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見難い火傷の子  作者: 清風
277/314

深淵中枢塔《ネクサス・アビス》緊急招集

挿絵(By みてみん)

見難い火傷の子277



深淵中枢塔ネクサス・アビス緊急招集



深淵ダンジョン第十六エリア、第四紀完新世層

青銅の時代

この地では、生きるものすべてが八倍の大きさで存在する。



深淵中枢塔ネクサス・アビス


各層の受付嬢たちが、珍しく一堂に会していた。


カンブリア紀のローラ。

オルドビス紀のエリー。

シルル紀のドリー。

デボン紀のメイ。

石炭紀のサヨ。

ペルム紀のチヨ。

三畳紀のジェニー。

ジュラ紀のジェーン。

そして完新世の受付嬢タリア。


彼女たちをまとめるのは、管理局本部の主任受付嬢である。


突然の招集だった。


層崩落か。

王級出現か。

あるいは、また爆炎パーティが何かやらかしたのか。


受付嬢たちは、それぞれ少しだけ緊張した顔で整列していた。


主任が咳払いをひとつする。


「本日の業務連絡」


空気が張る。


「――バビロン視察旅行を実施します」


「「「視察旅行!?」」」


一斉に声が揃った。


主任は真顔のまま続ける。


「深淵ダンジョンの“地上文明”を理解するための研修です。観光ではありません。研修です」


※観光である。



タリアが一歩前に出た。


「皆さん、ようこそ!本日は私、バビロン受付嬢タリアがガイドを担当します!」


「文明……光ってる……!」


ローラが目を輝かせる。


「海じゃない……地面が固い……!」


メイが足元を見た。


「虫が……小さい……!」


サヨが感動している方向は少し独特だった。


「ゴルゴノプスがいない……平和……!」


チヨはしみじみと呟く。


「空を飛ぶ《ソラ》が普通に飛んでる……!」


ジェニーが見上げる。


「温泉はありますか?」


エリーはぶれなかった。


「サソリ人いないの新鮮……!」


ドリーは逆に落ち着かないらしい。


「恐竜がいない……静か……!」


ジェーンはジュラ紀担当らしい感想を漏らした。


「落ち着きなさい」


主任が即座に言った。



《ソラ》が着陸し、タラップが降りる。


「では皆さん、乗船をどうぞ!」


タリアが案内する。


「空を飛ぶ……!?アノマロカリスより速い……!」


ローラが固まる。


「海じゃないのに浮く……!?」


メイが目を丸くする。


「虫の羽音がしない……静か……!」


サヨは別のところに感動していた。


「スピノ丸さんは……?」


ジェーンだけ、やはり気にする方向が違った。


「今日は来ません」


タリアが答える。


「残念……」


ジェーンが本気で肩を落とす。


「落ち着きなさい」


主任はもう反射で言っていた。



《ソラ》が爆炎ハウス通りに着陸する。


受付嬢たちは、文明の光景に完全に圧倒されていた。


「建物が……石じゃない……!」


ローラが目を見開く。


「水が……透明……!」


メイが感動する。


「空気が……軽い……!」


サヨが深呼吸した。


「ゴルゴノプスがいない……安心……!」


チヨはずっとそこを評価していた。


「三畳紀より静か……!」


ジェニーが呟く。


「温泉は……?」


エリーはまだ探していた。


「サソリ人がいない……落ち着かない……!」


ドリーは逆ホームシック気味だった。


「恐竜がいない……逆に怖い……!」


ジェーンは真顔だった。


「落ち着きなさい」


主任が言う。



「ではまず、バビロン名物“深淵アイス”から行きましょう!」


タリアが元気よく宣言する。


「「「アイス!?」」」


深淵アイスの前で、受付嬢たちは完全に理性を失っていた。


「冷たい……!カンブリアにはない……!」


ローラが震える。


「海の氷より甘い……!」


メイが目を丸くする。


「虫の味がしない……!」


サヨの感想はやはり独特だった。


「ペルムの肉より優しい……!」


チヨがしみじみと言う。


「三畳紀の果物より甘い……!」


ジェニーも感動していた。


「温泉の後に食べたい……!」


エリーは温泉軸を崩さない。


「サソリ人にも食べさせたい……!」


ドリーは郷土愛が強かった。


「スピノ丸さんが好きそう……!」


ジェーンはやはりそこへ行く。


「落ち着きなさい」


主任が言った。


その手には、しっかりアイスが握られていた。


「主任、食べてますよね?」


タリアが笑う。


「これは確認です。研修の一環です」


※満喫している。



「次は中央通りです!」


タリアの案内で、一行はバビロンの街を歩く。


人の流れ。

高い建物。

整った街路。

絶えない活気。


「光が……多い……!」


「海の上より眩しい……!」


「虫がいない……平和……!」


「ゴルゴノプスがいない……最高……!」


「三畳紀より安全……!」


「温泉は……?」


「サソリ人がいない……寂しい……!」


「恐竜がいない……落ち着かない……!」


感想は見事にばらばらだった。


「落ち着きなさい」


主任が言う。


「主任、もう口癖になってませんか?」


タリアが小声で聞く。


「必要な業務です」


主任は真顔だった。



そして――


「最後に、バビロン遊園地アビスランドへ行きます!」


「「「遊園地!?」」」


受付嬢たちの目が一斉に輝いた。


「研修です」


主任が即座に言う。


※遊園地である。


「観覧車、電磁コースター、海中ローラコースター……全部乗れますよ!」


「「「全部!?」」」


ジェーンが青ざめた。


「スピノ丸さんが気絶したやつ……!」


「なぜ知っているのですか」


主任が聞く。


「ジュラ紀エリアで有名です」


「有名なんだ……」


タリアが少し引いた。



こうして――

深淵ダンジョン管理局・受付嬢一行の“文明研修”が始まった。


名目は研修。

実態は観光。

だが本人たちは、たぶん半分くらい本気で学ぶつもりだった。


バビロンの街は、今日もまた、新たな混乱と笑い声に包まれる。

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