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『世界史赤点の俺。なぜか南北戦争の将軍になってしまった件』  作者: 西住
第一部 南北戦争に飛ばされた俺

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第八話 揺らぐ戦線

 ——朝から戦場は騒がしかった。


 橋の前に展開した北軍は、南軍の防衛線を正面から押さえつけていた。


 銃声が断続的に響く。


 砲撃が土を抉る。


 だが、どちらも決定打にはならない。


「……また膠着か」


 俺は土嚢の後ろで呟いた。


『嫌そうな顔してるわね』


「そりゃそうだろ……」


 守護霊の声は相変わらず軽い。


 だが、戦場は軽くない。


 ここ数日でそれだけは嫌というほど分かっていた。


「将軍!」


 スミス小隊長が駆け寄ってくる。


「予定通り、陽動部隊が前線に展開しました!」


「陽動?」


「敵正面を引きつけるための攻撃です!」


「……いや俺そんな命令出したっけ?」


 一瞬、スミスが固まる。


 そして次の瞬間。


「……さすがです」


「は?」


「敵の注意を正面に集中させ、その間に別動隊を動かす高度な戦術ですね!」


「いや違うって!」


『もう諦めなさい』


 守護霊が即答した。


 まただ。


 また勝手に“戦術”に変換されている。


 だが現実には、それが機能してしまっていた。


 正面の銃声が激しくなる。


 南軍の注意は完全に橋前線に向いている。


「今です!」


 スミスが叫ぶ。


「側面部隊、進撃開始!」


 その瞬間だった。


 山の左側に配置された部隊が、一斉に動き出す。


 霧の中を縫うように進む兵士たち。


 銃剣が光る。


 そして——。


「敵側面に接触!」


「撃てぇぇ!!」


 乾いた銃声が山の斜面に響いた。


「よし……通った」


 思わず声が漏れる。


 だが、同時に違和感があった。


 何かがおかしい。


 説明できない。


 ただ胸の奥がざわつく。


『来るわね』


「何がだよ」


『“嫌なやつ”』


 その時だった。


「伝令!!」


 後方から兵士が駆け込んでくる。


「報告! 敵側後方より増援確認!」


「増援?」


 スミスの声が一瞬で変わる。


「誰だ」


 兵士は息を切らしながら叫んだ。


「——ジャクソン将軍率いる部隊です!!」


 その瞬間。


 戦場の空気が変わった。


「……ジャクソンだと?」


ジャックの顔色が一気に青ざめていた


「嘘だろ……」


「ここに来るのか……?」


 周囲の兵士たちもざわめく。


 名前だけで空気が変わる。


 それほどの存在なのか。


「ジャクソンって誰だ?」


 俺が聞くと、スミスが即答した。


「南軍で最も危険な指揮官の一人です」


「最も?」


「はい。彼が戦場に現れると戦況が覆ると言われています」


 ……それ、もう人間じゃなくないか?


『評価が神格化してるわね』


 守護霊が呟く。


 だが、その神格化が戦場では現実になる。


「将軍!」


 スミスが叫ぶ。


「今のうちに敵主力を叩きますか!?」


「え?」


「ジャクソンが到着する前に決着を!」


 一瞬、迷う。


 だが、胸の奥で何かが引っかかった。


(今潰せばいい)


(戦力が分散している今なら)


 理由は説明できない。


 でも、そう“思った”。


「……進め」


「了解!!」


 命令は即座に実行された。


 側面部隊がさらに前進する。


 正面では陽動部隊が敵を押さえ続けている。


 状況は、確実にこちらへ傾いていた。


「敵前線、後退しています!」


「押してるぞ!!」


「このままいける!」


「ジャクソンと言えども多勢に無勢

 この兵力差の前にはどうしようもなかったと言うことだな」


 ジャックの顔は先ほどとは打って変わって

 晴れ晴れとしていた


 だがなぜだ?その言葉を

 俺は素直に受け取れなかった


 歓声が上がる。


 誰もが勝利を確信し始めていた。


 俺自身も——少しだけそう思っていた。


 その時だった。


 後方の伝令が、血相を変えて駆け込んできた。


「報告!!」


「今度は何だ!」


「首都方面にて南軍旗を確認!!」


「……は?」


「多数の部隊が移動中! こちらへ接近の可能性あり!」


 一瞬で空気が凍る。


「バカな……ここから後方には南軍はいなかったはずだ!」


 スミスの声が震える。


 だが伝令は続けた。


「偽装の可能性があります! 別動隊の可能性も!」


 その瞬間だった。


 前線の歓声が止まる。


 代わりに広がるのは、不安と動揺。


「撤退するのか……?」


「いや、まだ戦えるはずだ……」


 だが、誰も確信を持てない。


 そして——。


 俺は気づいた。


 この戦場全体が、“見えない何か”に誘導されている。


「……嫌な感じがする」


 その呟きは、誰にも届かなかった。


 ただ、遠くで銃声が一つだけ大きく響いた。


 戦況は、まだ崩れていない。


 だが確実に——戦場の空気は変わっていた。


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