第六話 突撃
橋頭保攻略戦は、完全に膠着していた。
川を挟んだ南軍の防衛線は固く、こちらが前へ出れば銃弾が飛んでくる。
かといって動かなければ、相手の砲撃が飛んでくる。
まるで睨み合いだった。
硝煙の臭いが風に混じる。
遠くで負傷兵の声が聞こえた。
「……これ、いつ終わるんだ?」
俺は土嚢の裏で頭を抱えていた。
正直、もう帰りたい。
現代に。
スマホとコンビニのある平和な世界に。
『また情けない顔してるわね』
「うるさい……」
守護霊が呆れた顔をする。
だが怖いものは怖い。
今も目の前では、銃弾が普通に人を殺しているのだ。
すると隣にいたジャックが双眼鏡を覗きながら呟いた。
「敵、かなり疲弊してますね」
「わかるのか?」
「はい。射撃間隔が遅い」
言われてみれば、確かにさっきより銃声が減っている。
弾薬か。
それとも兵士の疲労か。
どちらにせよ、戦況は止まっていた。
その時だった。
前線側から怒鳴り声が響いた。
「このままじゃ埒が明かねぇ!」
「突っ込むぞ!!」
「え?」
次の瞬間。
数人の北軍兵が塹壕から飛び出した。
銃を掲げながら、橋へ向かって走り始める。
「Chargeeeee!!」
兵士たちの叫びが響く。
その瞬間だった。
『天皇陛下ばんざぁぁぁい!!』
「なんでだよ!!?」
俺は思わず絶叫した。
周囲の兵士たちが一斉にこちらを見る。
「将軍!? どうされました!?」
「いや違う! 今の翻訳おかしいだろ!」
『勢い的にそんな感じかなって』
守護霊は悪気のない笑顔を俺に向けた
「雑か!!」
こんな緊張感のある戦場で何やってんだこいつ!?
だが。
その混乱の中で、一つの変化が起きていた。
「敵が怯んでるぞ!」
「今だ! 続けぇぇ!!」
最初は無謀に見えた突撃だった。
しかし、膠着していた南軍側は反応が遅れた。
北軍兵たちは勢いのまま橋へ雪崩れ込む。
銃声。
怒号。
白兵戦。
橋の中央で兵士たちが激突した。
「うおぉぉぉ!!」
「押せぇぇ!!」
完全な乱戦だった。
スミス小隊長が剣を抜きながら振り返る。
「将軍! 今なら突破できます!」
「いや俺に聞くなって!」
「ご命令を!!」
なんで毎回こうなるんだ!?
だが。
ここで止まれば、前に出た兵士たちが孤立する。
俺は歯を食いしばった。
「……援護しろ! 突撃部隊を死なせるな!」
「了解!!」
北軍兵たちが一斉に射撃を開始する。
銃煙が橋を覆った。
その隙に、突撃した兵士たちが南軍防衛線へ飛び込む。
直後。
南軍側が崩れた。
「敵が下がったぞ!!」
「橋頭保を突破した!」
歓声が上がる。
兵士たちが一気に前進を始めた。
そして——。
ついに北軍は、橋の向こう側へ到達した。
スミス小隊長が興奮したように叫ぶ。
「やりました将軍!」
「……え?」
「橋頭保の奪還に成功しました!!」
周囲の兵士たちも歓声を上げる。
「勝ったぞ!!」
「南軍を押し返した!」
「将軍万歳!!」
「だから俺は何も——」
『もう無理ねこれ』
守護霊が遠い目をする。
その時だった。
——ブオォォォ……
低く、重い音が響いた。
まるで地面の奥から鳴っているような、不気味な音。
歓声が止まる。
兵士たちの表情が変わった。
「……なんだ?」
「今の音……」
俺も思わず振り返る。
霧の向こう。
川の先。
何かが、こちらへ近づいてくる気がした。
そして俺は、嫌な予感を覚えていた。




