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見難い火傷の子  作者: 清風
276/297

思い出多き、剣竜流道場一門のバビロン旅行

挿絵(By みてみん)

見難い火傷の子276


思い出多き、剣竜流道場一門のバビロン旅行



深淵ダンジョン第十六エリア、第四紀完新世層

青銅の時代

この地では、生きるものすべてが八倍の大きさで存在する。


バビロン、深淵アミューズメントパーク《アビスランド》。


夕暮れの遊園地は、昼の喧騒が嘘のように静かだった。


なまけもの君カートで園内を一周し終えたスピノ丸は、巨大な身体を丸めて、満足そうにため息をついた。


「……文明……恐ろしい……。だが……楽しかった……」


ケンタが嬉しそうに笑う。


「スピノ丸さん、今日はいっぱい頑張りましたね!」


「観覧車こわかったね!」


トゲ丸が元気よく言う。


「でも、ソフトクリームはおいしかった……」


リンが小さく頷く。


「……クレープ……また食べたい……」


ソウも名残惜しそうだった。


ショータはそんなみんなを見て、少し笑う。


「みんな、すっかり文明に慣れてきましたね」


「スピノ丸は慣れてないけどな」


ダンが即座に言った。


「慣れん!!文明は恐ろしい!!だが……甘味は偉大……!」


スピノ丸が力強く言い切る。


マリーが肩をすくめた。


「甘味だけは信じてるんだね」



《ソラ》のタラップが降りる。


匠一が短く言った。


「帰るぞ」


「はい、師匠!」


ケンタが即答する。


「帰る!!文明は楽しいが……疲れる!!」


スピノ丸も勢いよく立ち上がった。


ショータが少し優しく声をかける。


「スピノ丸さん、今日は本当にがんばりましたよ」


「……うむ」


スピノ丸は少しだけ胸を張った。


「我は王だが……今日は弟子として頑張った……!」


「スピノ丸さん、また来ましょうね!」


ケンタが言う。


「来る!!甘味のためなら来る!!」


ダンが吹き出した。


「動機が甘味なの草」


マリーも笑う。


「でもスピノ丸らしいよね」



《ソラ》がゆっくりと浮上し、バビロンの街を離れていく。


ケンタの弟子たちは窓に張りつき、夜景を見つめていた。


「きれい……!」


「光がいっぱい……」


「……また来たい……」


トゲ丸、リン、ソウ。

三人の声には、それぞれ違う感動があった。


ケンタはそんな弟子たちを見て、静かに微笑む。


「……いい思い出になったね」


「はい。僕も楽しかったです」


ショータも素直に頷いた。


スピノ丸は巨大な身体を丸めて座りながら、ぽつりと呟く。


「……文明……恐ろしい……。だが……悪くない……。甘味があるから……」


「締める」


「帰り道で言うなぁぁぁぁぁぁ!!」


《ソラ》の中に、また笑い声が広がった。



こうして――

剣竜流道場一門のバビロン旅行は、笑いと恐怖と甘味に満ちた、忘れられない一日となった。


ジュラ紀の王も。

ケンタの弟子たちも。

ショータも。

そして爆炎パーティも。


それぞれが、少しだけ世界を広げた旅だった。



やがて《ソラ》は、ジュラ紀エリアへ戻ってきた。


降り立った先では、岩陰に二つの影があった。


佐々木アロ次郎。

宮本ティラノ。


二人は、帰ってきたスピノ丸を見て、すっと頭を下げる。


「王よ、お帰りなさいませ」


声が揃う。


スピノ丸は、少しだけ偉そうに胸を張った。


「うむ」


ショータは思った。


――あ、ちょっと王に戻った。


だが次の瞬間、アロ次郎が首を傾げる。


「……ずいぶん顔つきが丸くなりましたな」


ティラノも真顔で続けた。


「甘味に落ちた顔だ」


スピノ丸の目が見開かれる。


「違う!!」


ダンがにやにやしながら口を挟んだ。


「こいつ、もう“チョロノ丸”でいいんじゃないか?」


一瞬の沈黙。


マリーが吹き出す。


「それはひどい」


ケンタは困ったように笑い、弟子たちはきょとんとしていた。


そしてスピノ丸は、夜空に向かって叫んだ。


「スピノ丸だぁぁぁぁぁぁぁ!!」



……その後。


スピノ丸は、アロ次郎と宮本ティラノを相手に、バビロン旅行の内容を身振り手振りで熱弁することになる。


観覧車の高さ。

電磁コースターの恐怖。

海中コースターの安心。

ソフトクリームの優しさ。

クレープの甘さ。

なまけもの君カートの偉大さ。


その語りは、途中から完全に「文明賛歌」になっていた。


アロ次郎は静かに頷き、宮本ティラノは腕を組んだまま黙って聞いていたが――


最後に、ティラノがぼそりと言った。


「……で、うまかったのか」


スピノ丸は力強く頷いた。


「うまかった!!」


その返事に、匠一が一言だけ告げる。


「なら、また行くか」


スピノ丸の顔が、ぱっと明るくなった。


「行く!!」


ジュラ紀の夜に、また笑い声が響いた。


――その時だった。


ふと見ると、アロ次郎と宮本ティラノが、しきりに自分を指していた。


スピノ丸が目を瞬かせる。


「……何だ」


アロ次郎が静かに言う。


「次は、我も」


ティラノも腕を組んだまま続けた。


「俺もだ」


一瞬の沈黙。


ショータが思わず吹き出す。


「行きたいんだ……!」


ダンがにやりと笑う。


「ジュラ紀組、全員バビロン堕ちかよ」


マリーが肩を震わせる。


「次はもっと大変になりそうだね」


匠一は短く言った。


「乗れればいい」


アロ次郎とティラノの目が、同時に輝く。


スピノ丸はなぜか少し得意げに胸を張った。


「……文明は恐ろしい。だが、甘味は偉大だ」


アロ次郎とティラノは、無言で深く頷いた。


こうして――

ジュラ紀エリアには、新たな“バビロン行き希望者”が生まれたのだった。

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