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『世界史赤点の俺。なぜか南北戦争の将軍になってしまった件』  作者: 西住
第一部 南北戦争に飛ばされた俺

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第四話 山の上の敵

 銃声は止まなかった。


 乾いた発砲音が山に反響し、霧の中へ消えていく。


 硝煙の臭い。


 土に倒れた兵士たち。


 さっきまで現実感のなかった戦場が、今では嫌になるほど現実だった。


「将軍! 敵は山側を維持しています!」


 スミス小隊長が叫ぶ。


 谷側にいるこちらは完全に不利だった。


 南軍は高所から撃ち下ろしている。


 対して北軍は、見上げながら前進しなければならない。


 最悪の形だった。


「……なんでこんな場所で戦ってるんだよ」


『それを今さら言う?』


 守護霊が呆れた声を出す。


 だが、本当にそう思った。


 こんなの正面から突っ込んだら、ただの的じゃないか。


 その時だった。


 山の斜面に広がる森が目に入る。


 深い木々。


 濃い霧。


 視界の悪い斜面。


 ——あれ?


「……もしかして」


 俺は思わず呟いた。


「将軍?」


「スミス。あの森、敵から見えるか?」


「は?」


「あの山の横だよ!」


 スミスが目を凝らす。


「……いえ。霧が深く、ほとんど見えません」


 その瞬間。


 頭の中で何かが繋がった。


「だったら話は簡単だ」


「え?」


「部隊を散開させろ。森の中を進ませる」


 一瞬。


 スミスの顔が固まった。


「さ、散開……ですか?」


「隊列を組むな。木を盾にして進め」


「しかしそれでは統率が——」


「いいからやれ!」


 俺は山を指差した。


「正面から登れば撃ち殺される! だったら見えない場所から近づけばいい!」


 沈黙。


 兵士たちが顔を見合わせる。


 当時の戦術としては異常だった。


 だが。


 スミスはゆっくり敬礼した。


「……なるほど」


「え?」


「敵の射線を切りながら接近するおつもりなのですね!」


「いや、そんな大層な——」


『また始まったわね』


 守護霊が呆れる。


 しかし命令は即座に実行された。


 北軍兵たちは隊列を崩し、小集団ごとに森へ散っていく。


 木々の間を縫うように進みながら、少しずつ山を登り始めた。


 そして数分後。


 山の上から悲鳴が響いた。


「なっ!? 敵が横にいるぞ!」


「北軍だ!」


 混乱した南軍の声。


 直後。


 銃声が連続した。


 バンッ! バンッ! バンッ!


 スミスが目を見開く。


「敵陣が崩れています!」


「え、本当に?」


 俺自身が一番驚いていた。


 だが高所を取って油断していた南軍は、横から現れた北軍に対応できなかった。


 やがて灰色の軍服が山を下り始める。


「敵が撤退しています!」


 歓声が上がった。


 兵士たちの顔に、生気が戻る。


 スミスは興奮した様子で叫んだ。


「将軍! 追撃すれば麓の町を奪還できます!」


「町?」


「はい! この周辺の補給拠点です!」


 俺は思わずジャックを見る。


「……どうする?」


「ここまで来たら行くしかないだろう?」


 嫌な笑顔だった。


 数時間後。


 北軍は南軍を押し出し、小さな町を制圧した。


 歓声が響く。


 兵士たちは勝利に沸いていた。


 だが——。


 町の中央から見えた光景に、俺は言葉を失った。


「……なんだ、あれ」


 川の向こう。


 巨大な橋。


 そして、その先に広がる大きな町。


 煙突。


 兵士。


 砲台。


 無数の南軍旗。


 スミスが険しい顔で呟く。


「南軍の橋頭保です」


「橋頭保……?」


「この地域最大の拠点です」


 つまり。


 今の勝利なんて、前哨戦に過ぎない。


 守護霊が静かに呟いた。


『……本番はこれからってことね』


 遠くで大砲の音が響いた。


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