第七話 黒煙
——ブオォォォ……
低い音が、霧の向こうから響き続けていた。
兵士たちの顔から笑みが消える。
橋頭保を奪還した直後だというのに、空気が一気に張り詰めた。
「なんだ……あの音」
俺が呟くと、ジャックが耳を澄ませた。
「……何か動いてますね」
その時だった。
「伝令!!」
山側から騎兵が全速力で駆け下りてきた。
馬の蹄が地面を叩く。
兵士たちが慌てて道を開けた。
「将軍!!」
「え、俺!?」
騎兵は馬から飛び降りると、息を切らしながら叫んだ。
「黒煙を確認! 鉄道線路上を大型車両が接近しています!」
「鉄道……?」
その瞬間。
嫌な予感が確信へ変わる。
「まさか——蒸気機関車か!?」
周囲の兵士たちがざわついた。
「機関車?」
「兵員輸送か?」
「補給列車では?」
だが俺だけは理解していた。
鉄道はヤバい。
この時代において、兵士と物資を高速で大量輸送できる兵器だ。
つまり。
「南軍の増援か……!」
『顔真っ青よ?』
「当たり前だ!」
あんなものが到着したら、せっかく奪った橋頭保が吹き飛ぶ。
するとスミス小隊長が真剣な顔で口を開いた。
「将軍。騎馬隊を追加で出しますか?」
「え?」
「敵規模の確認を」
「いや、それは……」
考える。
正直、軍事知識なんてほとんどない。
だが、鉄道を自由に動かされたらまずいのだけは分かる。
その時。
スミスがハッとした顔になった。
「……なるほど」
「え?」
「将軍は既に騎馬による索敵を前提としておられたのですね!」
「いや、違——」
「素晴らしい先見性です!」
また始まった。
『もう止まらないわねこれ』
守護霊が遠い目をする。
だがスミスは既に動いていた。
「騎馬隊! 山側監視を継続! 砲兵隊を前線へ急行させろ!!」
「了解!!」
兵士たちが一斉に動き始める。
「ちょっ、待て!?」
俺の知らないところで作戦が進んでいく。
しかし数分後。
霧の向こうから、ついに“それ”が現れた。
黒煙。
蒸気。
そして鉄の塊。
蒸気機関車だった。
「うわ……本当に来た……」
線路の上を、轟音を立てながら進んでくる。
大量の大砲が窓から見えていた
さらにその後方には貨車まで連結されていた。
兵士か。
物資か。
それともこの列車で橋頭保事潰す?
どちらにせよ最悪だった。
「砲兵隊到着!!」
背後から怒鳴り声が響く。
騎馬部隊によって急行させられた砲兵
いや正確には騎馬部隊の馬を使って派遣された、
大砲を展開し始めていた。
重い砲身が線路方向へ向けられる。
スミスが叫んだ。
「将軍! ご命令を!」
「ええぇぇ……」
なんで毎回こうなるんだ!?
だが。
ここで撃たなければ終わる。
俺は半ばヤケになって叫んだ。
「と、とにかく撃て!! 線路ごと壊せ!!」
「撃てぇぇぇぇ!!」
次の瞬間。
複数の大砲が火を吹いた。
轟音。
衝撃。
白煙。
砲弾が線路周辺へ着弾する。
そして——。
蒸気機関車の前方で、大爆発が起きた。
「命中!!」
兵士たちの歓声が響く。
線路が吹き飛び、機関車が大きく傾く。
さらに追撃の砲撃。
ドォォォン!!
鉄片が空中へ舞った。
黒煙が立ち昇る。
「やったぞ!!」
「止めた!!」
「機関車を撃破したぞ!!」
歓声が戦場を包む。
俺は呆然としていた。
「……マジで壊した」
『あなた今さら何言ってるのよ』
だが次の瞬間。
背後から低い声が聞こえた。
「見事だ」
振り返る。
そこには、本隊司令部の将校たちが立っていた。
その中央にいた男が、静かにこちらを見る。
「鉄道輸送を先読みし、騎馬索敵と砲兵を連携させたか」
いや違う。
半分ぐらい勘違いだ。
「実に興味深い」
将校は地図を広げる。
そこには大きく、一つの地名が記されていた。
——ブルラン。
「本司令部は、次なる作戦を開始する」
周囲の空気が変わる。
将校は真っ直ぐこちらを見た。
「貴官には、マクドウェル将軍と同格の戦時特例指揮権が与えられる予定だ」
「…………は?」
思考が止まる。
いや待て。
なんでそうなる。
俺、数日前まで一般人だぞ?
守護霊が静かに呟いた。
『……完全に歴史変わり始めたわね』
「そんな歴史いらねぇよ。
俺はただ生きて現代へ帰りたいだけだ」
俺は守護霊に向けて叫んだが守護霊はただ一言
『諦めなさい…。』
そう言って目の前から消えた
「…もう将軍職なんてこりごりだ!!」
そう俺は叫んだが、周りのお偉いさん方は
希望に満ちた目で俺を見ていた




