第五話 北軍本隊
ドォォォォン——!!
腹の底を揺らすような轟音が響いた。
町の窓ガラスが震える。
兵士たちが一斉に身構えた。
「なんだ!? 今の!」
俺は反射的に外を見る。
するとスミス小隊長が、目を見開いたまま川の向こうを指差した。
「……あれは」
「敵か!?」
「いえ——」
スミスの表情が変わる。
「北軍旗です!」
「……は?」
霧の向こう。
川沿いの街道に、無数の青い旗が見え始めていた。
騎兵。
砲兵。
補給車両。
そして長く続く歩兵隊列。
今まで見てきた小部隊とは、規模が違う。
「うわ……」
思わず声が漏れる。
『本隊ね』
守護霊が静かに呟いた。
『ここから先は、“本物の戦争”よ』
その言葉に、背筋が冷える。
すると町中の北軍兵士たちが歓声を上げ始めた。
「援軍だ!」
「本隊が来たぞ!」
「助かった……!」
中には涙を流している兵士までいる。
それだけ、今の戦いがギリギリだったのだ。
やがて先頭の騎兵隊が町へ入ってきた。
統率された動き。
揃った装備。
今までの義勇兵中心の部隊とは明らかに違う。
「……正規軍か」
ジャックが小さく呟く。
その後ろから、一人の壮年将校が馬に乗ったまま現れた。
鋭い目つき。
整った軍服。
そして、場慣れした空気。
“本物”だった。
将校は町の様子を見回し、低い声で言った。
「ここを奪還した指揮官は誰だ」
一瞬で静まり返る。
嫌な予感がした。
そして次の瞬間。
スミス小隊長が全力で俺を指差した。
「こちらであります!」
「お前ぇぇぇ!?」
兵士たちの視線が一斉に集まる。
逃げたい。
今すぐ逃げたい。
しかし将校は真っ直ぐこちらへ馬を進めてきた。
「貴官が指揮官か」
「い、いやその……臨時というか偶然というか……」
「山岳地形で散開戦術を用い、側面から敵陣を崩したと聞いた」
え。
なにその格好いい説明。
俺そんなことした?
「さらに被害を抑えながら町を奪還したとも」
違う違う。
なんか流れでそうなっただけだ。
だが周囲の兵士たちは真顔だった。
スミスなど、完全に尊敬の眼差しでこちらを見ている。
「見事な指揮でした!」
「だから違——」
『もう諦めなさい』
守護霊が真顔で言った。
将校はゆっくり頷く。
「名は?」
「……え?」
「貴官の名を聞いている」
一瞬、言葉に詰まる。
だがここで黙るのも不自然だった。
「…………」
俺は観念して名乗った。
将校は静かに頷く。
「覚えておこう」
その一言だけで、胃が痛くなった。
すると将校は地図を広げた。
「この先にある橋頭保都市——ここが南軍の補給線だ」
地図上には、大きな川と橋が描かれている。
そして、その周囲には大量の敵兵配置。
「本隊は明日より攻略作戦を開始する」
町の空気が一変した。
今までの小競り合いとは違う。
本格的な戦いが始まる。
将校は周囲を見回し、最後にこう言った。
「諸君らの戦果により、我々は前進拠点を得た」
その言葉に、兵士たちの表情が変わる。
誇らしさ。
安堵。
そして高揚。
だが俺だけは違った。
心の中で思う。
——待ってくれ。
なんで話がこんな大きくなってるんだ?
速く…速く現代へ帰りたい……




