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「じゃ、しばらくここへは通えないから。礼似さんの許可が下りるまでは、ご無沙汰するね」
香はそう言って、軽く手をひらひらさせながら一樹のところに向かって行く。ハルオは憮然としながら見送った。
「あ、あの人、れ、礼似さんの、む、昔からの、お、お知り合いでしたよね?」
礼似に早速尋ねて来る。
真柴組の前で、礼似は香とハルオに
「込み入った事情で私は組の人間と、少し距離を置く必要があるから、香をしばらく一樹にあずけるわ」
そう言って、一樹に香をハルオの目の前で紹介したのだ。
巧くハルオを煽れと言っただけの事はあって、一樹も若干、香になれなれしげに近づいて行く。
勿論、香の方にも、一樹の事はやや、誇張気味に話してあるし、自分の昔の訳ありの男だと言って、香の好奇心を大いに刺激もしてある。香が礼似の過去に興味があるのは見え見えだから、香も一樹の事は気になるに違いない。ハルオを煽るには絶好だ。
案の定、ハルオの顔色は芳しくない。しめしめ。これはいい感じに事が運びそうだ。
「ええ、腕っ節もいいし、昔から仕事に信頼を寄せられる男よ。ま、ルックスも悪くないし、あれで独り者って言うのも、もったいないわねえ」
「こ、こういう稼業じゃ、ひ、一人でも、お、おかしくは、な、ないですね」
「まあね。でも、香ぐらいの年頃だと、大人の男は見栄え良く見えるでしょうね。堅気、とまでは行かなくても、一樹は一度は足を洗っているし、少なくとも刀使いじゃないしね」
香は刀使いを嫌っている。そこを礼似はわざとついて見せる。
「ハルオ、気になるの? あの二人」礼似もここぞとばかりに聞く。
「れ、礼似さんが、し、信頼している人なら、あ、安心です」ハルオらしい答えだ。
「勿論、仕事の上では信頼できるわ。香にも情報収集能力は養ってもらいたいしね。ただ、男心までは責任持ち兼ねるけど」
この一言でハルオの表情がはっきり変わった。
「そ、そんな危なっかしい人に、なんで香さんを任せるんです?」あからさまな非難の目つきを見せる。
「だから込み入った事情があるの。これはこてつ組の極秘事項に関わるから、あんたには話せないわ。それに、私は香と一樹がくっついたって、ちっとも構わないんだし」
「あっちは香さんより、ずっと、年上じゃないですか!」
おお、どもりが止まったな。これは十分に引っ掛ってくれそう。面白くなってきた。
「あら、大人の男だからいいんじゃない。あいつはあれで、結構正義感もあるし、悪い人間じゃないわよ。香だってせっかくの若い盛りに、いつまでも、刃物使いが嫌いだの、こっちの男は嫌だのって、そんな事にこだわってたら、もったいないじゃない。このまんまじゃ、男嫌いになりかねないもの。こういう時は決断力や、包容力のある大人の男って、いい効果があると思うわ。ぐずぐずしている誰かさんよりはね」