ピラミッドと冒険者ギルド
見難い火傷の子206
ピラミッドと冒険者ギルド
――青銅の時代。
深淵ダンジョン第十六エリア、第四紀完新世層
この地では、生きるものすべてが八倍の大きさで存在する。
「では、こちらへ」
ファラオは柔らかな笑みを浮かべたまま、白き巨塔――ピラミッドへと一行を導いた。
外から見上げたそれは山だった。
だが内部へ一歩踏み入れた瞬間、その印象は一変する。
「……広すぎる」
タリアが呟く。
通路は一直線に伸び、壁は磨き上げられた石で構成されている。
継ぎ目は見えず、まるで一枚の巨大な石を削り出したかのようだった。
そして――
「静かだな」
ハンムラビが言う。
音が、吸われている。
足音も、呼吸も、衣擦れさえも、どこかで均され、消えていく。
「ここは“整う場所”です」
ファラオが振り返る。
「マアトの下、すべてはあるべき形に――」
穏やかな声。
だが、その意味は重かった。
通路の途中、石壁に刻まれた巨大なレリーフの前で、カウリが足を止めた。
「……待て」
旅人たちの列。
ナイルを渡り、神殿へ向かう一団。
「人数が……」
数えようとした、その瞬間。
「問題ありません」
ファラオが遮る。
「最初から、その数です」
「……そう、か」
言葉は受け入れた。
だが、胸の奥に小さな棘が残る。
さらに奥へ。
巨大な石室。
光はどこからともなく降り注ぎ、影すら整っていた。
中央には石棺。
周囲には記録石板。
ベリアルが端末で照合する。
「……一致している」
「何がだ?」
「入場記録。人数、時刻、構成……すべて」
わずかな間。
「……余剰がない」
本来あるはずの誤差が、存在しない。
「完璧すぎる……」
「整っているでしょう?」
ファラオが微笑む。
「ここでは、すべてが正しい形に収まるのです」
ピラミッドを出た一行は、そのまま冒険者ギルドへ。
「こちらが当国のギルドです!」
サリアが扉を開く。
内部は賑やかだった。
酒、怒号、笑い声。
“普通”の光景。
「ようこそ」
受付に立っていたのは――サリアだった。
制服に着替え、にこやかに微笑んでいる。
(ここの受付嬢だったのか……)
「依頼、受けますか?」
「確認する」
リーダーは依頼板へ向かった。
サリアは羊皮紙に何かを書き込んでいる。インクがまだ光っている。
「何を書いているんですか?」
カウリが覗き込む。
「旅行者名簿の確認ですよ」
差し出された紙。
そこには――
「……」
人数は、合っている。
最初から、そうだったかのように。
「どうかされましたか?」
「いや……問題ない」
外へ出る。
風が吹く。
ナイルの音が遠い。
「なあ」
タリアが呟く。
「……最初から、この人数だったっけ?」
誰も答えない。
「当然です」
振り返る。
——最初から、ファラオがいた。
「あなた方は、最初からその形です」
穏やかな笑み。
揺るがない断言。
――確定した。
一行は、誰一人欠けていない。
最初から――
そうであった。
依頼板の前で、リーダーが足を止める。
「……ナイル川の『巨大人食いラウ』討伐、か」
「何だ?」
「ちょっと討伐してくる」
ハンムラビが眉をひそめる。
「旅行中だぞ」
「腕が鈍る」
キュロスが笑う。
「自由だな」
だが。
「……依頼、受けたい」
受付へ向かう途中、リーダーの動きが一瞬止まった。
「パーティ名と人数を」
「SS級冒険者パーティ爆炎。人数は――」
「人数は――」
一瞬の空白。
言葉が、出なかった。
「人数は――」
数えたはずなのに、途中から数えられない。
「……最初から、この人数だったっけ?」
誰も答えない。
——名前を呼ぼうとして、やめた。
呼ぶべき名前が、思い出せなかった。
「確認します。――はい、問題ありません。最初からこの人数です」
「……そうか」
「今、一瞬止まらなかった?」
タリアの小さな声。
誰も答えない。
「巨大人食いラウか」
キュロスが笑う。
「八倍世界のナイルなら、さぞ大物だろう」
「ナイルならではの食材だからな」
リーダーも笑う。
何も変わらない。
まもなく戻ってきたリーダー。
「もう終わった」
「は?」
収納袋を示す。
解体所へ移動。
次々と取り出される――巨大人食いラウ。
依頼板の推定生息数は三十六だった。
山のように積み上がる。
その数三十七頭を超えて
それでも、まだ袋は膨らんでいる。
「……どれだけ狩ったんですか」
「ちょっとだけ」
「これは“ちょっと”じゃありません!」
置き場が足りない。
溢れる。
「……SS級冒険者パーティって……」
サリアが呟く。
「冗談じゃなかったんだ……」
解体所の壁、討伐数の板に「36」のチョーク文字があった。
誰かが「7」を書き足して「37」にしていた。筆跡はリーダーのものじゃなく。
その光景は圧倒的だった。
だが。
誰一人として、
“足りないもの”については口にしなかった。
サリアの同僚が奥に走って行った。
血相を変えたヒゲの男が走り出てきた。
ヒゲの男「SS級冒険者パーティと言うのはおまえらか。」
リーダー「そうです」
ヒゲの男「こりゃまた、はでにやったな」
リーダー「誰?」
ヒゲの男「あ、これは失礼した。このギルドのギルド長ハッサンだ」
リーダー「よろしく」
ハッサン「おう」
ハッサン「実はやってほしいことが有る」
リーダー「旅行中だから沢山は出来ないぞ」
ハッサン「SS級冒険者パーティにはたやすい仕事だ
巨大アメミットが群れで出ただけだ。
だがとんでもなく大変な事なんだ。なんとかしてほしい」
リーダー「判った判った。地図が有ったら貰おうか」
ハッサン「はい、これ」
リーダー「では、行ってくる」
………3分経過
リーダー「ただいま」
ハッサンがビクッとした。
「何があった?」
リーダー「終わった」
ハッサン「そうか…やはり」
落胆していた。
落ち込むハッサンを余所に完了手続きと、
裏庭に移動し巨大アメミットが群れを出した。
記録では「群れは十二」。
並べられた死骸も、十二。
——だが、確かに“それ以上”を斬った感触があった。
リーダーはギルドを後にし、旅行社が用意した宿に向かった。
ギルドから「あ゛ーっ」ハッサンの叫び声が上がっていた。




