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見難い火傷の子  作者: 清風
216/613

神官連合の逆襲

挿絵(By みてみん)

見難い火傷の子216


神官連合の逆襲


――青銅の時代。

深淵ダンジョン第十六エリア、第四紀完新世層


この地では、生きるものすべてが八倍の大きさで存在する。


赤い閃光担当事案続き


判決は、持ち越された。


だが――

戦いは、終わっていない。


中央神殿。


その最奥。


人払いされた石室に、複数の神官が集っていた。


「……猶予は得た」


低い声。


「だが、時間を与えただけで勝てる相手ではない」


「“赤い閃光”……か」


別の神官が呟く。


「記録の穴を突き、現場で証明する」


「厄介な連中だ」


沈黙。


やがて、一人が言った。


「――ならば、現場ごと潰す」


空気が冷える。


■神官連合


「単独では足りん」


「医薬院、記録院、水利院――全て動かす」


「連合を組む」


それは異例だった。


神殿内の各院は、基本的に互いに干渉しない。


利権が絡むからだ。


だが今回は違う。


「負ければ、前例ができる」


「一度でも覆れば、他も崩れる」


「ならば――潰すしかない」


全員が頷いた。


■作戦


「第一段階」


「水を断つ」


灰土の井戸。


あの薬の要。


「水脈を操作する」


「痕跡は?」


「自然変動に見せる」


「第二段階」


「記録の再構築」


石板を書き換える。


あるいは――新たに“上位記録”を作る。


「神託を下ろす」


「……偽るのか」


「解釈だ」


迷いはなかった。


「第三段階」


一拍。


「排除」


沈黙。


「対象は?」


「灰土家」


「……と、“赤い閃光”」


■夜


灰土の村。


風が止んでいる。


「……来る」


アンナが呟いた。


ハリセンはすでに立っている。


「全員、起きろ」


声は小さい。


だが、全員が目を開ける。


「早いな」


ナックルが笑う。


「嫌な流れ、濃い」


アンナが短く言う。


「なら当たりだな」


ピコハンが立ち上がる。


■第一波


地面が揺れた。


井戸の水位が、わずかに下がる。


「……来たか」


ピコハンが舌打ちする。


「水脈操作」


「やることが露骨だな」


「露骨でも効くならやる」


ハリセンの判断は早い。


「対処する」


■第二波


影が動く。


黒装束。


複数。


「神殿の影」


メリーが息を呑む。


「証拠潰しだな」


「来い」


ナックルが前に出る。


一瞬で距離が消える。


拳。


一人、沈む。


だが、終わらない。


「数、多いよ!」


「想定内だ」


ピコハンが位置を取る。


「三方向から来てる」


「分断する」


ハリセンの一言。


全員が動く。


■連携


ナックルが正面を受け止める。


メリーが声で誘導する。


「左! 一歩下がって!」


刃が空を切る。


アンナが違和感を拾う。


「後ろ、二人」


ピコハンが地形を使う。


「そこ、踏ませろ」


足場が崩れる。


一人、落ちる。


そして。


「――今だ」


ハリセンの合図。


一瞬で決着。


■異変


だが。


「……まだ終わってない」


アンナが言う。


全員が止まる。


井戸。


水位がさらに下がる。


「まずいな」


ピコハンが低く言う。


「このままだと、枯れる」


沈黙。


「……やるか」


ナックルが拳を握る。


「壊すか、水脈」


「壊したら戻らん」


「なら?」


ハリセンが井戸を見る。


一瞬。


「押す」


決断。


「水脈まで行く」


「地下かよ」


ナックルが笑う。


「面白ぇ」


「時間との勝負」


ピコハンが言う。


「上は任せて」


メリー。


「下は任せる」


アンナが頷く。


「……深いよ」


「問題ない」


ハリセンはもう動いていた。


■宣戦


その頃。


神殿。


「……始まったか」


神官が石板を見る。


「これで終わる」


だが。


誰も気づいていなかった。


すでに。


“逆襲”が始まっているのは、どちらなのか。


地下水脈戦――証拠は流れる


夜はまだ明けない。


だが――

決着の流れは、すでに地下を走っていた。


灰土の井戸。


水位は、確実に下がっている。


「時間、ないね」


メリーが唇を噛む。


「上は任せろ」


ナックルが前に出る。


「全部ぶっ飛ばす」


「壊すなって言ってるだろ」


ピコハンが即座に突っ込む。


「必要なら壊す」


「必要になる前に止める」


そのやり取りを背に、ハリセンは井戸を覗いた。


「行く」


躊躇はない。


そのまま、飛び込む。


「マジかよ」


ナックルが笑う。


「好きだぜ、そういうの」


■地下


冷たい水。


重い圧。


暗闇。


だが。


「……流れ、変」


アンナが呟く。


水は、ただ下へ流れていない。


「横に引かれてる」


ピコハンが即座に把握する。


「水脈を“曲げてる”な」


「人為的」


「神殿の水利院か」


ハリセンは短く言う。


「止める」


■異形


その時。


水の奥が、揺れた。


巨大な影。


「……来る」


現れたのは、水棲の巨大生物。


八倍環境の捕食者。


「番人か」


ピコハンが舌打ちする。


「都合いいな、神殿」


「排除」


ハリセンの一言。


■水中戦


水中では、動きが鈍る。


だが。


「右、遅れる」


アンナ。


「補正する」


ピコハン。


位置を読む。


流れを読む。


ナックルはいない。


だが問題ない。


三人で足りる。


「――今」


ハリセンが踏み込む。


関節。


柔らかい部位。


一撃。


水が赤く染まる。


巨体が崩れる。


「速い」


アンナが一言。


「当然だ」


■本体


その先。


石組み。


人工物。


水脈に差し込まれた、異物。


「これか」


ピコハンが触れる。


「流れを制御してる」


「証拠になる?」


アンナ。


「なるどころじゃない」


ピコハンは笑った。


「決定打だ」


■破壊か、保存か


ナックルなら壊す。


だが。


「……持ち帰る」


ハリセンの判断。


「証拠優先」


ピコハンが頷く。


「正解」


■地上


その頃。


「まだ来るか!」


ナックルが拳を振るう。


敵は減らない。


「しつこい!」


「時間稼ぎだよ!」


メリーが叫ぶ。


その時。


井戸が、光った。


「……来た」


水が、戻る。


ゆっくりと。


だが確実に。


■再浮上


ハリセンたちが戻る。


手には、異物。


「証拠確保」


ピコハンが言う。


「これで終わりだ」


■夜明け


空が白む。


戦いは、終わった。


だが。


「次は上だ」


ハリセンは振り返らない。


■即時審問


中央神殿。


夜明けと同時に、再招集。


ざわめき。


困惑。


「なぜ今……」


神官たちが動揺する。


その中央へ。


赤い閃光が進む。


「証拠、提出する」


ハリセンの一言。


石のような沈黙。


ピコハンが異物を掲げる。


「水脈操作装置」


「神殿製だ」


空気が、壊れた。


「……異議あり」


神官が叫ぶ。


「そのようなもの――」


「ある」


遮る。


ハリセン。


「ここにある」


誰も、否定できない。


■判決へ


神官が、沈黙する。


逃げ場は、ない。


「……神意を仰ぐ」


だが。


その言葉は、もう遅い。


証拠は。


現実は。


ここにある。


「――判決を下す」


すべてが、収束する。


判決――流れを取り戻す者たち


夜明けの光が、石の床に差し込んでいた。


中央神殿。


本来ならば日を改めるはずだった審問は、

“例外”として即時再開されていた。

「一度例外を認めれば、秩序が崩壊する」


ざわめきは収まらない。


当然だ。


証拠が、出てしまったのだから。


中央。


神官たちの前。


ピコハンが掲げるのは、地下水脈から回収された異物。


「水脈操作装置」


その一言で、空気が凍る。


「神殿、水利院の技術体系と一致する」


誰も否定できない。


「……異議あり」


神官の一人が立ち上がる。


「それが神殿のものだという証明は――」


「ある」


遮ったのは、ハリセンだった。


「刻印」


ピコハンが装置の一部を示す。


そこに刻まれているのは。


楔形文字。


「製造記号。水利院の管理印だ」


沈黙。


逃げ場は、完全に消えた。


「……神意を仰ぐ」


神官が絞り出すように言う。


だが。


「もう仰いだ」


ハリセンは一歩も引かない。


「結果がこれだ」


静寂。


その時。


神像の前に座す、最上位の神官が口を開いた。


「……認める」


全てが止まる。


「本件において、神殿側による不正な介入があった」


ざわめきが広がる。


「水脈操作、証拠隠滅、ならびに審問への影響工作」


一つ一つ、断罪されていく。


「よって――」


一拍。


「当該薬の起源は、灰土家に完全帰属する」


空気が、変わった。


「神殿の管理権は、本件に限り無効とする」


完全な撤回。


「また、灰土家による製造・使用・伝承を自由と認める」


歓声が上がる。


だが。


「さらに」


全員が息を呑む。


「本薬を“公共救命資源”として認定する」


ざわめき。


「バビロニア共和国全域において、その使用を許可する」


それは――


一つの村の問題ではなくなった。


「……そこまでやるか」


ナックルが低く笑う。


「引けなくなったんだろ」


ピコハンが言う。


「証拠が強すぎる」


メリーが小さく息を吐く。


「でも、これで……」


アンナが頷く。


「広がる」


ハリセンは、ただ一言。


「十分だ」


■救われたもの


担架が運び込まれる。


昨日、毒を受けた者たち。


灰土の老人が薬を渡す。


震える手。


だが、止まらない。


一人。


また一人。


やがて。


「……助かった」


その声が、広間に響く。


静寂。


誰も否定できない。


それが答えだった。


■記録


書記が石板に刻む。


楔形文字。


「本薬、灰土家起源」


「神殿による不正介入、確認」


「公共救命資源として認定」


刻まれる。


消えない形で。


■終わりではない


「……今回は、な」


神官の一人が呟く。


ナックルが肩を鳴らす。


「次も来いよ」


「その前に考えろ」


ピコハンが返す。


「両方やる」


メリーがまとめる。


アンナは、静かに空を見る。


「……またある」


ハリセンは振り返らない。


「行くぞ」


■結び


奪われたはずの知識は。


流れを取り戻した。


そして。


救われたのは――


灰土の村だけではない。


バビロニア共和国をはじめとした、

多くの人の命だった。


それは、記録された。


だが。


本当に残るのは。


救われた、その一人一人の中にある。


「生きてる」


その事実だった。


赤い閃光は、歩き出す。


次の“理不尽”へ。


「これで本当に良かったのか?」

「救ったと言えるのか?」


善意ではなく政治判断

正義ではなく制度維持

でも結果として救われる

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