育つ。鉄道国は、線路で国土を編んでいるんだ」


ダン「じゃあ飛行学校も、その延長ってことっすか」


匠一「そうだ」


匠一は書類を閉じた。


匠一「鉄道が地上の流れを作った。なら次は空だ」


みい「また言った」


匠一「飛行技術は遊びじゃない。偵察、輸送、救助、測量、伝令。空路ができれば国の形そのものが変わる」


役人「すでに鉄道院内部でも、航空部門の新設案が出ています」


ダン「早いな!」


役人「匠一殿が言い出した案件ですので」


ダン「やっぱCEOじゃん」


匠一「お前まで言うな」


キール「株式国家鉄道国らしい話だよ。新技術が出れば、まず事業計画になり、次に予算がつき、最後に制度が追いかけてくる」


マリー「順番が逆ではなくて?」


キール「匠一がいると、だいたい逆だね」


マザー「まず作ってから整えることが多いです」


みい「いつもの」


ダン「いつものだ」


役人は咳払いをひとつした。


役人「では、飛行学校設立に関してですが」


匠一「読む」


役人「はい。第一期は操縦基礎課程、整備基礎課程、魔導機関理解課程。第二期以降に偵察課程、輸送課程、教官養成課程を増設予定です」


キール「本格的だ」


役人「用地は鉄道工廠に近く、かつ試験飛行に十分な平地を確保できる場所を候補としております」


マリー「寮は?」


役人「建設案に含まれています」


みい「制服は?」


役人「意匠部に打診済みです」


ダン「仕事が早すぎる」


役人「匠一殿案件ですので」


匠一「便利な言葉みたいに使うな」


ダン「でも実際便利なんでしょ」


匠一「否定はしない」


キール「認めたね」


しばしの沈黙のあと、みいが首をかしげた。


みい「ねえ、株式国家ってことは、この国って会社みたいなもの?」


キール「半分はそうだろうね」


匠一「会社というより、国家機能を飲み込んだ巨大事業体だ」


ダン「もっと怖くなった」


マリー「でも分かる気はするわ。みんな暮らしが線路につながっているもの」


マザー「食料、資材、郵便、人の移動。すべて鉄道網の恩恵を受けています」


役人「ゆえに鉄道国は、株式国家と呼ばれるのです」


ダン「なんか急に賢そうに聞こえてきた」


キール「実際、かなり特殊な国だよ」


匠一「特殊で結構。回っているなら問題ない」


ダン「回してる本人が言うと強いなあ」


みい「じゃあリーダーは、株式国家鉄道国のCEO?」


匠一「違う」


役人「実質的には」


匠一「言うな」


キール「筆頭株主」


マザー「最大意思決定者」


ダン「線路の王」


マリー「鉄と魔導の財布」


みい「CEOだ」


匠一「お前らな……」


一同の視線を浴びながら、匠一は深くため息をついた。

だがその手は、すでに飛行学校設立案の承認欄へ向かっている。


匠一「……で、予算の不足分はどこだ」


役人「こちらです」


匠一「工廠拡張費を少し削る。代わりに試験機開発費を増やせ。教官養成は前倒しだ」


役人「承知しました」


キール「ほらね」


ダン「なにが?」


キール「CEOだ」


匠一「やめろと言ってるだろう」


こうして鉄道国はまた一歩、次の時代へ進むことになった。

王冠よりも路線図が、家柄よりも持株比率が、そして昨日までの常識よりも新技術がものを言う国。


株式国家鉄道国。


その中心で、ひとりの発明家が今日もうっかり国の未来を決めていた。

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