冒険者学校で募る地獄の一週間
見難い火傷の子188
冒険者学校で募る地獄の一週間
――青銅の時代。
深淵ダンジョン第十六エリア、第四紀完新世層
この地では、生物すべてが八倍サイズで存在する。
冒険者学校の講堂に、生徒たちが集められていた。
ざわめきは小さい。
だが、全員が知っている。
“何かが始まる”と。
爆炎先生――匠一が壇上に立つ。
黒板も、資料もない。
ただ一言。
「精鋭だけを残す」
空気が張り詰めた。
「高等課程の中から選ぶ」
「条件は一つ」
一拍。
「生き残ること」
ざわめきが走る。
誰かが笑いかけて、やめた。
冗談ではないと分かったからだ。
「一週間」
「地獄を見る」
「途中離脱は自由」
「だが戻ってきた時点で失格だ」
沈黙。
逃げ道はある。
だが、それは“終わり”を意味する。
「希望者だけ来い」
「強制はしない」
静かに言い切る。
その言葉が、逆に重かった。
誰も手を挙げない。
当然だった。
誰も動かない中で、
そこだけが“場違い”だった。
一歩。
前に出たのは、初等科だった。
ハリセン。
それに続く、小さな影。
「……おい」
誰かが呟く。
「初等科だぞ」
匠一は、止めなかった。
ただ一度だけ、確認する。
「参加する以上、条件は同じだ」
静かな声。
「途中離脱は失格」
「補助はない」
「死ぬ可能性もある」
一拍。
「覚悟はあるか」
ハリセンは、迷わなかった。
「ある」
その即答に、講堂の空気が変わる。
匠一は頷いた。
「いいだろう」
黒板に、条件が刻まれる。
生き残る=合格
離脱=失格
その文字は、年齢を区別しなかった。
開催初日。
朝五時。
講堂前に集められた生徒たちは、まだ眠そうだった。
そこへ現れたのは――
小さな影。
匠一。
五歳児サイズの体で、奈落珈琲のカップを抱えている。
一口。
啜る。
「これから一週間」
静かに言った。
「本気で地獄を味わわせる」
誰も笑わなかった。
「生き残ったら精鋭だ」
「死にたくなければ、ついてこい」
その瞬間。
訓練は始まった。
一日目:基礎破壊
最初に壊されたのは、“今までのやり方”だった。
ダンの盾が叩き込まれる。
キールの矢が逃げ場を潰す。
マリーの魔法が間を許さない。
「遅い」
一言で否定される。
ハナが治癒する。
「まだ動けるよ〜」
笑顔だった。
逃げ場は、ない。
二日目:温度地獄
極寒。
直後、爆炎。
呼吸が乱れる。
判断が鈍る。
「その一瞬で死ぬ」
ユキが温度を落とし、
爆炎が焼く。
考える暇はない。
三日目:創造と暗器の夜
即席ダンジョン。
出口はある。
だが見えない。
ポンの幻術。
クロの毒。
ニールの暗器。
「正しく見ろ」
だが、視線は嘘を吐く。
四日目:奈落再現
光が減る。
音が消える。
距離感が狂う。
「恐怖で遅れるな」
遅れた者から、倒れる。
五日目:指導
爆炎パーティは、下がった。
「教えろ」
できない。
伝わらない。
連携が崩れる。
――爆炎。
全員が巻き込まれる。
「一人の遅れは、全員の死だ」
誰もが、誰かを責めかけて――やめた。
ここが、一番キツかった。
六日目:総合
実戦。
助けは、ほぼない。
「死にそうなら助ける」
「だが、死ぬ気で来い」
誰も、助けを呼ばなかった。
七日目
朝焼け。
講堂前。
立っている者は、少ない。
全員、ボロボロだった。
一週間前なら、全員死んでいた。
目は死んでいる。
だが。
動きが違った。
無駄がない。
迷いがない。
匠一が、見る。
数を数えない。
“手際”を見る。
「……合格だ」
その一言だけ。
歓声はなかった。
ただ、
立っていられる者だけが、そこにいた。
倒れた者は、動かない。
だが。
誰も、目を逸らさなかった。
——一週間前なら、全員死んでいた。
その中に、
十年後、精鋭と呼ばれる者がいた。
そして。
立てなかった者もまた、終わってはいない。
来年に再起をかける。
闘志は、消えていなかった。




