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見難い火傷の子  作者: 清風
273/298

ジュラ紀の王、弟子入り志願(生存戦略)

挿絵(By みてみん)

見難い火傷の子273


ジュラ紀の王、弟子入り志願(生存戦略)


深淵ダンジョン第十一エリア、ジュラ紀エリア

恐竜の時代

この地では、生きるものすべてが八倍の大きさで存在する。


深淵ダンジョン第十一エリア、ジュラ紀エリア。

恐竜の時代。


この地では、生きるものすべてが八倍の大きさで存在する。


スピノサウルスの巨大な爪が、ケンタの剣とぶつかり、火花が散った。


「くっ……!」


ケンタが歯を食いしばる。


「悪くない……!だが浅い!まだ浅瀬だ!」


スピノサウルスの低い声が、夜の修練場に響いた。


ケンタは必死に踏ん張る。

弟子たちは固唾を飲んで見守り、ショータも息を呑んでいた。


――ケンタさん、すごい。

でも……相手が悪すぎる。


その時だった。


匠一が、またスピノサウルスの首元へ手を伸ばした。


「待て待て待て待て!!」


王の声が裏返る。


「締める」


「試練の途中だと言っている!!」


「終わったら締める」


「終わらなくていい!!」


「えっ!?」


ケンタの声と、弟子たちの声と、ショータの声が綺麗に重なった。



スピノサウルスは慌てて距離を取った。


「ま、待て……!我は王だぞ!?」


「大きい。うまい。それだけだ」


「二十回くらい言ってないか!?」


ダンが肩を震わせる。


「師匠、スピノが泣きそうだぞ」


マリーも苦笑した。


「王の威厳が蒸発してる……」


ハナは少し困った顔をする。


「かわいそう……」


ショータは思った。


――さっきまで“ジュラ紀の王”だったのに、今は完全に“怯える大型生物”だ。



スピノサウルスは深呼吸し、何かを決意した顔で、どすんとその場に座り込んだ。


「……弟子にしてくれ」


一瞬、修練場の時間が止まった。


「は!?」


全員の声が揃う。


ケンタが一番混乱していた。


「え、えええええええ!?」


「弟子にしてくれ!」


スピノサウルスは必死だった。


「剣竜流に入門する!そうすれば……」


ちらりと匠一を見る。


「……締められずに済むだろう……!」


「弟子でも締める」


「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!」



ケンタは混乱しながらも、巨大な頭を見上げた。


「……スピノさん、本気ですか?」


「本気だ!」


スピノサウルスは即答した。


「我は王だが、命は惜しい!」


ショータは思った。


――王のセリフじゃない……。


だがスピノサウルスは真剣だった。

いや、必死だった。


「剣竜ケンタ!お前の剣はまだ浅い!だが――」


「だが……?」


「“浅瀬の剣”に逃げ込むのは悪くない!」


「逃げ込む!?」


「弟子にしてくれ!我は今日から“スピノ丸”を名乗る!」


ダンが吹き出す。


「勝手に丸つけた!」


マリーが笑う。


「かわいいけどね」



ケンタはしばらく困ったように黙っていたが、やがてスピノサウルス――いや、スピノ丸の目を見て、ゆっくり頷いた。


「……わかりました。弟子にします」


「本当か!?」


「はい。でも、剣竜流は厳しいですよ?」


「構わん!」


スピノ丸は胸を張った。


「生き延びるためなら何でもする!」


「締める」


「やめろと言っている!!」


こうして――


ジュラ紀の王スピノサウルスは、

“生存戦略”という前代未聞の理由で、

剣竜流道場に弟子入りすることになった。


弟子たちはひそひそ声で話す。


「……大丈夫かな、この道場……」


「急に王が入ってきた……」


「しかも理由が理由だし……」


ショータは遠い目をした。


「……深淵って、本当に何でもありだ……」



だが、話はそれで終わらなかった。


匠一が静かに言った。


「弟子入りなら、地獄の一週間だ」


「……地獄?」


スピノ丸の顔が引きつる。


ケンタが真面目に頷いた。


「はい。僕もやりました」


「ぼくもやりました!」


トゲ丸が元気よく手を挙げる。


「やりました」


リンも頷く。


「……やりました……」


ソウも小さく続いた。


「全員やってるのか!?」


ダンが肩をすくめる。


「師匠の弟子になるなら必須だぞ」


マリーがにこやかに言う。


「決してはらいせではないよ」


ショータは思った。


――いや絶対ちょっと入ってるよね……。



匠一がスピノ丸の前に立つ。


「スピノ」


「スピノ丸だ!」


「スピノ」


「丸をつけろ!」


「スピノ」


「つけろと言っている!!」


「地獄の一週間、始める」


「話を聞けぇぇぇぇぇぇぇ!!」



一日目:走れ


「まずは走ります!」


ケンタが元気よく言う。


「我は水棲寄りだぞ!?」


「走れます!」


「走れん!!」


「走れ」


「走る!!」


巨大なスピノ丸が、ジュラ紀の大地を全力疾走した。


地面が沈む。

森が揺れる。

湖が波立つ。


ショータが真顔になる。


「……地震?」


「スピノ丸が走ってるだけだ」


ダンが平然と答えた。



二日目:避けろ


「次は避ける訓練です!」


「我の体格で避けられるか!?」


「避けられます!」


匠一が石を投げた。


「ちょっ――」


石がスピノ丸の帆をかすめる。


「死ぬ!!」


「避けろ」


「避ける!!」



三日目:人化の練習


「スピノ丸さん、人化できますか?」


「できるわけないだろう!」


「できる」


匠一が断言する。


「根拠は!?」


「できる」


「押し切るな!!」


ショータは思った。


――この人、理屈じゃなくて圧で世界を曲げるんだよな……。



四日目:剣を持て


「スピノ丸さん、剣を持ってください!」


「この前脚で!?」


「持てます!」


「持て」


「持つ!!」


巨大な前脚で、恐る恐る剣をつまむスピノ丸。


ダンが笑う。


「……かわいいな」


マリーも頷いた。


「意外と器用だね」



五日目:型の練習


「剣竜流・基本型一!」


「無理だ!!」


「できます!」


「やれ」


「やる!!」


巨大なスピノ丸が、ぎこちない動きで型を踏む。


ショータは思わず見入った。


「……なんか……頑張ってる……」


ハナがほわっと笑う。


「かわいい……」



六日目:精神統一


「心を静かに……」


「静まらん!!」


「静まります!」


「静まれ」


「静まる!!」


もはや返事だけは完璧だった。



七日目:総合試験


「スピノ丸さん、最後の試験です!」


「何をすればいい!?」


「逃げるな」


「逃げん!!」


「立ってください!」


「立つ!!」


「剣を構えてください!」


「構える!!」


「叫んでください!」


「叫ぶ!!」


スピノ丸が夜空へ向かって咆哮する。


ケンタは満足そうに頷いた。


「……合格です!」


「えっ!?」



ケンタは深く頭を下げた。


「スピノ丸さん。今日から正式に、剣竜流の弟子です!」


スピノ丸はしばらく呆然としていたが、やがて全身を震わせた。


「……生き延びた……」


ショータは思った。


――目的そこなんだ……。


匠一がぼそりと言う。


「締めるのは後でいい」


「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!」


ジュラ紀の空に、王の悲鳴が響いた。

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