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見難い火傷の子  作者: 清風
274/285

剣竜流道場一門、バビロンへ行く

挿絵(By みてみん)

見難い火傷の子274


剣竜流道場一門、バビロンへ行く


深淵ダンジョン第十六エリア、第四紀完新世層

青銅の時代

この地では、生きるものすべてが八倍の大きさで存在する。


地獄の一週間が終わった。


人化で大きさも人サイズ?となったスピノ丸。


ケンタは弟子たちの前に立ち、スピノ丸は人基準にしては巨大な身体を縮めて座り、宮本ティラノは岩陰からこっそり覗いていた。

人化が不得意なのかスピノ丸の顔はスピノサウルスの原型を残し背中には帆が残っていた。


「みんな……よく頑張りました!」


ケンタが晴れやかな顔で言う。


「師範も!」


トゲ丸が元気よく返す。


「スピノ丸さんも……」


リンが少しだけ気を遣うように言った。


「……がんばった……」


ソウも小さく頷く。


スピノ丸は遠い目をしていた。


「生き延びた……!」


ショータは思った。


――目的そこなんだ……。


匠一が短く言う。


「よくやった。今日は帰る」


「はい、師匠!」


ケンタが即答する。


「帰る!?どこへ!?」


スピノ丸が顔を上げた。


「バビロンだよ」


ダンが当然のように答える。


「バビロン!?」


「ケンタの道場一門で、バビロン旅行するんだよ」


マリーが笑う。


「旅行!?我は行っていいのか!?」


「弟子だろう」


匠一の一言に、スピノ丸の目が見開かれた。


「弟子……!弟子でよかった……!」


ショータは思った。


――王の威厳が完全に消えた……。



《ソラ》が修練場に降り立つ。


弟子たちは目を輝かせた。


「空飛ぶ船だ!」


「すごい……」


「……こわいけど……乗る……」


トゲ丸、リン、ソウがそれぞれ違う反応を見せる。


スピノ丸は自分の巨体を見下ろし、不安そうに言った。


「……我は乗れるのか?」


「帆を畳めばギリいける」


ダンが言う。


「帆ではない!!」


即座に反論するスピノ丸。


「乗れ」


「乗る!!」


匠一の一言で即決だった。



《ソラ》が浮上し、ジュラ紀の大地を離れていく。


ケンタは窓の外を見ながら、少し嬉しそうに言った。


「弟子たちを、バビロンに連れて行くのが夢だったんです」


「いい夢ですね」


ショータが素直に答える。


「ショータさんも一緒に来てくれて嬉しいです!」


「えっ、僕も!?」


「当然でしょ。荷物持ち」


マリーがさらっと言った。


「役割が雑……!」


その横で、スピノ丸は窓に顔を押しつけていた。


「すごい!!空が近い!!湖が小さい!!森が縮んで見える!!」


「スピノ丸、はしゃぎすぎ」


ダンが笑う。


「落ちるなよ」


キールが淡々と釘を刺す。


「落ちん!!」


返事だけは立派だった。



やがて、バビロン上空。


巨大な都市が眼下に広がる。


「うわぁぁぁぁぁ!!」


弟子たちの歓声が重なった。


「これが……文明……!!」


スピノ丸の声は、もはや感動に震えていた。


ショータは少しだけ笑う。


――スピノ丸さん、かわいいな……。


《ソラ》が爆炎ハウス通りに着陸する。


高級住宅街の整った街並み、広い道、豪奢な屋敷。

ケンタの弟子たちは完全に圧倒されていた。


「ここ……住んでるの?」


「すごすぎる……」


「……広い……」


「ここが……師匠の拠点……!」


スピノ丸が感極まったように言う。


「拠点だ」


匠一が短く返す。


「拠点……!かっこいい……!」



爆炎ハウスの扉が開く。


「おかえり〜!」


ハナが手を振る。


「お疲れさまでした」


クロが一礼する。


「スピノ丸さん、帆を畳んでください」


ユキが冷静に言った。


「帆ではない!!」


「畳め」


「畳む!!」


もう反射だった。



ケンタは深く息を吸い、弟子たちへ振り返る。


「みんな。今日はバビロンを案内します!」


「やったー!」


「行きたい場所、いっぱいあります!」


「……おいしいもの……食べたい……」


弟子たちがそれぞれ声を上げる。


スピノ丸だけは少し違った。


「我は……生き延びたい……!」


ショータは思った。


――目的そこなんだ……。


マリーが楽しそうに言う。


「じゃあまずは、バビロン名物“深淵アイス”からだね」


「その後は“深淵焼き肉”だな」


ダンが続ける。


「焼き肉!?我は食材ではないぞ!?」


「大きい。うまい。それだけだ」


「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!」


こうして――

剣竜流道場一門のバビロン旅行が始まった。



……そして、その最初の洗礼は、思ったより早く訪れた。


バビロン、深淵アミューズメントパーク《アビスランド》。


ケンタの弟子たちとスピノ丸を連れて、爆炎パーティは遊園地へやって来ていた。


うさ耳カチューシャを付けた一行は、完全に観光客だった。


「すごい!光ってる!」


「人がいっぱい……!」


「……おいしい匂い……」


弟子たちは大はしゃぎである。


一方、スピノ丸は巨大な帆を半端に畳みながら、文明の光景に圧倒されていた。


「こ、これが……文明……!」


「スピノ丸さん、帆が広がってます」


ショータが指摘する。


「広がる!!」


「畳め」


「畳む!!」


もはや様式美だった。



最初の試練は、観覧車だった。


「まずは観覧車に乗りましょう!」


ケンタが元気よく言う。


「やったー!」


「高いところ、楽しみ!」


「……こわいけど……乗る……」


弟子たちは前向きだ。


スピノ丸だけが観覧車を見上げ、固まっていた。


「……あれは……何だ……?」


「観覧車ですよ。ゆっくり回るだけです」


ショータが説明する。


「ゆっくり……?」


「乗れ」


「乗る!!」


匠一の一言で、また決まった。



ゴンドラに乗り込んだ瞬間、スピノ丸は悲鳴を上げた。


「狭い!!」


「スピノ丸さん、帆が……!」


「広がる!!」


「畳め」


「畳む!!」


観覧車がゆっくり上昇する。


「……お、おおおお……?」


「景色が綺麗ですね!」


「街が小さい!」


「風が気持ちいい……!」


「……高い……」


弟子たちが楽しむ横で、スピノ丸は窓に張りついて震えていた。


「……高い……高い……高い……」


「スピノ丸さん、大丈夫ですか?」


「大丈夫ではない!!我は水棲寄りだぞ!?こんな高所、慣れていない!!」


頂上に到達した瞬間――


「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


ゴンドラがわずかに揺れた。


「おい、揺らすな!」


「揺れているのは観覧車だ!!我ではない!!」


ショータは思った。


――いや絶対スピノ丸さんのせいだよね……。



観覧車を降りた時点で、スピノ丸はすでに魂が半分抜けていた。


「……文明……恐ろしい……」


だが、次の試練が待っていた。


「次は電磁コースターです!」


「待て!!」


「乗るぞ」


「乗らん!!」


「乗れ」


「乗る!!」


発進。


「うわっ速っ……!」


「楽しいですね!」


「ひゃっほー!」


「風が強い……!」


「……こわ……!」


そしてスピノ丸は――


「――――」


「スピノ丸さん!?」


「気絶してるね」


マリーが冷静に言った。


「王の威厳、完全に消滅」


ダンが笑う。


「……締めるか」


「(気絶したまま)やめろぉぉぉ……」


反射だけは生きていた。



さらに海中ローラコースター《アビス・マリンラン》へ。


「これ大丈夫なんですか!?」


ショータが不安そうに聞く。


「水棲寄りだから大丈夫だろ」


ダンが軽く答える。


「むしろここで目覚めるんじゃない?」


マリーの予想は当たった。


コースターが水中へ突入した瞬間――


ドボォォォォン!!


「――――ッ!?」


「目覚めた!!」


ショータが叫ぶ。


「水だ!!水の中だ!!ここは安全だ!!文明の恐怖はない!!」


「スピノ丸さん、落ち着いて!」


「落ち着く!!」


だが、水中トンネルを抜けて再び地上へ出た瞬間――


「戻るなぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「戻るの嫌なんだ……」


ショータはちょっとだけ同情した。



終了後。


スピノ丸は地面に倒れ込み、巨大な身体を震わせていた。


「……文明……恐ろしい……。水の中だけが……我の味方……」


「スピノ丸さん、楽しかったですか?」


ケンタがきらきらした目で聞く。


「楽しくない!!だが……生き延びた……!」


「締める」


「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!」


弟子たちはそんなスピノ丸を囲んでいた。


「スピノ丸さん、がんばったね!」


「すごかったです!」


「……生きてる……」


ショータは思った。


――なんか、応援したくなるな……。


こうして、ジュラ紀の王スピノ丸は、文明の絶叫アトラクション三連撃を、なんとか生き延びたのだった。

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