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見難い火傷の子  作者: 清風
213/606

夏休みに冒険してみた続き

挿絵(By みてみん)

見難い火傷の子213


夏休みに冒険してみた続き


――青銅の時代。

深淵ダンジョン第十六エリア、第四紀完新世層

この地では、生きるものすべてが八倍の大きさで存在する。


未開拓エリアの境界線。

そこは、匠一リーダーが敷いた「なまけもの技術」の恩恵が途切れる場所だった。


一歩踏み入れた瞬間、空気が変わる。


「……重い」


ピコハンが盾を構え直した。

整流されていない魔力が、肌にまとわりつく。


「ここが未開拓エリアか」


ナックルが拳を鳴らす。

その顔には、退屈を吹き飛ばすような高揚が浮かんでいた。


目の前に広がるのは、文明の残骸と、八倍の原生植物が絡み合う狂った森。

石造りの街道は巨大な樹木に突き破られ、かつてのバビロニアの叡智は、自然の奔放な暴力によって静かに圧殺されていた。


「地図と違う」


アンナがルーペ越しに森の奥を覗く。


「道が……食われてる」


「ハリセン。どうする」


メリーが背後の荷物を確かめながら問う。


ハリセンは森の入り口で足を止めていた。

赤い髪が風に揺れる。

その瞳には恐怖ではなく、かつて感じたことのない「獲物」への飢えがあった。


「――全部、デバッグする」


ナイフを抜く。


「整ってない場所は、バグだらけだ」


その瞬間――


ドンッ!


地面が揺れた。

森の奥から、木々をなぎ倒す轟音が近づいてくる。


「来たぞ!」


現れたのは、八倍の体躯を持つ守護獣――メガ・トータス。

甲羅はまるで小山。

その足跡の一つ一つが、沼地を作る。


「あれを、どうデバッグする気だ?」


ピコハンが苦笑する。


「あれがバグの本体だ」


ハリセンは地を蹴った。


その動きは嵐のようだった。

森の静寂を切り裂き、大亀の視界にすら捉えさせない速度で空へと舞い上がる。


「連携」


指示は一言。


「おうよ!」


ピコハンの爆弾が大亀の足元で連鎖爆発を起こし、動きを止める。

ナックルが木々を蹴って跳び、拳を甲羅に叩き込んだ。


「ぶっ壊れるぜぇぇぇ!」


鈍い音。

甲羅に亀裂が走る。


同時に、メリーが魔力を練り上げる。


「アンナ、ルート!」


アンナは迷いなく空の一点を指した。


「そこ。魔力循環の核」


「もらった!」


ハリセンのナイフが、青白い閃光を放つ。

整流されていない荒ぶる魔力を、“線”でなぞるように切り裂く。


大亀の咆哮が森に響いた。


だが。


「……終わってない」


アンナの声。


崩れたはずの魔力が、再び集まり始める。

地面が蠢く。

木々が動く。

道が変わる。


「再構成してる……?」


メリーが息を呑む。


ハリセンは空中で笑った。


「当たりだ」


「これ、敵じゃない」


「――システムだ」


霧が立ち込めた。

視界が白く閉ざされる。


「ちっ、分断か!」


ナックルの声が遠ざかる。

パーティは散った。


ピコハンは、一人で立っていた。


設置した陣地が、機能しない。


「……固定できない」


地面そのものが揺れている。


「なら」


彼は考える。


「固定するんじゃない。追従させる」


即座に再構築。

動く地面に合わせて陣を変形させる。


「よし、これなら――」


初めて、未開拓に適応した。


ナックルは、霧の中で拳を振るっていた。

だが、手応えがない。


敵が、いない。


「なんだよ……」


苛立ち。


その時、背後に気配。

振り向く。

だが、何もない。


(……違う)


ナックルは目を閉じた。


「位置じゃねぇ」


「“流れ”だ」


魔力の歪みを読む。


次の瞬間。

拳が、何もない空間を捉えた。


衝撃。


「いたな」


見えない敵を、初めて捉えた。


メリーは膝をついていた。

魔力が暴れる。


「整わない……!」


ここでは制御できない。


その時。


(……逆)


整えるのではなく。


「流す」


力を逃がす。

循環させる。

暴走は収まった。


アンナは、森の中心を見ていた。

情報が多すぎる。

処理しきれない。


だが――


一点。

わずかな“繰り返し”。


「……ここだ」


すべてのズレが収束する場所。


「核がある」


霧が晴れる。

全員が、同じ場所に集まった。


中心。

巨大な根。

脈動する魔力。


「これが……」


「バグの本体」


ハリセンが言う。


「古代の自動修復機構」


アンナが続けた。


「壊れたまま動いてる」


「だから全部がズレる」


ハリセンはナイフを構える。


「壊すんじゃない」


「直す」


最終戦。


ピコハンが空間を固定する。

ナックルが核を露出させる。

メリーが魔力を整流する。

アンナが構造を読み切る。


そして――


ハリセンが走る。


赤い軌跡。

ナイフが、核を“書き換える”。


一閃。


音が消えた。


そして――


森が、静まる。


風が吹いた。

道が現れる。

歪んでいた空間が、戻っていく。


未開拓エリアは、完全ではない。

だが――


「動くようになったな」


ピコハンが呟く。


「少なくとも、バグではない」


アンナが頷く。


ハリセンは笑った。


「次行くか」


バビロンの門が見えた。

帰還。


「……遅かったな」


匠一が言う。


ハリセンは答える。


「バグ、多かった」


「どれくらい?」


「全部」


一瞬の沈黙。


そして。


匠一は笑った。


「いいね」


誰も知らない。

この日、未開拓エリアの奥で、一つの暴走が止まったことを。


ただ一つ残ったのは――


赤い閃光が走った、という噂だけだった。

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