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世界を救える天才令嬢は、自分の救い方だけを知らない ~七年越しの初恋を隠す完璧な婚約者は、彼女だけを取り落とさない  作者: 宵野あまね
エリシア編

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……努力します

王が、静かに立ち上がった。


王冠も豪奢(ごうしゃ)な外套も、この場にはない。非公式の密談だからだ。それでも、この部屋で最も"王"なのは、間違いなくこの人だった。白髪の混じる濃金の髪。タンザナイトの瞳——静かな色なのに深い、夜空の底を覗いているような色だった。


王は、窓のない壁を見た。


その視線が何かを"見ている"ことを、エリシアは何となく理解した。この人はたぶん、見える。壁の向こうも、気配も、隠れたものも。そして——見えていないふりをしている。


「始祖の王女は」


王が言った。


「計算する瞳をしていたと伝わる」


部屋が静かになる。


「理を見た。流れを見た。世界の綻びを見た」


王の声は淡々としていた。

だが、どこか祈りのようでもあった。


「だが——完成しなかった」


タンザナイトの瞳が、設計図へ落ちる。


「数百年、誰にも届かなかった」


その声には、長い長い時間を見送ってきた者だけが知る、静かな寂しさが滲んでいた。


王家は、女神アステリアの直系。だからこそ、分かるのだろう。聖域はただの魔術ではない。国を救おうとした誰かの願い——未完成の、祈りだ。


王はゆっくりエリシアを見た。


「正式に承認する」


静かな声だった。


「国家承認案件とする。完成までは非公開。枢機卿(すうききょう)への通達も制限する」


そして少しだけ間を置く。


「責任は余が負う」


短い言葉だった。


けれど、重かった。


「お前たちではない。王が決める」


公爵が深く頭を下げる。


宰相も静かに目を伏せた。


王は再びエリシアを見た。


その視線は、不思議と厳しくなかった。


「——娘」


エリシアは少しだけ瞬きをした。


「はい」


「己を、数に入れよ」


部屋が静かになる。


エリシアは、その意味を少し考えた。


だが、完全には分からなかった。


「……努力します」


そう答えると。


王の目元が、ほんのわずかだけ緩んだ。


「難しい顔をしたな、公爵」


「しておりますな……」


公爵が低く返す。


「昔からああなのです。『努力します』と言う時は、大抵もう止まってくれん」


「知っている」


王が言った。

その返答が妙に早くて、エリシアは少し不思議だった。


宰相が立ち上がった。


「うまくいくといいですね」


穏やかな声だった。


けれどその奥には、"君が無事でいる形で"という条件が、きちんと入っていた。


エリシアには、何となくそれが分かった。


「はい」


宰相が退出した。


王も奥へ向かった。


去り際、王は振り返らずに言う。


「ラインハイト公」


「は」


「その娘を、泣かせるな」


短い言葉だった。


公爵は一瞬だけ目を閉じた。


「——御意」

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