ジュラ紀の王、活け締め
見難い火傷の子272
ジュラ紀の王、活け締め
深淵ダンジョン第十一エリア、ジュラ紀エリア
恐竜の時代
この地では、生きるものすべてが八倍の大きさで存在する。
スピノサウルスが修練場に立った瞬間、
空気が変わった。
湿り気。
重圧。
水底のような静けさ。
ケンタは剣を構え、
弟子たちは固まり、
ショータは息を呑む。
だが――
爆炎パーティの一部は違った。
ダン
「……なあ、あれ絶対うまいよな」
マリー
「ワニ肉系の白身だよね。絶対高級食材」
ショータ
「王を食材扱いするのやめて……!」
匠一は静かにスピノを見つめ、
ぼそりと言った。
「大きい。うまい。それだけだ」
スピノサウルスの目が細くなる。
「……またか。
お前は昔から、我を“肉”としてしか見ていない」
匠一
「事実だ」
スピノ
「王に向かって言う言葉ではないぞ」
匠一
「王でも肉だ」
ショータ
(言い切った……!)
◇
スピノサウルスが一歩踏み出す。
その瞬間、
修練場の土が沈み、
空気が震えた。
ケンタは剣を握り直す。
「……来る!」
だが、匠一が手を上げた。
「ケンタ。下がれ」
「え……?」
「これは“試練”ではない」
匠一はスピノを見据えたまま言う。
「これは“食材確保”だ」
スピノ
「待て」
匠一
「待たない」
スピノ
「話を聞け」
匠一
「聞かない」
スピノ
「我は王だぞ」
匠一
「王でも肉だ」
スピノ
「二回言ったな!?」
◇
スピノが怒りで水蒸気を吹き上げる。
「よかろう……!
ならば、我を“活け締め”できるものなら――」
匠一が消えた。
ショータ
「えっ!?」
次の瞬間、
スピノの巨大な首の付け根に、
匠一の手が添えられていた。
匠一
「動くな」
スピノ
「なっ……!?」
匠一
「活け締めは、鮮度が命だ」
スピノ
「待て待て待て待て!」
匠一
「締める」
スピノ
「話を聞けと言っている!!」
匠一
「聞かない」
スピノ
「聞けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
◇
ダン
「師匠、王を活け締めしようとしてる……!」
マリー
「深淵の王すら食材扱い……これが爆炎パーティ……」
ショータ
「止めなくていいんですか!?」
キール
「止めても無駄だ」
ニール
「むしろ止めると危険」
ハナ
「スピノさん、かわいそう……」
◇
スピノは必死に叫ぶ。
「我は戦いに来たのではない!
剣竜ケンタに“試練”を与えに来ただけだ!」
匠一
「試練の前に締める」
スピノ
「順番が逆だろう!?」
匠一
「問題ない」
スピノ
「問題しかないわ!!」
◇
ケンタが慌てて前に出る。
「し、師匠!
スピノさんは敵じゃないです!
試練を与えに来ただけで……!」
匠一が手を止める。
「そうか」
スピノ
「そうだ!」
匠一
「なら、試練の後に締める」
スピノ
「待てと言っている!!」
◇
ダン
「……スピノ、かわいそうになってきた」
マリー
「王の威厳ゼロだよね」
ショータ
「深淵の王って、もっとこう……神秘的な存在じゃ……?」
キール
「爆炎パーティの前では、全てが食材だ」
◇
スピノは深く息を吐いた。
「……わかった。
まずは試練だ。
その後で、好きにするがいい」
匠一
「締める」
スピノ
「まだ言うか!!」
◇
ケンタは剣を構え直し、
スピノは姿勢を低くする。
ジュラ紀の王による“試練”が始まろうとしていた。
だが――
スピノサウルスの心の声は、
誰にも聞こえなかった。
(……絶対に活け締めされる……)
(……あの男、我を食材としてしか見ていない……)
(……逃げたい……)
ジュラ紀の王は、
人生で初めて“食材としての恐怖”を味わっていた。




