バビロントレイン
見難い火傷の子201
バビロントレイン
――青銅の時代。
深淵ダンジョン第十六エリア、第四紀完新世層
この地では、生きるものすべてが八倍の大きさで存在する。
バビロン車体は列車を製造していた。
冒険者ギルド傘下のオリエント鉄道は線路を敷設し、
続いて私鉄が立ち上がる。
私鉄メソポタミア鉄道と、私鉄バビロニア鉄道である。
メソポタミア鉄道はシュメール―リディア間を結び、
バビロニア鉄道はエジプト―エクバナス間を結ぶ。
そしてオリエント鉄道は、それらを接続・補完する幹線網だった。
そのオリエント鉄道の、紅海トンネル区間。
エジプト―カリャン線で事件は起きた。
海底を走るその列車は、エジプトとバビロニア圏を結ぶ唯一の幹線だった。
外界から完全に隔絶された移動密室――それがこの路線の正体である。
列車が紅海トンネルに入った直後、通信は途絶えた。
そして次の停車駅に到着したとき、一人の乗客が消えていた。
乗客名簿は完全一致。
途中下車の記録なし。
トンネル区間は外部接触不可能。
監視装置は一部故障。
消える条件は存在しない。
それでも、人は消えた。
問題は単純だった。
「誰がやったのか」
だがその問いはすぐに崩れる。
より根本的な疑問が浮かぶ。
この列車は、本当に“一つ”なのか。
それとも――すでに別の何かに“すり替わっている”のか。
■ 終結
解答は提示されない。
犯人も、トリックも、真相もない。
あるのは、事実だけだ。
車掌の手帳には『定刻』とだけ記されていた。
そしてこの列車は今も、紅海トンネルを走り続けている。
――以上。
読者諸君の解釈に委ねる。




