旅の家庭教師(アルカデメイア)ギルド
見難い火傷の子189
旅の家庭教師ギルド
――青銅の時代。
深淵ダンジョン第十六エリア、第四紀完新世層
この地では、生物すべてが八倍サイズで存在する。
冒険者学校の外部組織「旅の家庭教師ギルド」の職員。
外事部第二隊センコー中尉は、今日も旅の空の下に居た。
人材発掘の旅である。
バビロンの福音が届かない地方を調べ報告が主な任務だ。
時に留まり教師をする。
用間部隊業務の一環。
エリドゥ村を訪れた時、有望な人材に出会う予感がした。
………
シャマシュ村の
アンナとメリーは山のお花畑で花を摘んでいた。
「今日もお花摘みか?」村長の一人息子フセインだった。
アンナ「その言い方、止めて!」
フセイン「なんでだ」
メリー「なんか響きが嫌」
フセイン「わけわかんねぇ」去ろうとした。
すると物陰から青い魔物、ブルーボアが出てきた。
フセインはとっさの判断で二人とボアの間に入った。
フセイン「俺はこう見えて青年団員なんだ。こいつは俺が防ぐ。
しかしブルーボア相手じゃ、ちと荷が重い。村に行って青年団に知らせてくれ。」
アンナ「わかった。知らせてくる。でも無茶しないでよ。いこメリー。」
メリー「うん」
………
使われなくなった水路
崩れかけた神殿跡
割れた粘土板は
ハリセンとピコハンの常の遊び場だった。
探検ごっこ。
エリドゥ村。
かつては人で溢れていたが、今は風の方が多い。
子供たちは走り回っていた。
誰も止める者がいないからではない。
止める理由がなかったからだ。
センコーは見た
水路の一部だけ冷たい
神殿の奥が暗すぎる
音が吸われる場所がある
子供達は気にしなかったが
大人は気づいた。
神殿の縁が崩れた。
誰も叫ばなかった。
ただ、落ちなかった。
教育がない環境
でも育っている
選ばれていない
でも強い
この場所は
「滅びた文明が残した最高の訓練場」
「……遊び、か」
でも内心は
「違うな」
突如、ブルーボア。青い巨獣魔物が襲ってきた。
一歩間違えたら死ぬ相手
先に気づいたのは、音だった。
土が、鳴っている。
青かった。
泥でも影でもない。
それは“色”としてそこにいた。
子供たちはまだ言語化できずとも分かる。
これは、遊びじゃない。
ハリセンは
逃げる前に動いた
仲間を押す or 引く
最短で生存ルート
ピコハンは
地形を見た
水路の流れ
死角
突進。
地面が割れた。
ここで対処の一手
粘土板の崩れで視界遮断し
神殿の段差を使い
水路に落とした。
遊びで覚えた動きがそのまま使えた。
倒さない方が良い事もある。
まずは生き残れたから
気づいたとき、もういなかった。
逃げ切ったのか、見逃されたのか。
誰も分からなかった。
遠くから見ている
センコー「……六歳で、あれか」
そして判断した
こいつらは「教えない」
あの日から、遊びは終わった。
それは福音なしで生きた側となった。
………
隣村で葬式があった。
ブルーボアに襲われたらしい。
死んだのは村長の子
青年団は動いた
自警団も動いた
それでも守れなかった
ここは“安全”ではない。
――野帳(センコー・外事部第二隊)
対象:エリドゥ村 遺構群(水路・神殿跡)
所見:
・水路の一部のみ異常低温(流れの“滞留点”あり)
・神殿奥で音の吸収点(反響が死ぬ箇所。落盤か空洞か)
・粘土板破片に規格外の楔形文字(王令系ではない記号列)
児童:ハリセン、ピコハン(推定六歳)
・初動が“押す/引く”で味方を動かす判断を優先
・地形利用(視界遮断→段差→水路へ落とす)の即応
・“倒さない”選択。生存優先の閾値が明確
判断:教えない。型を入れると癖が死ぬ。観察継続、介入は最小限。
追記:シャマシュ村ブルーボア事案、フセイン(村長子)死亡。
青年団・自警団の初動は妥当だが、情報線が細い。
村落間の警戒網(狼煙・鐘・板木)の再配置を提言。
センコー、野帳を閉じる。「遊びは終わった。ここからは記録だ」
遠くで、割れた粘土板が風に鳴った。




